20話 魔神の願い

一つ目の宝玉を手に入れ、壊すことに成功した優達はロキア帝国北部の森で野宿をすることになった。

「いいかミーシェ、俺の感触がどれぐらいお前の姉さんに似ているかは知らないが強く抱きつきすぎだ。」

「…うう…だってぇ…」

「そしてほっぺに顔をスリスリするんじゃない!なんかもう色々とやばくて寝れなくなるんだよ。(まあ悪くは無いが…)」

「…ごめんなさい。」

「…抱きついてもいいが軽めにな。」

「ほんと?抱きついていいの?」

「…ああ。」

「わぁー!ユウありがと!」

「それよりもこれからだが…」

「うん。どこ行く?」

「次からはピルーク王国を目指す形で1番近いスフラン王国に行く。そして宝玉を手に入れる。」

「スフランね。わかった。」

「多分俺達がスフランにつく頃あたりに勇者も到着していると思う。誰が来るかは知らんが、殲滅する。」

「…そうだね。そのための旅だもんね。」

「ああ。」

「とにかく明日には出る。しっかり準備しとけよ。」

「うん。」

「じゃ、おやすみ。」

「おやすみなさい。」



目が覚めた。

自称神に呼ばれた時と似ているが辺りは森なので違うと分かった。

ただ目が覚めただけか…。トイレ行くか。

起きようとしたが体が動かない。

またか…ミーシェ。

見るとがっちりホールドされていた。いや、トイレに行きたいんだが…

まあこれはこれで幸せではあるが。

「あなたが藤山優ね。」

「誰だ!」

声がした方に目を向けるとミーシェによく似た綺麗な女性がたっていた。

「そう警戒しなくても大丈夫よ。何もしないわ。」

「あんたは…」

「私はサラ。ミーシェの姉よ。」

「は?ミーシェの姉ってことは…魔神か?封印されてるはずじゃ…」

「もちろんそうよ。あなた達が宝玉を一つ壊してくれたおかげで少しの間だけあなたの前に顔を出すことが出来たのよ。」

「…待ってろ。今ミーシェを起こすから。」

「いいえ。ミーシェには黙っててくれる?」

「…ミーシェはあんたに会いたがっているぞ。」

「どうせ直ぐに私は消えるもの。少しの間姿を見せてもまたミーシェに辛い思いをさせるだけよ。」

「そうか…それで?今こうして俺の前に現れたのには理由があるんだろ?なんか用か?」

「理由なんてないわ。強いていえばあなたを確かめたかったの。あなたにミーシェを任せてもいいのかをね。」

「…妹のことなら心配するな。俺が守ってやる。」

「…どうやら妹もあなたのことを信頼しているようね。安心したわ。…それよりもなぜミーシェはあなたに抱きついているの?あなた…ミーシェに何かした?」

「お、おいおい待て!なぜそうなる。抱きついてきたのはミーシェからだからな?」

「ふーん。」

「絶対しんじてないよな?」

「そりゃあ心配にもなるわよ。妹が私の知らない男に抱きついて寝ているんだもの。」

「はぁ…俺に抱きついて寝るとあんたと寝てた時のことを思い出してぐっすり寝られるんだと。」

「ミーシェったら…まだあの癖が治ってなかったのね…」

「おかげでこっちは理性が張り裂けそうなんだ。」

「…妹に何かしたら、封印ぶち破ってでも殺しに行くわよ。」

「じゃあその場合手を出した方がいいのか……って冗談だから!魔法の詠唱を止めてくれ!」

「…別にあなたに不満があるわけじゃないわ。ミーシェがあなたのことを認めれば私はなんの文句もないわ。」

「別に手を出すなんて言ってないからな?」

「出さないの?」

「出さねえよ!…あくまであっちが認めるまではな。」

「そう…そろそろ時間だわ。私は消える。」

「そうか…」

「…悲しむことはないわ…宝玉を壊せばまた会えるわよ。それにあなたとミーシェが私を助けてくれるんでしょ?」

「別に悲しんでねぇし。…絶対に助け出す。」

「ふふ…ありがとう。…あの娘のこと、頼むわね。別に私の封印が解けなくても構わない。でもミーシェのことは守ってあげて。」

「心配するな。ミーシェは守るしあんたも助け出してやるさ。」

「頼もしいわね…待ってるわ。またいつか。」

「ああ、またな。」

サラは光の粒子となって消えてしまった。

「さて…そろそろ苦しいな…」

そう言ってミーシェの方に目をやる。

「…えへへ…お姉ちゃん…ユウ…」

「ふ…こいつだけは絶対に守ってやらねえとな…おやすみ、ミーシェ。」





夜が開けた。

「おーきーろー。おーいミーシェ?」

「ん…おはようユウ…」

「ああ、おはよう。適当に魔物の肉焼いて飯作ったから食えよ。」

「うん。それよりも聞いてユウ。昨日お姉ちゃんの声が聞こえたんだぁ…夢かもしれないからわかんないけど…」

「そうか…良かったな。」

「うん!」

「食ったら少し休んでスフランに向かうからな。」

「分かった。」


「よし、行くか。」

「うん。準備は出来てます!隊長!」

そう言って敬礼のポーズをとるミーシェ。

何だこの可愛い生物は…

「お、おうそうか…行くぞ。」

「むー、微妙な反応…のってくれてもよかったのにー…」

「馬鹿行ってないでとっとと行くぞ。」

「はぁい…」

「そう言えばスフランに着くまでは、野宿でいいか?まぁ近くの村とかで宿は借りられると思うが…」

「私はどっちでもいいよ。」

「そうか…じゃあ状況によりけりってことで。」

「うん。」

こうして2人は次なる目的地、スフランに向けて旅立ったのだった。



ピルーク王国大広間


「王女様、ロキア帝国襲撃の犯人はまだ見つからないのですか?」

「…はい。何分騎士団不在では見つけ出すのは困難かと…」

「そうですか…」

ピルーク王国の広間では勇者と王女の間で連日会議が行われていた。ロキア帝国の事件についてだ。

「僕達は既に戦えるぐらいまでレベルも上がりました。七大王国に向かうのなら早い方がいいかと。」

「そうですね…でしたら担当を決めてしまいましょう。ロキア帝国に行く必要はもう無くなり、魔王領の宝玉は魔王が届けて頂けるので心配はありません。ここの護衛も含めて5つのグループに別れて頂くのがいいと思うのです。」

「そうですね。僕達もそれで異論はありません。」

「ではそういうことで。」

話し合いの結果天城達のグループはギリース共和国に向かうことになった。スフランに向かうのは神崎という、橘の取り巻きだった男子生徒がリーダーのグループだ。こうして今日の会議は終了した。


その夜。

「…菜々。起きてる?入ってもいい?」

「由希ちゃん?いいよ、入って」

松山は江ノ島の部屋に訪れていた。

「なんか用事?」

「…私達はギリースを目指しながら藤山くんを探すのよね…」

「…うん。絶対に見つけてみせる。」

「…菜々は…藤山くんが消える直前に私たちに言った言葉を覚えてる?」

「覚えてるよ…復讐してやる。でしょ?」

「…私たちが藤山くんを見つけたところで藤山くんが私たちの話を聞いてくれるか分からないわよ?それでも藤山くんを見つけ出す?」

「うん。その時は私が説得してみせる。」

「…そう。わかったわ。そろそろ戻るわね。…おやすみ。」

「うん。またいつでも来て。おやすみ。」

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