消えぬ少年の面影
ワシントン州 ハリソン夫妻の自宅 二〇一五年七月二四日 午後一一時〇〇分
時刻は夜の一一時〇〇分となり、学会を終えたケビンが一人帰宅する。ほんの数時間前の重苦しいハプニングなど知らないケビンは、
「ただいま――みんな、今日のパーティーは楽しかったかな!?」
元気よくリビングにいる香澄たちへ心境を尋ねる。
だがそんなケビンの予想に反し、リビングに香澄とマーガレットの姿はなかった。ジェニファーがソファーに座っているが、その表情はいつになく重苦しい。
「どうしたんだい、そんなに暗い顔をして? さては君たち……フローラが作ってくれたご飯を食べ過ぎたのかな?」
ケビンお得意のジョークでジェニファーを励ますものの、暗いうつむくジェニファーの表情が変わることはない。
そんな香澄たちの様子にケビンが異変を感じていると、リビングのドアを開ける音が聞こえてきた。
「……あらっ、あなた。おかえりなさい。学会は無事終わった?」
どこか元気のない顔をしながらも、ケビンに学会の進展を確認するフローラ。
「ただいま、フローラ。うん、学会はいつもの通り無事終わったけど。……ねぇ、フローラ。みんな、どうしたんだい? ひどく落ち込んでいるようだけど……」
出来れば真相を語りたくないという心境に
フローラの口から、数時間前に起きた出来事を知るケビン。その真相を知るや否や、香澄たちと同様にケビンもまた深いため息を吐く。同時にもうすべて片付いたと思っていた内容なだけに、ケビンの心もまた衝撃に打ち浸れる。
「……カスミに新しいお友達が出来たと聞いた時は、僕も心から喜んだのだけどね。しかしまさかエリノアという女の子がトムたちの知り合い……だったとはね」
「運命のいたずら……って言うのかしら? その事実を知った時は、私も頭が真っ白になってしまって」
心苦しさを感じさせるような雰囲気で、淡々と事実を説明するフローラ。だがひどく落胆しているのは、誰の目から見ても明らか。そんな落胆するフローラの手を、そっと握るケビン。
「フローラ、大丈夫かい? 君も顔色が悪いけど……」
「……えぇ、私は何とかね。でも問題はあの子たちよ、あなた」
事前に分かっていたこととはいえ、フローラの言葉を聞くと同時に思わず眉間にしわを寄せるケビン。
そこへハリソン夫妻の会話に加わろうと、ソファーに座っているジェニファーが二人に声をかける。
「私とマギーは大丈夫です、ケビン。でも一番の問題は……香澄だと思います。私たちの中で一番ショックを受けているのは、間違いなく香澄です」
「そういえばさっきからカスミの姿が見えないようだけど……ジェニー。カスミは今、自分の部屋で休んでいるのかい?」
「はい。でも香澄を一人にさせておくと不安なので、マギーが一緒にいます。でもそろそろリビングへ戻ってくると思います。……あっ、戻ってきました」
噂をすれば影とやらで、覇気のない顔をしながらリビングへと戻ってくるマーガレット。そしてケビンが帰宅したことを知ると、“あっ……おかえりなさい、ケビン”とそっと声をかける。
そしてマーガレットが椅子に座ると同時に、香澄の様子を皆へ伝える。
「……ほんの数分前に少し落ち着きを取り戻したみたいです。でも体の疲れがどっと出たのか、今夜は先に眠っています」
「そうか……ありがとう、メグ。君もつらい立場なのに、よく頑張ってくれたね」
とっさに相槌を打つマーガレットだが、その仕草からはいつもの元気な姿は感じられない。
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