第12話
ステータス表示がバグる。
一体何故なのだろう。
「な、何ですの……これ」
「さ、さあ?」
尋ねられても分からないものは分からない。
ただ、非常に困ったことに、隠蔽している部分が一部見えているということだ。
元々表示されていなかった部分はいいだろう。
しかし、流石に表示上まずいと思って隠蔽していた部分が見えていたり、「隠してます!」と言わんばかりの表示なのはいただけない。
さて、どうするか。
事ここに至り、一族には伝えておくべきか。
エリーナのステータスから目を逸らす上でも、自分が面倒を被る方がまだ良い。
先にエリーナに話しておくことにしよう。
「エリーナ……実は、このステータスは本当のものじゃないんだ。僕もエリーナと同じで、色々普通じゃない部分が多くてね……」
「そうなんですのね……どうやってステータスを……その、変更してるんですの?」
「そうだね、まずそれを説明するには、本当のステータスを見せた方が早いかな?——【ステータス:パブリック】」
そう言ってもう一度ステータスを表示してから、唱える。
「【
===========================
名前:レオンハルト・フォン・ライプニッツ
年齢:5歳 性別:男性 種族:人族
レベル:5
スキル:
称号:転生者、超越者、*竜、*****
加護:七柱神の加護(世界・生命・天地・魔術・商業・武芸・芸術)、***の誓約
《ステータス》
===========================
全体的にアップしているが、レベルの関係だろう。
しかし今見ると、変化が分かる。超越者なんてあったか?
なんか、誓約とか、なんとか竜っていうのもある。
さっきのアナウンスらしきものが関係しているのだろうか。
「まあ、こんな感じなんだよ。この中で【
「そんなスキルがあるんですのね……でも、私は持ってませんわ」
「だよなぁ……」
うーん、試しにエリーナのステータスに隠蔽(ハイディング)をかけるか?
「エリーナ、ステータスを出してくれるかい? 試しにかけてみよう」
「そうですわね、試していただけます? 『ステータス:パブリック』」
「【
ん? なんとなくいけそうだ。
称号を見えないようにしてみる。出来た。
「他のステータスはどうする?」
「せっかくですからそのままでいいですわ。それと……お揃いの称号があるので、それは残しておきたいですわ……」
「……ん、そうだな」
まあ、【超越者】なら残していても問題ないか。
エリーナの後に自分の分も修正しておく。
バグもなくなったようだ。
叔父上たちや両親も修正されたステータスを見て、驚きはしたが何も言われなかった。
秘密は二人の心の中に仕舞われ、もう一つの秘密もなかったことにされた。
……と思ったのだが。
「レオン……【転生者】って、なんですの?」
あ、マズい。
「えーっと、かつて死んで、そのアニマを受け継いだってことかなー、わかんないけど」
「分からないならなんで【|解析(アナライズ》】しないんですの?」
「……」
やむを得ず、僕が前世でいた世界「地球」のこと、文化を話してどうにか納得してもらった。
まだ聞きたそうにウズウズしているが……
「また話してあげるから」
「約束ですわよ!」
そんな感じで、二人のステータス騒動は終わった。
「レオン……またボクを放置した」
「泣くなよアレク。男だろ? ハリーや俺と一緒だったじゃないか」
「……グスン」
* * *
少し経ったある日。
「レオン〜、エリーナちゃ〜ん。どこかしら〜?」
この声は。
「母上、如何されましたか?」
「んもう……二人とも洗礼終わってるんだから、魔法の練習しようって言ってたじゃないのよ〜」
そうだった。そんな約束をしていたな。
