フローラの決意

フローラからのお手紙(一)

     『フローラが香澄へ残した、お手紙の内容について』


 [親愛なる香澄へ このお手紙を読んでいるということは、あなたが自分のすべてを受け入れる覚悟が出来たことだと思います。思えば香澄が日本からアメリカへ留学してから、もう一〇年近くも経つのね――時の流れというものは、本当にあっという間ね。

 香澄はもう忘れてしまったかもしれないけれど、私は今でも一〇年ほど前に初めてあなたと出会った時のことは、今でもしっかりと覚えているわ。あの頃はまだあどけなさや初々しさが残る少女だったのに、今では知性と優しさを備え持つ女性へと成長したこと――私は誇りに思うわ。

 そして本来なら香澄に直接伝えるべきなのだけど、あなたの心の傷はまだ完全に癒えていないので、今回はお手紙に私の気持ちを書きしるすことにしました。このことを知ったら香澄はきっと怒るかもしれないけど――最後まで私の話を聞いてね。


 香澄がまだ大学生だった時に、私とケビンはあなたに教育実習の一環として、リースとソフィーを亡くしたばかりの少年 トムのお世話をお願いしたわね。香澄やメグ、そしてジェニーと一緒にトムと接してくれたおかげで、あの子本来が持つ優しさを取り戻すことが出来たわ。

 だけど結果的に私たちはトムを救うことは出来ず、その場にいた全員の心に深い傷が残ってしまった。特に誰よりも優しい香澄が受けた心の傷の深さは、私には想像出来ないほどだったのでしょう。


 そして数年後にエリーという新しい家族が出来るかと思った矢先に、彼女がトムと知り合いだったという衝撃の事実が判明した時のショックは、今でも心に焼き付いているわ。今ではお互いにわだかまりは解けたけれど、それでも香澄とエリーの心に深い傷を残してしまったわね。……本当にごめんなさい]

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