残された時間はあと三〇分!

オレゴン州 サンフィールド家の自宅 二〇一五年八月二五日 午前〇時三〇分

 香澄からのメッセージを受け取ったエリノアたちは、その後急いで彼女が待つオレゴン州ポートランドにあるサンフィールド家の自宅へと向かう。二四日の午後七時前後にワシントン大学を出発したので、本来なら同日の午後一一時〇〇分前後には到着する予定だった。

 だがあいにくこの日は道路が少し混雑していたため、結局彼らがサンフィールド家に到着したのは、翌日の午前〇時過ぎとなってしまった。

 しかし香澄自身が彼らの到着を待っていてくれたこともあり、エリノアたちは現状において最悪の結果を回避することは出来た。……不幸中の幸いとはまさにこのことだろう。


 午前〇時三〇分ごろにサンフィールド家の自宅前に到着した一同が屋敷に視線を向けると、二階の一部屋だけ明かりが点いていた。タイミングこそ異なるものの、彼らは一度サンフィールド家の自宅を訪ねている。よって明かりが点いているその部屋がトムの部屋であることは、誰の目から見ても一目瞭然だった。

「……メールに書いてあった通り、どうやらカスミは本当にトムの部屋にいるみたいだね。み、みんな、準備はいいかな?」

 

 おそるおそるケビンが皆の様子を確認するが、案の定エリノアとジェニファーの二人は両手を震わせつつも顔色が悪い。フローラも二人ほどではないにしろ、心なしか青白い表情をしており、そして緊張のためか血が滲みそうなほど唇を強く噛みしめている。


 しかしその一方で自分たちに残された時間はあまりない・もう一度香澄と一緒に笑いたい――そんな願いが彼女たちを導く一かけらの光となったのか、顔色が優れなかった一同の顔つきも次第に凛々りりしくなっていく。

「……わ、私はもう大丈夫です。私にはケビンやフローラ、そしてエリーが側にいてくれるから……」

「い、今まで私は自分のことしか考えていませんでした。き、きっと今の香澄も……そんな気持ちだと思います。だからこそ私は、そんな香澄を……救ってあげたい」

「……あなた、この子たちの準備はもう出来ているわ。もちろん……私もね」


 それぞれの願いや思いこそ若干異なれど、彼らが求めるものはたった一つ――それは香澄を救うことだ。今ここで香澄に救いの手を差し出さなければ、エリノアたちはこの先一生後悔することになるだろう。

 ジェニファー、エリノア、そして妻フローラの意志を改めて確認したケビンは、皆の率先役となりつつも彼女たちを先導しつつ、香澄が待つトーマスの部屋へと一目散に向かうのだった……

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