我のモンスターを誘拐したの誰ぞ!!

ちびまるフォイ

その箱に閉じ込められる

「クククク。おろかなる人間どもよ。

 数日で世界征服の計画が進み、貴様等の世界は終わる。

 死と混沌で満たされた、我等モンスターの世界へと生まれ変わるのだ」


モンスターの魔王は人間の頭蓋骨でぐいと酒をあおった。


「おい腹心。それで計画の首尾はどうだ?」


「……おい」



「貴様!! 我を無視するとは何事か!!!」


怒りにまかせて振り返ると、魔王の腹心はいなかった。

トイレに立つときすら護衛すると聞かなかったほどなのに。


「あいつ……いったいどこへ……」



『 モンスターの腹心を誘拐しました。

  48時間だけ箱の中に閉じ込められています。

  箱は48時間後に自動解放されます 』



「なんだ!? どこから声が聞こえてる!?」


声は魔法の力で全世界へと発信されていることを魔王は確認した。



『 箱は人間の街へと置かれています。

  箱は外から簡単に開けられるようになっています。

  以上 』



「な、なにぃ!?」


箱に閉じ込められて、敵である人間の街で放置されればどうなるか。

火をつけられたり、開けられてボコボコにされれば命はない。


「お、おのれぇ!! 人間のしわざか!! これだから人間は!!

 モンスターより野蛮で、下劣で、暴力的……! 絶対に許さん!!」


魔王は最終決戦用にとっておいた武器や杖を手に取り、箱を探すことに。

ここまで怒り狂ったのは初めてだった。


箱は魔法の力で好きな世界や場所に転移できる作りになっているらしい。





魔法で腹心がいた場所の痕跡や、運ばれた痕をたどる。


「どこだ……どこだ箱……絶対に助けてやる…………あった!!」


まもなく箱の場所を特定した魔王は、魔法で人間の街へとすっ飛んだ。

箱に近づいた人間はもちろん、あたりの人間も残さず殺して箱を開けた。


「ああ、魔王様!! 来てくれると信じておりました!!」


「無事だったか腹心。本当に良かった。

 こんなことをする人間どもめ、絶対に許さん。1人残らず殺してやる」


助けてもなお怒りの収まらない魔王にも次の声が聞こえた。


 ※ ※ ※


『 魔王攻略の冒険者を誘拐しました。

  48時間だけ箱の中に閉じ込められています。

  箱は48時間後に自動解放されます 』



『 箱はモンスターのダンジョンに置かれています。

  箱は外から簡単に開けられるようになっています。

  以上 』 



これを聞いた冒険者たちは言葉をなくした。


「な……これって……あの勇者さまよね……」


いつも冒険者ギルドに顔を出していた勇者が急に顔を見せなくなった。

彼の大きな力とカリスマで魔王を成敗しようという話になっていた矢先の融解だった。


「モンスターの仕業よ! なんてひどいことをするの!」

「人間をなぶり殺しにしようとしてるんだ!」

「どうすんだよ!? 助けにいくのか!? 絶対罠だよ!!」


リーダーを欠いたことで冒険者たちはパニックになった。

それでも、このまま箱を放置していれば、丸腰の勇者が魔物の巣へ放逐される。


「助けにいこう!! 場所はわかるはずだ!!」


閉じ込められている箱は魔法の箱らしく、魔法の残痕がいくつも残っていた。

どこに箱があるかは人間たちでも特定することはたやすかった。


「こ、ここか……」


48時間以内にたどり着いた魔物のダンジョンだったが、

とくに凶暴な魔物たちがひしめいている場所だった。


「どうするの? やっぱりやめた方がいいんじゃない?」


「本当はこうして助けにきた私たちに魔物を当てて、数を減らすのが目的なんじゃ」


「1人を助けるために、全員を犠牲にするのかよ!?」


凶悪なダンジョンを前に人間たちは及び腰になった。

助けることに成功したとしても、全員が無事では済まない。



「……やっぱり、諦めよう。これこそが魔物の罠に違いない。

 リーダーには悪いけど、俺たちは……」



『48時間が経過しました。箱が解放されます』




全員が諦めたとき、ダンジョンから足音が聞こえた。

リーダーかと期待した視線の先に、真逆の存在が立っていた。


「貴様等人間はやはり魔物に劣る。

 我らモンスターはそれがどんな奴であれ必ず助けにいくぞ」


「ま、魔王……!?」


魔王は箱を持ってダンジョンから出てきた。

自分の庭に置かれたゴミを拾ってきたかのように。


「魔王、融解なんて貴様いったい何を考えている!!」


「待て。誘拐したのは我ではない。

 モンスターを誘拐もされたのは貴様らも知っているだろう」


「お前じゃ……ないのか……?」


「我は、我が腹心を誘拐した奴を見つけ出してこの手で殺す。

 そこで人間よ。貴様の力を借りようと考えたのだ」


魔王は手を差し伸べた。


「奴はモンスターか人間かを誘拐する。

 だから、どちらかが誘拐されたらその情報をすぐに我に渡せ。

 必ず犯人を特定する」


「し、しかし、魔物と人間が手を組むなど……」


「提案ではない、命令だ。断ればこの箱を破壊する。この場ですぐに」


「ま、待て! わかった協力する! 一時休戦だ!!」

「よかろう」


魔王が箱をあけると、中から勇者が出てきた。


「よいか。もし、我を裏切ったり犯人を匿ったりしてみろ。

 真っ先に女子供から八つ裂きにしてくれるぞ」


「人間だって誘拐されてるんだ。犯人を助ける義理も理由もない」


これまでいがみあっていたモンスターと人間は初めて協力することになった。

扉の閉じた箱の前で固い握手をした。


「風で閉まったか?」

「そんなことより、犯人探しを始めるぞ」


停戦協定を結んだことで

魔王の城の警備に使っていたモンスターはすべて各所のダンジョンに配備された。


人間は人間で、町に厳戒態勢をしいて融解対策をしたあと

町をひっきりなしにパトロールして誘拐犯を探した。


魔法でリアルタイムのネットワークも構築し、

誘拐犯がいきなり誘拐をはじめてもすぐに連絡が取れる状況。


人間も魔物も目をギラつかせて、2日探し回った。


「いない……いったいどこに隠れている……!」


「きっと、俺たち人間や魔物たちが油断したころに

 また誘拐して同じことをさせるつもりだろう。

 しかし、そうはいかない。このまま監視ネットワークを残せばすぐに連絡がいく」


「人間。貴様は本当は我らとの休戦状態を長引かせたいと思って

 実は犯人を知っているんじゃないだろうな」


「疑り深いのが魔物の欠点だ」


そのとき、聞きなじみのある声が聞こえた。



『48時間経過しました。箱が解放されます』



これには魔物も人間も驚いた。


「なに!? すでに誰か誘拐されていたのか!? いつのまに!」

「すぐに連絡を!!」


モンスターも人間も慌てて全員の点呼をとった。

どちらも全員がそろっていることを確認した。


「どうなってる。モンスターは誰も誘拐されていないぞ」

「人間もだ。誰も見てないし、誘拐されていない。いったい誰が……」



※ ※ ※


「ねぇ、なにあれ?」


高層ビルが立ち並ぶ現代の世界に、箱がぽつんと置いてあった。

箱が開くと、中からソレが出てきた。



「はぁ、48時間ぶりの外か。入るとき見つからなくてよかった」



自分自身を閉じ込め、別世界へと移動したソレは次なるターゲットを探しに向かった。

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