フローラの考察
『香澄のメッセージから読み取った、フローラの考察について』
一 香澄自身から居場所を伝えてきた・ジェニファーたちへ大切なお話があるという内容から、香澄はトーマスの部屋でフローラたちと出会うまでは、自殺する可能性は低いと思われる。むしろトムやフローラたちを心配する内容が多いことから、香澄自身もまた強い自責の念に襲われていると考えられる。
二 エリノアに対する謝罪があったことから、香澄は彼女がジェニファーたちと和解したことをまだ知らないようだ。その事実が香澄の心のさらしを解く、重要なキーカードとなることは間違いないだろう。
三 だがその一方で自発的に二度スマホの電源を切る・ジェニファーたちの行動を先読みしたとも取れる内容から察するに、香澄は冷静さを失っていないと思われる。むしろその頭の良さを香澄は存分に発揮しており、彼女を説得する際における余計な小細工はかえって逆効果になる可能性が高い。
四 メールの文面はいずれも丁寧なものだったことから、今のところは自分より人を思いやる、優しい性格の「香澄A」が強く表に出ている可能性が高い。だが香澄の心は非常に不安定な状態にあるため、何らかの拍子で人よりも自分の都合を第一優先する、「香澄B」が出てきてしまう可能性もある。
五 仮にフローラたちが香澄の説得に失敗した場合には、何らかの方法で彼女が危害を加える可能性は十分に考えられる。さらに香澄には心理学に加えて薬学の知識もあるため、彼女が毒ガスを散布する可能性も否定できない。
しかも「香澄A」の性格が表に強く出ているこのタイミングを逃すと、フローラたちが今後香澄を説得することは、非常に難しくなると思われる。さらに「香澄B」の性格が香澄の心を完全に支配してしまうと、もはやジェニファーたちの手に負えなくなってしまう。
さらに警察やFBIなどを巻き込むほどの事態になってしまうと、香澄が射殺されるという最悪の結果を迎えてしまう可能性も否定できない。
「……わ、私が今言えることはこれくらいよ。さ、さぁ。そろそろここを出ましょう。香澄がトムの部屋で待っているとはいえ、あまり悠長にしていられないから……ね」
あまりに恐ろしいフローラの考察を聞いたエリノアとジェニファーの両名は、目を大きく見開きながらも驚きを隠せないでいる。おそらく彼女たちは、香澄が心神喪失状態にあると思っていたのだろう。
しかし事態は二人が思っていたほど深刻化しており、香澄が犯罪者になってしまう可能性すら浮上してしまう。……フローラたちがこのような形で香澄の頭の良さを痛感してしまうとは、何とも皮肉な話だ。
話を終えた一同はレストランを後にして、オレゴン州ポートランドへ向かうためケビンは急いで車を発進させる。そして助手席に座っているフローラは自分のスマホを開き、そこで彼女は何かの操作をしている。……オレゴン州の警察に連絡を試みているのだろうか?
「ふ、フローラ。何か調べ物ですか?」
不審に思ったジェニファーがそう問いかけるものの、
「……えぇ、ちょっとね」
スマホの操作に夢中になっているフローラはどこか上の空だった。その後もフローラは数分ほどスマホの画面に向かって、何かを入力しているようにも見えた。
実はフローラにはワシントン大学の職員・臨床心理士という顔だけではなく、
「……よし、これでいいわね」
はっきりと言葉にはせず唇だけを動かしたフローラは、どこか満足げな笑みを浮かべながらスマホをポケットに戻す。
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