第26話 未刊の原稿

ただ、デビュー後に物語を送ってくることは一度もなかった。

さすがにプロなのだから当然だろう。なんで今更、前みたいに。

 私の知らない佐井たすくを知りたかった。

相模セナを通せば見えてくる気がして、インターネット上を巡回した。

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相模セナ 巻頭インタビュー

 ――相模さんは、同人誌即売会のイベントがきっかけでデビューされたんですよね?

 相模;そうですね。正直かなりレアケースだと思います。そのイベントは、漫画は持ち込みコーナーがあって、出版社の人に批評してもらえる機会があるんですけど、そのとき来ていた某社の編集さんが、漫画のほうに異動したばっかりの人で。もともとは小説のほうの編集をしていて、休憩時間にいくつか小説の同人誌を読んでいたみたいです。

 ――そのとき販売していた「モノクロランプ」が、編集者さんの目にとまったわけですね

 相模;そういうことに、なりますね。恐縮です。

 ――小説の持ち込みはなかったなか、まさにシンデレラストーリーですね!……さて、初めて販売した同人誌には、デビュー作、「モノクロ」が収録されていますね。この同人誌、再販がされていなくて、現在かなり入手困難となっていますが、どう思われますか?

 相模;だしたのは高校生のときです。お金の関係で、そんなに印刷していないので、出回る数が少ないのは当たり前と言えば当たり前かなーとは思いますね(笑)ただ、僕自身も買い戻しているのも理由になるかな、と思います。

 ――買い戻していらっしゃるんですか?

 相模;はい。販売した「モノクロランプ」はデビューのきっかけになった意味では思い出深いものなんですけど、厄介事も引き起こしてしまって。

 ――厄介ごととは?

 相模;まずは、身近な人に迷惑をかけてしまったことです。「モノクロ」は多くの人に受け入れられて、それ自体は本当に嬉しいんですが、同人誌版を読みたいという方々が僕の知り合いのサークルさんに問い合わせをされたみたいで。実際にそれがあって二人ほど、イベント参加を辞めてしまった人を知っています。後から聞いて、本当に申し訳ないことをしてしまったと思っています。

 ――では、モノクロランプを買い戻されているのも、その罪滅ぼしといったようなものなのでしょうか?

 相模;それもありますし、オークションなんかで出回るのを防ぎたいという思いもあります。

 ――人気の現れとも言えると思いますが、再販を行うということは考えていらっしゃらないのでしょうか

 相模;はい。「モノクロ」は同人誌版をブラッシュアップしたものをデビュー作として出版させていただきました。製品としては流通しているものが正規品で、同人誌版はプロトタイプなんです。まだまだ未熟な部分があるので、とても再販売はできないです(笑)

 ――今後イベントに参加する予定はありますか?

 相模;すみません、今のところはないんです(泣)。参加したい気持ちはあります!ただ、もし参加することがあっても、売り子として行くことは、多大なご迷惑をかけることになりそうなので恐らく行わないと思います

 ――では最後に、当イベントへの参加者へ一言お願いします。

 相模;はい。……このイベントは、普段孤独に創作活動をしている人たちが繋がることができる、貴重な場だと思います。売る楽しみ、買う楽しみ、そして、人と話す楽しみをプラスして、おもいっきり楽しんでください。

 また、ずっと楽しくイベントを続けていくために。いくつかお願いがあります。ルールとマナーは、お願いです、守ってください。

 そして、転売目的での購入は避けてください。もし何らかの事情があって手放すときには、例えばある特定の作家のみ切り取ってオークションにかけるとかではなく、そのままで扱ってください。

 合同誌は合同で作った1つの冊子なんです。

 どうか、全ての作品を、愛する、いや、好きになれなくても、尊重あるいは大事にしていただきたいと思います。

 ――熱いメッセージ、ありがとうございました!

 相模;長くなってすみません。ありがとうございました。



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脳内大解剖!

相模セナの創作観に迫る


 文壇に彗星のごとく現れた相模セナ。彼は児童文学から推理小説、果てはライトノベル、ノベライズ本と多様なジャンルの作品を生みだし続けている。

 しかし、彼は恋愛小説だけはいまだに執筆していない。全ての作品において、恋愛描写がないことが特徴だ。登場人物に夫妻や婚約者などは登場している。ただ、カップルがいちゃいちゃしていたり、初々しい片思いやすれ違い描写は皆無といっていい。

 発表作品数にしては、徹底的に描写を避けているとも言える。

 リアルで恋愛に関するトラウマがあったのだろうか?

 そこで本誌では、相模セナを知る、かつての同級生に直撃した。

「あいつはすげーモテてました!学年の半分くらいの女子は好意をもっていたと思います」

 当時を懐かしんでいるのは、中学生が一緒だったというAさん。

「バレンタインとかすごかったみたいですよ。六十個とか普通に」

 驚きの数字からは、告白も相当数あったように思われるが……?

