【エリノア編】

見知らぬ人影

               五章


             【エリノア編】

     オレゴン州 ポートランド 二〇一五年七月三〇日 午後二時〇〇分

 香澄たちがシアトルで時を過ごしている同じころ、エリノアはオレゴン州のポートランドにいた。目的はもちろん、かつてトーマスたちが住んでいた家を再度確かめるため。だが前回と今回とでは事情が少し異なり、今日はどちらかというと彼らが他界したことをいたむという表現に近い。

 なおエリノアはボルトバスと呼ばれる格安で利用出来るバスを利用して、ポートランドまでやってきた。料金も数十ドル前後と格安で、大学生のエリノアにとって重宝する乗り物の一つ。

 今現在は空き家になっているようだが、土地の管理人はハリソン夫妻となっている。誰も住んでいないとはいえ、常に綺麗な状態に保つためにはそれなりの費用がかかる。そんなリスクを抱えつつも、ハリソン夫妻はかつて彼らが住んでいた土地を手放そうとはしない。……その理由は謎に包まれたまま。


 今日改めて屋敷を訪れたものの、案の定入口の扉には鍵がかけられており入れない。むしろ入れないことは事前に分かっていたものの、

「……やっぱり駄目ね。トムたちがどんなお家に住んでいたのか、実際に確かめたかったのだけど。仕方ないわね、今日はこれでシアトルへ戻りましょう」

深いため息を吐かざる終えないエリノア。

 だが不思議なことに、今日に限ってサンフィールド家の前に見慣れない黒い車が一台停車している。“この家は確か空き家になっているはず?”と思いながらも、

「この車は一体誰の物かしら? 香澄やジェニーは車の免許は持っていないって聞いているから、考えられる可能性は――フローラかしら? もしくはフローラたちが空き家の清掃を依頼している、委託会社の人? いずれにしても、家の中に誰かいるかもしれないわ」

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