エビと吸血鬼
@nekonohige_37
エビと吸血鬼
「エビ、食べないの?」
運ばれてきた料理に舌鼓を打つ彼女は、いつまで経ってもケータイを弄っていた私に言葉を投げた。
実際、食事に誘った相手がつまらなそうにケータイを弄っていたら愚痴の一つくらい言いたくはなるのはわかる、でも、つい24時間前に彼氏と別れた私にとって、掌サイズのネット環境は心の拠り所なのだから致し方無い。
「エビねー」
口を突いて出たそんな一言が不満だったのか、少しだけ表情を崩した彼女に私は慌てて「ごめん、本当はアレルギーでさ」と適当な言い訳を重ねる。
正直彼女には悪いと思う、でも実際アレルギーで無いにしろ甲殻類は苦手だし、何より食欲が無いのだからしょうが無いのだ。
そんな私に、かわいらしい癖っ毛の彼女は、焦点を切り替えた話題を振った。
「もうわすれなよー、どうせ人間と吸血鬼は無理だって」
そりゃそうだ、吸血鬼の彼と人間の私じゃ、恋愛なんて上手くいきっこない。
コップの中の水みたいに、何度も口にしてきた現実に私は顔をしかめながらも、何も言い返せないから掌サイズの世界を眺めた。
「ケータイ見てても何も変わらないぞー、そんなケータイばっか見てたらエビ食わすぞ-!」
半ば冗談ではある。
でももう半分は脅しの一言を吐いた彼女は、皿の上に盛られたエビを箸でつまみ上げ、私の前に差し出した。
当然私は「やめてよー、アレルギーなんだから」と伝えるわけだが、そのとき何か気付いたのか、彼女は頭の上に電球を浮かべてから口を開く。
「ねぇ、吸血鬼が甲殻類アレルギーだったとして、あんたがエビを食べた後でその吸血鬼に血を吸われたらさ、どうなるの?」
そんな率直な疑問を口にした彼女は、猫みたいに笑ってからグラスの中の赤いカクテルを口にした。
私とは違う、何処か大人びた彼女。
その横顔はバー特有の薄暗い照明に照らされ、作り物みたいに綺麗だった。
「ねぇ……」
そんな彼女の横顔を見て私はちょっと悪戯な事を口にした。
「小麦粉アレルギーだったよね?」
「……ん? そうだよ」
「じゃあ試してみる?」
私はほんと意地悪だ。
でも、そんな私の一言に彼女は笑うと、悪戯半分で解いた私の襟を直し、やっぱり猫みたいに笑う。
そのとき、彼女の口元で犬歯と呼ぶにはいささか大袈裟は歯が見えた気がしました。
エビと吸血鬼 @nekonohige_37
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