隠居魔王の成り行き勇者討伐 倒した勇者達が仲間になりたそうにこちらを見ている!
メグリくくる
プロローグ 花散る季節に魔王去る
狼谷 龍の見た景色
「先輩方のご健康とご活躍を祈念して、在校生代表の送辞とさせていただきます」
その言葉が終わると、静謐な空間が一瞬戻って来る。しかし、次の瞬間、体育館に新しい声が生まれた。
『続いて、卒業生からの答辞となります。答辞は、卒業生を代表して、狼谷 龍(かみたに りゅう)君にお願いします。狼谷君、お願いします』
「はい!」
そう言って、俺は立ち上がる。壇上に上る途中、横目にはズラリと並ぶ在校生と卒業生たちの姿があった。神経質なまでに整頓された椅子に座る彼らは、中学生というよりも、どこかの軍隊の整列を思わせる。その両脇には、卒業生の両親や教員、そして来賓者たちが鎮座していた。
壇上に上がり、一礼。答辞の内容は、いたって平凡なものだ。
三年間通った、この中学校の風景。
新入生だった頃の不安だった気持ちに、先生と先輩に勇気づけられたという定型文。
そして、後輩たちや、学校行事の思い出話。
別段変わりなく、当たり障りのない、何処の学校の卒業式でも話されているような内容だ。
「――希望と不安の待つ大海へと、僕たちは旅立ちます」
そう言った後、俺は最後にここまで育ててくれた両親たちへの挨拶を述べる。そして、体ごと振り向いた。俺の眼前に広がるのは、軍隊を思わせる生徒たち。さしずめ彼らは、魔王に挑む勇者たちと言ったところだろうか。
……言った所も何も、実際三分の一は『勇者』だったんだけどな。
そして来月の新学期には、この中からまた『勇者』が生まれる事になる。
「答辞の最後に、この場を借りて皆様にご報告させて頂きます」
故に俺は苦笑いを噛み殺し、高らかに宣言した。この答辞は、この一文だけは、俺が卒業する摩天楼中学校特有のものだな、と思いながら。
「この狼谷龍は、無事、第五十代目の『魔王』の任期を完遂致しました。皆様のお力添え、ありがとうございました」
深々と頭下げる。拍手が起こる前に、俺が討伐してきた何人かの『勇者』たちの、苦々しい顔が見えたが、それもすぐに瞼を閉じて視界から追い出した。
万雷と言ってもいい拍手の余韻に浸りながら、俺は体を起こす。
こうして俺は、一年間務め上げた『魔王』の任期を終えた。
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