「はい、告白もめちゃめちゃされてました。ただ、みんな断ってましたよ。理由は、部活に集中したいから~って言ってましたけどね」

 確かに相模セナは、中高ともバレーボール部の中心選手として活躍している。私立の強豪校からスカウトの誘いもあったほどらしい。

 では高校時代はどうだったのだろう。

「笑っちゃうくらい何でもできる人でしたよ」

 そう話すのは、高校が一緒だったというBさん。

「バレー部でエース、生徒会で図書委員長やりながら、成績はトップでした。嫉妬するやつは逆に人間できてないって烙印押される感じでしたね」

 絵にかいたような完璧超人。文武両道を地で行くようだ。

「恋愛関係の話ですか?なかったですね。興味ないのかってレベルで。女の子からけっこう人気でしたけど。一時ホモとか噂されていたことがあったけど、本人も否定しましたし、なにより噂流した奴らが孤立しましたね。てめーらふざけんなっていう感じで」

 恋愛対象の話はともかくとして、中学から一貫して、交際したことがなかったということは確かなようだ。

「誰か好きな人がいたのかもしれませんよね」

 では開放的となる大学ではどうか?

「本人はフツーにしていました。ただ、えげつなかったんじゃないですか、スケジュール」

 渋い顔をしたのは、同じ学科だったというCさん。相模セナは大学入学と同時に作家デビューを果たしている。一方で、教職課程と司書課程を履修していたため、半期に20コマほどの授業が入っていた。そして、3ヶ月に一冊のペースで新刊を出していたため、自由時間はほぼなかったと予想される。

「飲み会とかもパスするときがあったので、やらなきゃいけないことがかなりあったと思います。恋愛する暇はないと思います」

 以上のことから、相模セナが交際経験ゼロという信憑性は、限りなく高いだろう。それゆえ、恋愛描写がないのかもしれない。

もちろん、真相は相模セナ本人しか知り得ないが。


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もっとも熱い新人作家!

相模セナ


 ――元々本を読むのは好きでした。小さいときに絵本や児童書をよく買ってもらって。なんでしょ、幼稚園に上がる前に、『アンパンマン』とか『ノンタン』、そのほかめぼしい童話を読んでしまって、小学校へあがるまえくらいには、『エルマー』を読んでいました。他にも『ズッコケ3人組』、『シャーロック・ホームズ』、『怪人二十面相』とか、よく見ていましたね。

 ――書いたきっかけ……。ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』を読んだことがきっかけです。この話は、本筋の物語は完結しているんですけど、関わった登場人物がその後どうなったのか。それがしっかりと書かれていないんです。もちろんそこが魅力なんですけど、読んだときにはえ、このあとどうなったの?ってなって。それで自分で書いていました。中一くらい、ですかね。

 ――中三のときにごりごり書いていました。綿谷りささんが最年少で芥川賞をとったじゃないですか?そのニュースをみて感化されて。ちょうど学校の授業で、確か選択科目で、自分の作品を仕上げようっていう課題が出て。そのときに書いていたのが、「モノクロ」です。

 ――プロットも書かずにいきなり書きはじめて、きりのいいところで終わらせていました。一種の逃げですね。幸いなことに、それを読んでくれた人から続きを書いてほしいと言われて、それで書いたんです。

完成したものを同人誌にして、それが編集さんの目にとまりました。

 ――感謝の気持ち……。好き勝手させてくれた家族、ですね。あとは、つたない作品ながらも読んでくれて感想を言ってくれた友達。

 ――書く理由は、多くの人に読んでもらいたいからです。ただ、俺はこんな話を書いたぞ、面白いだろ!っていうのではなくて。暇潰しだったり、いろいろな考え方があるということを、本を読むことを通して伝えたいって思っているんです。苦しいときに気分転換として選択されるのが、僕の本であったら嬉しいです。だから、選んでもらえるように、僕はこれからも様々な話を書いていきたい。書かなくちゃいけないという思いを持っています。


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 モノクロランプの売値は四百五十円だった。今では十倍以上の値がついている。滅多に出回ることがないため、同人誌専門店では高値で取引されていて、プレミア化しているのは私だって知っている。佐井くんがそれを増刷しないのも、知っている。

 むしろ、買い戻しているのを知っている。

 それはどうして。

 それはなぜ。

ねえ、私は、ちょっとだけでも、うぬぼれてもいいのだろうか。ランプの話が捨てられないようにするためと。私たちの思い出を、きれいなまま守るため、と。

 なにかのヒントがほしくて、充電途中のスマートフォンに手をのばした。画面を見ると、メールに本文があることに気づく。

 『柑橘広場。詳しくは二通目で』

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