閑話①:エリーナリウス
* * *
いつも見る夢。
豪華な椅子に座り、色々な人の相手をする夢。
見たことのない場所と風景。
民を見守り、民のために生きる生活。
その務めを一体どれほどの期間、続けているのだろう。
詰まらないとは言えない。
もちろん誇りに思って仕事を行っている。
でも、心のどこかで詰まらないと思っている。
だが、この椅子に座ると決めたのは他でもない「私」だ。
諦念に似た感情を覚えながらも、いつもの時間まで仕事を行う。
でも「あの日」。
漆黒の鎧を纏い、美しい剣を佩いて顕れた騎士。
金色の瞳を向けてきた彼は。
その「日常」を変えてくれた。
顔すら思い出せない「彼」。
でも、最も大切だと思う相手。
この感情を「あの日」の私は分かっていなかった。
知識はあっても、理解していなかった。
でも、今なら分かる。
これは「愛」なのだ。
あらゆる生命の根源。
理性を、知識を、本能を超越したところにある感情の深淵。
間違いなく、彼はもうすぐここに来る。
だから————待っているわ、愛しい人。
そうして、私は彼の名を呼ぶ。
「————」
* * *
はっ!?
今までのはなんですの!?
夢……ですわよね。
また見るようになりましたわ……
コホン。
皆様、初めましてですわ。
私はエリーナリウス・サフィラ・フォン・イシュタリア。
そう。このイシュタリア王国の「第二王女」ですわ。
昨日の午後。
遂に、義理ではありますが、従兄弟であるレオンハルト・フォン・ライプニッツ様にお会いしましたの。
ちなみに血筋を考えると「又従兄弟」でもありますわ。こちらの方が正式らしいですのよ?
私は母親が第二王妃ですから。
もちろん、兄や姉とは仲がいいですわ。
だって、お母様はお二人とも、一緒のパーティで冒険者をされていたそうですから!
おっと。話がずれましたわね。
実は彼……レオンのことは前からお話には聞いていましたのよ。
だって、お父様ったら「いずれお前の結婚相手だからな! 父親が嫌がってもそうするからな!」と何度もおっしゃっていましたから。
相変わらずお父様は調子がいいんですから……
それで、気になっていたのですけれど……
実際に会って、驚きましたわ!
とっても格好いいんですの!
鴉の濡れ羽色とでも言うのかしら、とても綺麗な漆黒の髪!
青と緑が最高のバランスでミックスした宝石のような瞳!
……おとぎ話の騎士のようですわね。
あ、おとぎ話は金髪だったかしら。
でも、私は黒髪の方が好きですわ。
とにかく!
それだけ素敵な人だったんですの!
もちろんそれだけではありません。
実は私、四歳の時に大聖堂で一度だけ七柱神にお会いしたことがありますの。
そしたら魔術神様から、
「あなたの一族に、とっても格好いい男の子がいるわよん? しかも……同い年で、最高にぴったりの相性なんだから!」
と言われたんですのよ!?
もちろん、一族は沢山いますわ。
でも、割と近しい年の何人かにお会いしましたけれども、ピンときませんでしたわ……
つまりですね。
同い年の親族なんて、レオン以外にはいませんの。
ですから、お会いできるまでひたすら勉強し、マナーを学び、ダンスを学び、できるだけレオンに近づけるように努力しましたわ……
彼の優秀さは、いつもジークフリード殿が自慢しておられましたから。
そして当日。
もう、お顔を見てからは一目惚れでしたわ!
とっても、とーーっても、格好いいんですのっ!!
しかも優しくて、もの凄く褒めてくださいましたの。
心臓が止まりそうでしたわ。
元々、お母様たちや伯母様がレオンに褒められていたのですけれど……
とてもとても素晴らしく褒めておられましたわ。
そうしたら……なんか、胸がチクン、って痛みましたの……
それで、はしたないですが自分からお願いしてしまいましたわ……
お母様たちもそうされていたから、問題ありませんわよね?
その後のことは皆様もご存じでしょう?
とってもとっても褒めてくれて。
この一部紅い、ブロンドの髪を大切そうに褒めてくださって……
でも実は。
一目惚れよりも大切なものがありましたわ。
レオンを見た瞬間、何かが囁いたのです。
「やっと————会えたね」と。
どういう意味でしょう?
初めて会いますのに。
でも、その時の私には、「彼と共にいたい」「彼の支えでありたい」「彼の笑顔を見たい」という想いでいっぱいだったんですの。
——まるで、前世でも一緒にいたみたいですわ。
だから、これからよろしくお願いいたしますわ、レオン?
ずっと、一緒にいてくださいね。
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