僕は【魔術】スキルを、エリーナは属性魔法スキルを持っているため、母上の研究をかねて二人で教えてもらうのだった。
まあ、どこまで魔法と同じことが出来るのか……
「じゃあ二人とも、まず判定の水晶を使うわよ〜」
この判定水晶に魔力を込めると、自分の属性の色の光が出る。
————まあ、結果としては順当じゃなかろうか。
元々属性魔法がスキルに存在していたエリーナはきちんとその属性が表示される。
水を示す青、風を示す緑、光を示す薄い黄色の光。
美しい輝きだ。
そして、属性魔法がスキルになかった僕は白い光——無属性となった。
そりゃそうだ。属性魔法スキルがないからな。
しかしそうなると、どうやって「魔術」を使うのだろう。
大体何が違うのだろうか。
「やっぱり、レオンはそうなるわよね〜」
「ですね……」
「はっきり言うと、私も初めて見るスキルなのよね〜【魔術】って。まず、『無属性』というわけではないから、エリーナちゃんと同じ授業で魔法を試して、どうなるか見てみるわね〜」
そんなわけで、まず詠唱魔法の練習を始める。
上級になれば、詠唱を短縮することが出来るが、まずはきちんと詠唱して魔法を構築する練習だ。
「イメージも大切よん。二人とも頑張って!」
そう母上が励ましている。
魔法を使う場合、杖を使うと魔法が扱いやすくなるので、練習用のワンドを持つ。
まずはエリーナからだ。
「『水よ、形を成せ――【水球】』」
エリーナがそう唱えると、テニスボール大の水の玉が杖の先に出来上がる。
「流石ね〜。もう少し魔力を込めてみて?大きくなるわよ〜」
「分かりましたわ!」
エリーナが魔力を込めると水球が大きくなり、サッカーボール大になった。
ふむ。魔力量や制御力でサイズとか調整できるのはいいな。
「これができるのは制御力が高いことの証拠よん。最近の子たちは制御力が低いのか、あまり出来てないのよね〜……確かに魔力制御の練習は地味だけど、これが下手だと後が大変なのよ〜」
そう言う母上の声は少し残念そうだ。
まあ、僕やエリーナはそれぞれの両親から鍛えられたので、元々のステータス以上に慣れている。
次は僕の番だ。
いわゆるお決まりではあるが、イメージしながら詠唱しよう。
「あ、レオンはこっちの杖を使いなさいな」
「あ、はい」
練習用のをさっき選んで持ってきたのだが、母上から別のものを渡された。
なんとも意味が分からなかったが、母上から渡された杖を構える。
ちなみに僕のは短杖である。
……某魔法学園の真似ではない。断じて違う。
水、水か……
流体で、酸素と水素の結合物……イオン結合?共有結合?忘れているな……
周りの魔素と体内の魔力を流体にして「水」の状態に変化させる、というイメージをした瞬間。
バシャン!
そんな音と共に、床に水がぶちまけられた。
いや正確には「水のようなもの」で、仄かに光を放つ流体だ。
おっと。空中に浮かべて保持してなかったし、水になっていない。失敗だな。
その「水たまり」に向けて杖を振り、流体から魔力に戻すようなイメージをする。
するとその流体が消えた。
「すごいですわ、レオン!」
「…………」
エリーナは喜んでくれるが、母上は無言である。失敗は失敗だからな。
「失敗しました母上。イメージって難しいですね……」
「あのね、今のは何かしら? 明らかに詠唱がなかったわよ? 聞こえなかったのかしら……」
確かに、詠唱する前に構築されたものな。
僕もびっくりですよ母上。
「レオン、もう一回さっきの水出してくれるかしらん? この瓶に入れてくれると助かるわ〜?」
「はい、母上」
今度は形を崩さず溢さないように……よっと。
仄かに光る流体を瓶の口から入れていく。
うーん、面倒だな。器の中に発生させられないだろうか?
