聖歌隊のうわさ

@D_O_M_I_O

戦場の鬨を以て

戦の先駆け、旗持ちの大声が戦場に響き渡る。

いざ殺し合いという瞬間、大声でお互いの軍が叫び合う。


どちらの軍も駆ける。命を懸け、名誉を賭け、勝つ絵図を描いて互いに全力で。

負ける不安が殆どあり、その恐れを燃料に一振れの希望が火を灯す。

吹けば消えるような勝利への希望だが、一縷の望みに賭けるほかに道はない。


人間軍と魔族の対戦が巻き起こったのがはるか100年ほど前の事。


魔法と、剣と、数多の矢と。己の肉体を掛け金に人生を勝ち取ってきた力自慢共の戦。

ありとあらゆる人間が、この瞬間だけは倫理や人道といった全てからかけ離れていた。


殺せ。殺せ。殺せ。


この地上の全てをも滅しろと叫ぶ戦笛に心が躍り、血が沸く。


殺せ。殺せ。殺せ。


火の手が上がり、一人また一人、十人また十人と地に伏し足場とみなされる。

戦場に居るすべての兵が浮ついた高揚感の中、敵の命を奪い続ける。


戦場の泥臭い血と魔力の残滓が舞う中、聖歌隊の歌声が響き渡る。


奪え。踏みにじれ。汝の敵共の尊厳を。

殺せ。根絶やしにしろ。そやつら全てが今日を以て末代。


戦火はいつまでも燃え広がり、戦果は挙がり続け、戦禍は根深く残された。

一月にも及ぶ戦争が終わり、どちらも最早戦争など続けていられなくなった頃。

どちらともなく戦争は終わり、兵は引き上げ、聖歌隊も気が付けば歌うのをやめ、戦場を去っていた。


聖歌隊。

男の集団だという声もあれば、女の集団だという人もいる。

男女の集団だという声もあれば、人かどうかもわからない、動く建築物だという声もある。人数もまばらだ。

歌の内容についても、喜びの賛歌であるといえば、悲しみのバラードであるともいう。

ロックでもバラードでも、オペラでも神への讃美歌でもあるともいう。


ただどの曲であっても、必ず誰かが死ぬという。

どんなカテゴリの曲であっても、争いの最中に彼らは現れるという。


平原に、町中に、沼地に、洞窟に。

誰かと誰かが争うならば、それに準じて現れる。


誰も彼らと話したことはないという。

争いに夢中になっている時に聞こえてきて、争いが終わると消えるという。


なぜなのか?誰なのか?

誰にも答えはわからない。


ただ今日は、

魔族の親玉ととあるパーティーとの戦いで現れ、

それは凄まじく激しいメタルを奏でていたという。

パーティーのメンバーいわく、力が漲り、憎しみを増長させ、必ず殺さなければならないという強烈な高揚感に襲われたらしい。

魔族達の死体はかくも残虐なまでにバラバラにされ、

体のパーツは20以上に分たれ、細かく潰された。人の手で潰してしまっていた。


「んん…ここまでする必要はなかったのに…」

己の所業を後悔するような口ぶりで男は言った。

「まぁ良い、さっさと引き上げよう。依頼は済ませたんだから、あとは報告だ。」

落ち着かない様子で、しかし冷静を装って男が返した。

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