第26話
「こちらが報告書です」
そう言い、叔父上――ウィルヘルム陛下に何枚かの紙を渡す。
「相変わらず、子供らしくないというか、よく色々巻き込まれるな……」
陛下は苦笑いである。
「大体、この前のゴリオン子爵の件だって終わってはいないのだ。それなのにお前という奴は……」
いや、そう言われましても。
別に僕は自分からトラブルを起こしてもいないし、近寄っている訳でもない。
トラブルが近寄ってくるのだ。モテモテだね!
……いらんわ、そんなん。
さて、陛下に事の顛末を話していく。
「中々マーファン商会はあくどいことをしているようです。さらには、エルフ領に対する誘拐まで……流石に容認できませんよ。しかも一部の貴族と帝国まで絡む可能性がありますからね……」
「全く頭の痛い問題だ……うちの
そうなのだ。これは歴とした犯罪。
それを裁くのは陛下であり、そのために動くのが父上達なのだ。
僕は僕の仕事をするまで。
「では、例の砂糖については、コールマンと取引したいと思っておりますが如何でしょう?」
「それは構わんぞ。しかし、政商の件も考えねばな。コールマン商会には戻って貰うとしてコールマン商会には賠償とは言わんが補償せねばな……レオン、他にもなにかコールマンに売るつもりか?」
「それは、どうでしょうね……でも、アイディアはあります」
本当は色々アイディアを出す予定だ。
テンプレのだったら、娯楽類……例えば将棋とかだな。
「まぁ、いいがな……王家と神殿には必ず納めろよ? そうすれば他人が下手に真似することができなくなるからな」
「はい、陛下。合わせて王室御用達とか設定するといいかもしれないですね」
「なんだそれは?」
おや、このような制度はないのか?
「いわゆる、王室が品質を保証し、王室でも用いているという事を示すものです。何か記章なり入れると良いと思いますが」
「ふむ、確かにそうすればその保証された品を求めようとするな。それを売っているということは信頼が得られる商会だという事だ」
流石は陛下。話が早い。
「そしてそれに期間を設けて、定期的に品評会をすることで、他の商会やギルドも頑張ろうと思うでしょうし、品質も保たれるでしょう」
「それは良い考えだな。そのあたりはセバスティアンにまとめさせて見よう。それに目を通して、お前は考えられるだけの改善点などを出すんだ」
「はい、陛下。ではコールマン商会と話をしてきます」
そう言って、執務室を出る。
さて、できるだけ急いでコールマン商会と話を付けておかねば。
流石に生産をするヴィンテルと、販売をするコールマン商会を繋がなければいけないし、どのくらいの金額にするかなども話さなければ。
僕は意気揚々と本宮殿の廊下を歩いて行く。
さて、結果から話そう。
コールマン商会との話は無事に終わり、ヴィンテル町が材料供給と、冬の間の生産、コールマン商会は領都での基本の生産と販売を行うことになり、収益の一割が僕に入るようになった。
そんなに必要というわけではないんだが、もらえるものは貰っておこう。
「コールマンさん、利益の一割って……本当に良いんですか? 現物支給もしていただけるのに……」
「とんでもありませんレオンハルト様。これだけ利益の見込めるものはありませんし、何よりライプニッツ家の方ですから! これからも是非、当商会をご贔屓に……」
「ええ、わかりました。いずれは砂糖の生産は、広くしていきたいと思いますが……」
三ヶ月に一度、エクレシア・エトワールのコールマン商会から僕宛に、その三ヶ月の売り上げの一割、それと砂糖が一定量送られてくる事になった。
ちなみに、コールマン商会の現会長は、いかにも「あきんど」というような雰囲気の五十代位の男性である。
常に笑顔を絶やさないが、計算高いところもあり、でも信頼の置けるという人物である。
さて、独占というのは問題だ。
流通のためには、色々なところで生産し、販売しなければ値段が下がらない。
そのことを匂わせたいと放った一言だったが……
「ええ、承知しておりますとも。もし欲をかけばマーファン商会のようになってしまいます。それに、他の商会にも恨まれそうですしな」
流石はコールマン商会長。分かっていらっしゃる。
「まあ、他にも色々アイディアはありますので、いずれお話しますよ」
「それはそれは……その際にはまたよろしくお願いします」
* * *
さて、マーファン商会はというと……
「な、何故にここに王国軍が!? ど、どういうことじゃ!」
良く言ってデブのマーファン商会会頭は椅子から転げ落ちんばかりに驚いた。
ほんの数日前に、エルフ専用媚薬のサンプルを奪われ、探すために色々手回ししていたところだったのだ。
自分の側近からの報告は、もはや寝耳に水どころではない。
「ど、どうしますか会頭! このままでは準備が……」
「わ、ワシに聞くな! とにかく逃げなければ……」
そう問答しているうちに、王国兵が足音を立てて階下を歩く音がする。
(わ、ワシはここで終わるのか!? そんなはずはない! アイツが『何とかなる』と言っておったのに……!)
ダドリー・マーファンは必死に考えた。
どうにかして逃げられないか、どうにか見逃してもらえないか。
しかし、現実は非情である。
バンッ!!