そう考えた僕は、短杖を瓶に当て、イメージする。
すると瓶の中に流体が発生した。
「いかがですか、母上? このくらいでいいですか?」
「うん、十分よ……」
少し母上の顔色が悪いようだが、大丈夫だろうか。
「大丈夫ですか、母上? 顔色が優れませんが……」
「ええ、大丈夫よ……少し聞きたいのだけれど、どうやって今のを作ったのかしら?」
どう、といわれても。
とにかく、さっきイメージしたとおりのことを話したが、母上は信じられないと言うような顔をしていた。
「これが……【魔術】スキルというものなのかしら……本当に訳分からないわね……こんな簡単にできるなんて……でも、あの杖を使えるということなら……」
まあ、そこは前世の知識がありますからね。イメージは得意ですとも。
その後も僕は、炎らしきものや、風らしきもの、石らしきものを作っていく。
他にも、体を硬質化させてみたり、逆に関節の可動域を大きくしながら神経や器官を保護しつつ動かしてみたり……
本や瓶などを手も使わずに動かしてみたり、部屋の中を浮いて、飛んでみたり。
果ては植物の生長を早めてみたり。
エリーナに見せてみたら「すごいですわ!」と喜ばれた。
そういえばさっき、魔力で宝石をイメージして作った石があったな。
サファイアを参考に作ってみたが、エリーナにあげたらとても喜ばれた。
これができるのも、地球での人体や自然、科学に関する知識のおかげだな。
* * *
一人の女性が、テーブルの紅茶を一口飲み、ため息をつく。
「ウチの子があんなに非常識とは思わなかったわね……」
「どうしたヒルデ? 疲れているな……」
レオンやエリーナが寝た後、離宮でライプニッツ公爵夫妻が話し合っている。
今日の訓練に関して話し合っているのだ。
「レオンったら、詠唱もなしに魔法を使えるのよ……」
「何だって!? 普通、詠唱がなければ魔法は使えないだろう。大体何が使えるんだ?」
普通、魔法は詠唱ありきである。
詠唱の短縮はできても、無詠唱というのは高度な技術だ。
詠唱がなければ魔法は構築できない。よほど使い慣れた魔法であれば、イメージでできるが、それでも相当苦労するのだ。魔導師団長であるヒルデでさえ、無詠唱は一部の魔法のみである。
「……何でもできると思うわ。物を浮かせたり、自分が浮いたり。属性なんて関係なしと思うわ、恐らくね」
「なんてこった……」
ライプニッツ公爵は頭を抱えた。
そんなとんでもない息子だったとは。
それこそ長男なら、跡継ぎになるために国に居なければいけない。
でも、現状エリーナ王女の近侍で婚約者になったとはいえ、次男なのだ。
国を出られては本気で困る。
「まだ頭を抱えるには早いわよ、ジーク? あの子『魔水』を作っちゃったわ。それも大瓶5本分。それに魔水だけじゃないわ、純粋な魔石もよ? さらには自分の身体すら硬くしたり柔らかくしたり……」
「それ、本物なのか?」
「あら、失礼ね。魔導師団長の私を疑う気かしら? それに、あの子は明らかに『例の』杖を使えたわ……あの、古の魔術師の杖をね……」
頭痛がする。
それこそ「魔水」や「魔石」なんて、超高額で取引される物だ。魔物から魔石はとれても、純粋な物なんてまず存在せず、魔水にいたっては、旧世界の遺跡の中に稀に存在する泉から少量採れる位だ。
その希少性や使い方を考えても、宮廷魔導師団の、それこそ幹部クラスくらいしか扱える者はいない。
宮廷魔導師団長のヒルデが見間違うわけがない。
そして、極めつけは杖だ。
通常練習用の杖は魔法構築がしやすいように出来ている。まあヒルデ曰く、慣れれば使わないらしいが。
その練習用の杖ではないものでレオンは魔法を、いや魔術を使った。
元々あれは「賢者の杖」と呼ばれるのだが、どの魔導師もあの杖で魔法を使う事が出来なかったのだ。
それを易々と使うとは。
「俺、もう寝て良いか?」
「ダメよ?」
「あいつになんて言おう……『俺の息子が稀少素材を原価なしで作れる』なんて言えるかよ……しかも『賢者の杖』まで……」
大人は子供に振り回されるのかもしれない。
ライプニッツ公爵夫妻は翌日、珍しく体調不良で欠勤することになった。
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