第25話
「まあ、それよりもな……レオン、お前はヴィンテルに何をしに行ったんだ?」
父上から尋ねられる。
あれ? 父上には伝えてなかったか?
「実は、砂糖を作れるかと思い、材料を探しに行ってました」
「材料探しってお前……相変わらず面白いことを思いつくな。まあ、結局見つけたのか? 甘い物を作っていたからには……」
「ええ、面白い物から作れました。できればこれを売りたいと思うんですが……」
できれば十分な資金を今のうちから貯めておきたい。「金は天下の回りもの」なんて上手いことを言ったものだ。
でも、流石にこの歳で商売はできないだろうな……
「ダメだな」
父上から言われてしまった。やっぱりそうだよね……
「年齢が問題ですか……」
「年齢というよりは立場上無理だな。既にお前は王家直属だ。王家は直接商売ができないんだよ」
そっちか〜。
王家は税金によって生活している。
だから、商売をする必要はなく、すべきでないというのが考えなのだろう。
「そうですか……」
「それこそどこかの商会に専売させて、その分一定額か現物をもらうというのが、普通のやり方だな」
専売させてそれを認める代わりに現物を安定供給させるか、その分お金を納めさせる。
そうして王家は必要な物やお小遣いを得るのだ。
しかし今回の砂糖については、王家に譲るのではなく、功績はミリィに上げるつもりだ。
実は、「功績を与える」というのは単に称えられるというだけではない。
いわゆる勲章のような物が与えられ、立場や扱い、そして宮殿内での動きなどが変わってくるのだ。
マシューなどは既に功績を持っている。
特に今回の件はミリィから話を聞かなければ見つけられなかったことだ。
これまで忠実に働いてくれているミリィへの感謝も兼ねている。
「できれば今回の件、砂糖に『した』のは僕ですけど、『情報』はミリィなんですよね……」
「なるほどな。そして功績をミリィに渡して、お前は現物を手に入れると……強かだなお前」
流石父上である。
僕の考えはお見通しか。
「そうすれば下手なちょっかいは出されないでしょう?」
「ああ、ゴリオン子爵の件か……陛下が頭抱えてたぞ、『ウチの甥っ子は騒動を呼んでくる』ってな」
心外な。
「どこと取引するのが良いでしょうね……それこそ砂糖だけではなくて、色々面白そうな物を考えているんですが……」
「マシューには聞かなかったのか?」
「明確には言われませんでしたけど、コールマン商会推しみたいですね。昔から関係があるって言っていましたっけ」
「なるほどな」
そう呟くと、父上は虚空を見上げながらため息を吐く。
「コールマン商会はな、マシューの生家なんだ。ただ、長男ではなかったからというのもあって、家に仕える事になったんだ」
なんと。コールマン商会の一族なのか。
というか、そんなこと簡単に言って良いんですか父上よ。
「それは知りませんでした」
「まあな。特に本人は隠しているわけじゃないんだが。さて、コールマン商会の元を辿ると、ライプニッツ家がそれこそ領地を手に入れる前から仕えてくれている騎士の家系だったんだ。ただ、戦いより商売をしたいということで、コールマン家は商会を立ち上げた」
ほほう。そんな歴史があったのか。
「このあたりが飢饉になったこともあったらしい。領民がかなり減ったこともあったらしい。それでもずっとこのエトワールに居てくれた、そういう家なんだ……最近まではな……」
「最近というと、どういうことですか?」
最近までと言ったからには、何かあったに違いない。どうしたのだろう?
「お前も分かっているはずだ、マーファン商会が出て来た。あれは本当はこのあたりではなく、流れの商人だった。それがここに居着き、商会を立ち上げたんだ。そして……コールマン商会の顧客を奪ったんだ」
そういうことか。
地元密着の商会が新興の商会に押されているという訳だ。
でもそれは仕方ないことではなかろうか。いや、マーファン商会を擁護する気は更々ないが。
「ただ、マーファン商会のやり方は汚い。貴族優先、人間優先、金を持っていなければお断り……それこそコールマン商会は抗議した。だが、連中は商業ギルドに手を伸ばして、逆にコールマン商会の風評を流したんだ。それでコールマン商会は政商ではなくなり、今はマーファン商会とか色々なところが政商の地位を狙っているわけさ」
「……一言でいいます、クズですね」
そりゃ、マシューも嫌だろうな。
表情が変わるのも仕方ないか。
「では、陛下に相談して、コールマン商会と取引していいか確認してみます」
「ああ、そうしろ。……ただ、他の貴族から色々余計な手出しをされるかもしれん。気をつけろよ」
「ええ、父上……いえ、ライプニッツ公爵」
そう言い残して退出する。
父上は特に何も言わない。ただ、「気をつけろ」と言ってくれるだけだ。
さて、父上に相談は終わったので、後は帰ってからのお話だな。
* * *
というわけで、サクッと転移で王都に帰ることにした。
「……もう少し、ゆっくり移動すべきじゃないのかしらね……」
「母上、そろそろ巻いていかないと間延びしますから」
尺の問題だよ、尺の。
さて、あっさりとライプニッツ公爵領都から王都の魔導師団本部に戻って来たわけだ。
え、門を通ってない? 行きだって通っていないから、関係ないね!
さて、母上にはクレア様に報告をお願いし、合わせてパウンドケーキも持って行って頂いた。
流石にこのままでは失礼に当たるので、お土産兼ねてである。
「一旦、フィリアは星樹門に転移してもらうね。そうしないと警備隊が困るから」
「ああ、そうだな。それを忘れられていたらどうしようかと思っていたぞ」
もう一度二人で門のそばまで転移する。
この時間だとあまり行き来がないのですぐに入れるだろう。
そして彼女は少なくとも元魔導師団長なので、清廉門ではなく貴族用の星樹門から入ることが可能だ。
「それじゃ、僕は門のそばに移動しておくから、入ってきてね」
「ああ」
門の内側で待つことしばし。
しばらくするとフィリアがやってきた。
「やはり王都はチェックが厳しいな。まあ、何も悪いことはしていないんだが……」
「流石に王都だからね。そこは騎士団直下の警備隊が頑張っているらしいよ?」
そんな話をしながら王宮へ戻る。
……と、止められてしまった。
「ここは王宮だ。そしてこの門は王族専用である! さあ、すぐに……」
「待て待て待て、その方は通すんだ! 申し訳ありません、レオンハルト卿」
「大丈夫だよ、入るね」
衛兵の一人が僕を止めようとしたが、他の衛兵が通してくれた。
以外と顔を知られていないんだなあ。
本宮殿では、多くの人々が働いている。
しかし、王族や上の役職に就いている者たちは自分の仕事や決裁がすめば基本暇である。
だからといって、いつでもすぐに会えるとは限らないのだが、基本的に僕は立場の関係上、すぐに会えることの方が多い。
というわけで、現在既に国王の執務室前に立っている。
普通であれば、ここに立つまでにも手続きが必要なのだが、王家直属であることと、親族であるという二重の立場があるので、ここまでスルーである。
さて、いつも通りに……
コンコン。
「レオ「入れ」――ンハルトです……失礼します」
せめて名前くらい言わせてくれ。
執務室に入ると、叔父上と父上が居られた。
「早かったじゃないか。ヴィンテルに行くと聞いていたから、もう少しかかると思っていたが」
「目的は達せられましたので、すぐに戻って参りました。御報告しても?」
「ああ」
さて、報告だ。
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