「お、お待ち下さい……! ああっ……!」
部屋の扉の前で兵士達を止めようとしていた部下ごと扉が押し開けられ、部下が床に転がる。
「マーファン商会会頭、ダドリー・マーファンだな? エルフ領民に対する誘拐教唆、危険薬物製造、ならびに王族に対する殺害教唆の容疑で逮捕する!」
「な、なんじゃと!? 王族など知らんぞ!」
実は、店主は貴族章を見せられていたのだが、どこの家紋なのかまでは分かっておらず、会頭に報告していなかった。
「知らんはずないだろう。ライプニッツ公爵家の家紋を見せられているはずだ! まあ、事実は貴様が教唆したということだ、大人しく縛に就け!」
「なっ!? 領主様の家紋なんぞ聞いておらんぞ! 何かの間違いじゃ!」
「うるさい! じっとしろ!」
運動を疎かにして、身体ばかり重くなったマーファンと、訓練されている王国兵。どちらが強いかは明らかだった。
しかも、自分が手を出したのが領主家に対してである事を聞かされ、驚いたというのもある。
あっという間に捕縛され、連行されていく会頭と、その手下ご一行。
彼らを待ち受けるのは、裁判と牢屋である。
* * *
「んー、疲れたなぁ……」
コールマン商会との話し合いを終え、本宮殿に戻っていた。
今日はエリーナが王妃殿下……叔母様たちと共にドレスの仕立てのため、別行動である。
時間としては昼過ぎで、特に何をするでもなく休息に当てようと思う。
「とにかくこれで砂糖も手に入るし、これを後は白砂糖に精練すればいいな……」
そんな独り言を言いながら、ソファーの上で一人伸びをする。
一定量が定期的に入るようになったわけだが、自分で購入している分もある。
しかも後で分かったことだが、解析(アナライズ)したところ、地球でのテンサイに比べ、含まれる糖分の量が多いのだ。
おかげでかなりの量の砂糖を作る事が出来そうである。
「さて、少しやってみますか……『解析(アナライズ)』『分離(セパレーション)』『抽出(エキストラクション)』『結晶化(クリスタライズ)』」
実は砂糖を作る前、実験とか薬の調合などで使うために『分離(セパレーション)』『抽出(エキストラクション)』『結晶化(クリスタライズ)』という術を作っておいた。
そしてこれは中々便利で、砂糖を自分で作るなら、煮詰めるよりこの方が早いのだ。
一瞬でできあがった砂糖の結晶を少し削り、サイドボードに置いていたガラスポットに入れ、側にあったレモンの果汁を『抽出(エキストラクション)』で搾り、水を発生させる。
ついでに氷魔法で冷やしておこう。
あっという間に出来たレモネードの一部を、魔力で球体にしながら宙に浮かせる。
そのまま自分の口に持ってきたところで、後は自分で吸い取る。
よく宇宙飛行士が宇宙ステーションとかでする水の飲み方の真似である。
「うーん、中々に美味しいな……黒砂糖じゃ少し癖が出るからな〜」
そんな事を考えながらまどろんでいると、扉を叩く音がする。
このフロア全体はプライベート空間なので、扉を叩くのはイシュタリア家とライプニッツ公爵家のみである。
「どうぞ〜」
「入るよ、レオン……なにしてるの?」
入ってきたのはアレクであった。久々の登場である。
本当は彼は王子なので、相応の礼を取るのが通常なのだが、あまり僕やエリーナは関係がない。
……実はなんだかんだで僕も王位継承権がないわけではないので。
僕はソファーの上で寝転んだまま答える。
「ここ連日、行ったり来たりしたからね……今日は休憩だよ」
「なんだよぉ……せっかくあそべるかとおもったのに……」
なんだ、アレクは遊びに来たのか?
「遊びに来たのか? 問題ないよ、仕事じゃないなら……何する?」
「やった! ……そうだね、なにしよっかな……」
アレクは何をして遊ぼうか考えているようだが、本音あまりこの世界は娯楽というカテゴリが少ないと思う。
大体かくれんぼとか、ごっこ遊びとかだったからな。ボールもなかったな、そういえば。
「う〜ん、ふつうお兄さまもお姉さまもいるんだけど……」
今日ヘルベルトとハリーは、ムザート伯爵夫人のレッスン(強制)だし、ルナーリアとセルティはマナー講座らしい。
仕方ない。もう少し後に作るつもりだったが、作っておくか。
「アレク、少し待てるか? 遊びの道具を作るから……」
――――
さて、取り出しましたのは少し厚めの木の板。
「『造形(モデラード)』」
これに一辺4,5cmの8×8のマスを造形魔術で彫り込む。
次に、白い色味の木材を取り出し、片面を炎で焦がし黒くする。
そして、先ほどの木の板に彫ったマスより少し小さめの円板を切り出す。
それを六十四枚作り、半分ずつに分けて箱に入れる。
これで準備は出来た。
もうおわかりだろう。そう、オセロもしくはリバーシと呼ばれる遊びである。
「できたの?」
「ああ、アレク。出来たぞ。これはリバーシと言って、自分の色で相手のコマを挟んで、挟んだコマを自分の色に変えていくというゲームだ。一回ずつ交代で進めるんだけど、最後にどっちの枚数が多いかを競うんだよ」
「へー、なんかカンタンそうだね」
ほほう。これを簡単と言うか。
意外と難しいんだぞ。
念のため、もう少し詳しく教えておく。
どこまでひっくり返せるのか、どういうことはできないのかなど伝えておかないとな。
しかし、アレクの目が明らかに現物に向いていて、聞いているかどうか怪しい。
まあ良いか。やってみよう。
結果――――
「ちょ、ちょっと待て! マジか、前に打ってたあのコマが……」
「へへへ〜。やっぱりこうしたら取れないんだね? おもしろいなあ!」
惨敗である。
最初の数回こそ問題なく勝てたものの、回数を重ねる内に戦略が上手になっていき、ぼろ負けするようになってしまった。
前に打ったコマが後で影響して、途中まで攻めていたはずなのにあっという間にひっくり返される。
いずれはチェスも作ろうと思っていたが、これは強くなりそうだな……
そんな風に遊んでいたら、もう夕方である。
「レオン、また食事のあとにしようよ!」
「いや、流石に寝ろよ……また少し付き合ってやるから……」
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