魔女の迷宮 B10
『ティロリロリン、ダンジョンの踏破を確認しました。』
ダンジョン最深部に設置された記録装置にメダリオンをかざすことで、軽快な音楽と共にダンジョン踏破が正式に実績として記録される。
これで今回のダンジョニングは完了!ということだ。
「マキ、今回は地下10階までよく頑張ったね、もう一人前のダンジョニストだ。」
本当に、マキはもうどこのダンジョンでも通用するだろう。いつまで私の後に付いて来てくれるかと考えると寂しくもある。
「さて、ダンジョンは帰り道が一番危ないので油断しないように戻ろう。」
「はい、じゃあ……あれ、なんか聞こえません?」
確かに耳を澄ますと何か聞こえる。これは……救難信号?
ビビビ、ビービビー、ビビビ、ビービビーと、この独特の音とリズムは、近くの人間に助けを求める合図だ。
「あっちです、行きましょう!」
真っ先にマキが駆け出し、私も後に続く。いくつかの角を曲がった先の通路に救難信号の主が居た。
魔法使いっぽい風体の男で、血を流しながらモンスターの攻撃に耐えている。
そのモンスターというのが、全く見たこと無い、攻略本にも載っていない奇妙な姿。巨大な水晶球に無数の蜘蛛の足だけが生えている不気味な生物だ。蜘蛛の足の先から次々と光る弾を発射している。
マキが男とモンスターの間に割って入り、蜘蛛の足から発射される光弾を盾で受け止めた。
「っ!気をつけろ!そいつは11階のモンスターだ!」
男が叫ぶ。
ここは10階、このダンジョンの最深部だのに、11階?
疑問はあるが、とにかく暴れるモンスターを止めなければ始まらない。
「
まずは地面から石の柱を出す呪文でダメージを与え、動きを止める……と思いきや、なんと奴の足元で石の柱は全て砕け散ってしまう。
他にもいくつか魔法を使ってみるが全て敵に到達する前に四散する。
「こいつ……魔法無効だ!マキお願い!」
ごく稀に、魔力量や術式に関係なく、あらゆる魔法を無効にするモンスターが居る。どうやらこいつもその一匹らしい。そういう相手に対しては戦士の肉弾戦に頼ることになる。
だが、そのマキの剣も何か力場のようなものに押されて横に流され、また押し止められて相手の体まで全く届いてない。
こいつは防御が馬鹿みたいに固いんだ、こういう場合は単純な力比べになってくる。マキの筋力はそれほど強くないので魔法で底上げして、武器は強化しても無効にされそうだからその分も肉体強化に回して……
と次々に強化魔法をかけている時に、敵が全ての足をピンと張り詰め今までに無い動きをする。
危険を感じた私は距離をとり、マキは盾を構えた。
次の瞬間、想定を越える衝撃波が全方位に発せられ、私達は回避不可の攻撃を受けて吹っ飛ばされてしまい、壁に打ち付けられる。
背中を打って息が止まる、マキの取り落とした武器がガランと音を立てて転がる。
「ぐっ、マキ、無事!?」
「は、はい……でもこいつ強いです、このままじゃ……」
確かに攻撃も防御も上を行かれている、かといって背後にヘルプを求めている人が居るので逃げるわけにもいかない。打つ手はまだあるけど通用するかどうかは怪しいところだ。
「……仕方ない。もうダンジョンはクリアしたから、縛りを止めることにしようか!」
私はマキの取り落とした剣を拾い上げる。マキは私の杖を取る。
するとメダリオンから軽快な音が流れ始める
ティンティロリロリロリロリロリロ……
クラスを補正しました。
『ダイヤモンドクラス』です。
2人のメダリオンは金色から虹色に煌く色に変化する。
ダイヤモンドクラスはメダリオンが指し示す中で最高のクラス、英雄となりえる者のクラス。
宝石クラスになると解放されるメダリオンの『お召し替え』の機能を使い、私たちはその装いを変える。
鉄色の鎧姿だったマキは、銀の糸を織り込んだ黒と銀のローブ姿に。
白いマントに包まれていた私は、青を基調とした鎧に身を包む。
マキは
これが私たちの本当のクラス、本当の戦闘スタイル、私が最強と考える
マキを初級ダンジョンから案内するに当たって封印してきた能力を、今すべて解放する!
「はっ!!!」剣の先端に気迫をこめて繰り出す突きはまたもや謎の力場に押し返されるが、斬り付けた時に比べて力を受ける面積が少ない分、切っ先が敵の本体に到達して僅かに傷を付ける。
弾かれた私はそのまま空中で1回転して着地し、攻め手を交代。続いてマキの魔法が放たれる。それは蜘蛛糸ように極細に形成された魔力の槍だ。
その槍は寸分違わず私のつけた傷を直撃、そのボディを貫通して敵を床に串刺しにする。
私はモンスターの後ろに回りこんで再び突きを繰り出すと、串刺しにされたダメージのせいか力場は発生しておらず、今度こそ剣が深々と敵の体に突き刺さる。
「必殺!剣陣剣!」
突き刺さった剣を中心として魔方陣が広がり、その円周上を光の剣が駆け抜けていく。
しばらく魔法を中心にして戦っていた時に考案した新技の魔法剣は、敵の体をズタズタに切り裂いていく。
「マジックインフレーション」
マキは敵に突き刺さったままの槍に更に魔力を注ぎ込み、蜘蛛の糸程だった槍の太さはみるみるうちに敵の体躯を上回る。
内外からの攻撃に耐え切れず、モンスターの体はバラバラに砕け散った。
戦闘終了である。
「す、凄い……!」
救難信号を出していた男が呆然とする。
そういえば倒してしまったけど、このモンスターは一体何だったんだろうか?
傷を治し、お礼と共にクザワと名乗った男はこう告げた。
――あなた方をダイヤモンドクラスと見込んで、お願いがあります。
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