シアトルの街並に憧れて

 フランス パリ ホテル内のレストラン 二〇一一年七月二九日 午後六時〇〇分

 少し早いパリ観光を終えたエリノアは、最後のガイド役としてサンフィールド一家が宿泊するホテルまで案内する。彼らの宿泊先はパリでも有名なホテルで、エリノアをはじめとするフランス人やパリジェンヌなら誰でも知っている。

 本来ならこれでトーマスたちと別れる予定だったが、彼らがどうしてもお礼がしたいということで、エリノアをホテルのディナーに招待する。悪いとは思いながらも、せっかくの好意なので甘えることにしたエリノア。エリノアは前もって自分の両親には連絡しており、少し帰りが遅くなることは事前に伝えてあるので安心だ。


 レストランで食事を終えた後も彼らとの世間話は続き、まるで昔からの友達といるような不思議な気持ちになるエリノアたち。そんな自然な話の流れで、その内容はエリノアの将来の夢に本人の口から語られる。

「高校を卒業したらアメリカの大学へ留学して、そこでを学びたいと思っているんです。昔から私、プロファイリングとか興味があるので……」

「へぇ、今からそんな大きな夢を持って行動しているなんて、エリーはすごいな。……でも、エリー。心理学を学びたいなら、別にパリの大学でもいいと思うけど……何かアメリカにこだわる理由でもあるのかい?」

「えぇ。実は私、シアトルの街並にも興味がありまして。その二つの夢をかなえるためにも、シアトル周辺の大学へ留学出来たら……って思っています」

実に微笑ましい理由で、それを聞いたリースとソフィーは思わずほくそ笑む。

「シアトルの大学か――仮にエリーがシアトルのワシントン大学へ留学したら、フローラの教え子になるかもしれないわね」


 エリノアから“シアトルの大学”という言葉聞いたためか、とっさにワシントン大学に勤務するフローラの名をあげるソフィー。聞き慣れぬ名前に軽く首をかしげるエリノアを見たソフィーは、

「あぁ、ごめんなさい。フローラという女性はね、シアトルのワシントン大学で心理学を担当している講師なの。それだけでなく臨床心理士としても活躍しているから、まさに心理職の専門家でもあるのよ」

フローラの特徴について簡潔に述べる。

 だが当時パリにいたエリノアはフローラとは何の面識もないため、ソフィーの話についていくことが出来ない。だがソフィーの機嫌を損ねないように、適度に相槌あいづちを打ち続ける。

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