サンフィールド家の面影
オレゴン州 サンフィールド家の自宅 二〇一五年七月三〇日 午後三時〇〇分
丁寧に女性職員を見送った後、一人サンフィールド家へと入るエリノア。外観だけでも立派なお屋敷だが、室内はさらに豪華な作りになっている。だが人は誰も住んでいないことを考慮したためか、インテリアはあまり設置されていない。
『ここがトムたちのお家。私もフランスにいた時にお金持ちのお友達の家へ遊びに行ったことあるけど――それに負けないくらいの広さね。まるでちょっとした美術館や博物館みたいだわ』
なおお屋敷の中はとても広いという事情を踏まえて、先ほどの女性がエリノアへ室内の案内図をくれた。その案内図のおかげで、迷うことなく室内を自由に見学しているエリノア。
だがいくら案内図があるといっても、日が沈むまでにすべての部屋を見学出来るほど狭い屋敷ではない。また夜の八時までにマスターキーを返却しないといけないため、どんなに遅くても夜の七時前後には屋敷を出る必要がある。
そんな事情を考慮した結果、エリノアはサンフィールド一家が集まりそうなリビング、およびトーマスの部屋を中心に見て回ることにした。
屋敷の玄関口のすぐ隣にリビングがあったので、トーマスの部屋の前にそちらを見学することにしたエリノア。電気もしっかりと通っているようで、“パチン”と左手でスイッチを押すと室内の電気が灯された。
『このお屋敷の広さは本当にすごいわね。一階リビングだけでも、どれくらいの広さがあるのかしら!?』
一階リビングに用意されている食卓を見渡す限りでも、軽く数十人は座れそうなスペースがあり、思わず
本当なら今頃この席に座っているのはエリノア、そしてトーマス・リース・ソフィーのサンフィールド一家の四人のはず。だがそんな純粋な願いも二度と叶わなくなってしまい、改めて彼らとフランスで過ごした日々の想い出に浸る。
『数日間だけの想い出……か。当時の私はこんなことになるなんて、夢にも思わなかったわ。幸せに満ち溢れたリースとソフィー・そして彼らの愛息子でもあるトム。夢と希望を持ち続けたあなたたちが、どうして亡くならなければならないの? そしてこれが……あなたたちが本当に望んでいた未来ですか!?』
心の中にある苛立ちを秘めつつも、リビングに飾ってある絵画に視線を移すエリノア。そんな答えを探し求めるエリノアへ問いかけるかのように、壁には幸せそうに写っているサンフィールド一家の肖像画が飾られている。
気品や品格といった雰囲気が漂っているのはもちろんのこと、家族として幸せに満ち溢れた家族写真のようにも見える。
『……まるでこの三人が愛の素晴らしさを語りかけてくるような、素敵な肖像画だわ。見ているだけで心が穏やかになるというか……』
そんな二つの顔を持つ肖像画をしばらく眺めていると、これまで少し強張っていた瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。だがそれは滝のように流れ落ちる涙ではなく、朝露が葉にはねた瞬間のようにエリノアの白い頬を静かに濡らす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます