【エリノア編】

ロマンチックな観光名所!?

                九章


              【エリノア編】

   ワシントン州 エリノアの自宅 二〇一五年八月一〇日 午後五時〇〇分

 ふとしたことから香澄たちと仲違いをしてしまったことにより、新学期が始めるまでの間暇を持て余しているエリノア。本来なら今頃香澄たちとショッピングや旅行などに行っており、年頃の大学生らしい青春の日々を過ごしているはず。

 エリノア自身もこのままでは駄目と思いつつも、いざ実際に行動に移そうとすると体が震えてしまい動かない。一向に現状を変えることが出来ず苛立ちを覚えつつ、エリノアなりに問題解決に向けて一生懸命取り組んでいる。


 その一環として、エリノアは一人夜のシアトルの街へと外出することを決意する。気分転換もかねての外出ということもあり、この機会にエリノアはシアトルの観光名所を回ることにした。

『本当なら明るい日中に観光するのだけど、夜のシアトルを散歩するものロマンチックよね』

 フランスからアメリカへ引っ越してからのエリノアの生活は、何かと苦労の連続が続く。自分のことで精いっぱいだったこともあり、エリノアはこれまで自分が住んでいるシアトルを観光する機会が少なかった。

 むしろ家に引きこもるのは逆効果だと思い、エリノアは部屋に置いてあるシアトルの観光名所の雑誌をめくる。いつもならスマホを使って情報収集をするのだが、このときはなぜか旅行雑誌を読みたい気分だった。

「シアトルで夜景が綺麗な観光名所は――」


 子どものようにワクワクしながらページをめくっていくと、ある観光名所の特集が書かれた記事が目に留まる。

「――シアトルのスペースニードルから見上げる夜景は絶景そのもので、見る者の心を魅了する……か」

 エリノアの目に留まった観光名所とは、シアトルでも有数の観光名所スペースニードル。高い場所からシアトルの街並を見渡せることから、エリノアは故郷のフランスにあるエッフェル塔を思い出す。

「スペースニードル――パリだとエッフェル塔に近い建物ね。私もフランスにいた時、よくお友達と一緒にエッフェル塔に行ったわ」

学生時代の思い出を脳裏に浮かべつつ、一人ほくそ笑むエリノア。


 その後も旅行雑誌をめくってみるものの、スペースニードル以上にエリノアの好奇心をそそる特集記事はなかった。旅行雑誌を読み終えたのが午後五時三〇分なので、今から支度をすれば十分間に合う時間。落ち着いて出かける準備を済ませたエリノアは、夜の絶景を求めて一人スペースニードルへと向かう。

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