アフォガード

カゲトモ

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「やぁ、こんばんは」

 ゆったりとした動きでハットを持ち上げたのは、個性的なジャケットを羽織った伏倉さんだった。きっとそのハットもジャケットもお高いものに違いない。何となくそんな感じがする。

「さすが花菱君だね、お目が高い」

「いえいえ、そんなことは」

 だって伏倉さんはお金持ちだもの。

「実はコレ、一点物でね」

 ゴールドのマタドールが満たすグラスを揺らして伏倉さんが無邪気に笑う。

「一目ぼれをしてすぐに買ってしまったんだ」

「そうでしたか。とても良くお似合です」

 パッチワークのように色んな布を繋げて作ったジャケット。全てが違うボタンが付いていて一見派手なように見えるけれど、統一性のあるカラーで作られているからか見ていて不快な感じは一つもない。柄だけでなく素材も違う布同士なのに纏まっていてクールに見えるのは、作り手のセンスが良いからだろう。丁寧に作られたのが良く分かる。さすが伏倉さんが購入するくらいの高級店だけあるわ。これを着こなせる伏倉さんも凄いけど。

「ありがとう。とても気に入っているからそう言ってもらえて嬉しいよ。作ってくれた子もとても素敵な子だったし」

「作ってくれた子?」

「実はこれ、駆け出しのデザイナーが作ってくれたものなんだ」

 え、駆け出しのデザイナー?・・・と言うことはブランドものではないってこと?

「最終的に体型に合わせて手直ししてもらったから、半オーダーメイドって感じになるんだろうけれど、まだちゃんと店を持っていない子でね。ネットでたまたま見つけてすぐに購入したんだ。今は凄いね、こんなに素敵な作品を自宅に居ながら見つけることが出来るなんて」

 いい時代になったね、と伏倉さんは続ける。

 へぇ、凄い。作った服をそう言う風に売ることも出来るのか。

 俺の中で服は服屋に行って買うものだと思っていたし、デザイナーから直接買い取るのも普通の人は出来ない事だと思っていたから・・・いや伏倉さんは俺とは違うけどさ。でもこうやってどんなことでも気軽に自分の思う仕事が出来る時代になったって事かな。

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