兄さんがヤンデレ妹を愛しすぎている

浅田 時雨

第1話 シスコン兄とヤンデレ妹と俺

「はぁ」

俺は日々の疲れを圧縮したようなため息を吐き出す。

「どうしたんだい夏樹なつき君?」

「いや、お前の話し方がどうしたんだよ」

「長い付き合いなら察しろよ。お前をバカにしてるんだよ」

何こいつ?友にあるまじき行為をしてるぞ。

まあ、冗談なのは知ってるけどさ。

制服姿で帰り道を歩く俺と友人の神木かみき 総司そうじ

「・・・お前も長い付き合いなら察してくれよ」

「ああ、もしかしてお前の兄ちゃんと妹ちゃんのことか?」

「もしかしなくても、そうだよ」

総司と俺は幼馴染みで兄と妹の事を知っている。

というか、俺よりも先に知っていた。

「良いじゃん。仲が良いことは良いことだぞ」

「その仲の良さにも限度がある」

「あはは」

総司は心にも無い笑いをしながら、目をそらす。

「本当に毎日ハラハラして落ち着けないよ」

「まあ、義理の兄とか妹じゃなくて良かったな。不幸中の幸い」

「不幸なのは変わんないのかよ。・・・・・そんなフィクションみたいなことあったら今度こそ心労で大変なことになるわ!」

「だな」

二人であり得ない話をして、笑っている間に俺の家に着いた。

「じゃあな」

「おう。また明日」

別れの挨拶をして、自宅に入る。

学校の疲れか、これからの出来事についての不安か分からない何かが俺にのしかかり、足取りをさらに重くさせる。

リビングの入り口前に立ち、覚悟を決める。

毎日これをしているせいで、もはや日課になっている気がする。

帰宅とは、覚悟を決めてリビングに入るまでが帰宅です。

「お兄ちゃん!撫でて!」

「よしよし。冬花は可愛いね」

「んー」

ほらね。覚悟がいるでしょう?

リビングに入ると、俺の兄と妹がイチャイチャしていて、俺に精神的ダメージを与える。

兄の如月きさらぎ 春斗はるとはカーペットのにあぐらで座り、

妹の如月きさらぎ 冬花とうかは兄の組んだ足の上に座りなでなでを要求している。

アニメとかなら見ていてもなんとも無いけど、現実で実の兄妹同士が恋人レベルでイチャつく様を見ているのはキツい。

しかも、その兄妹が自分の兄と妹だと、形容しがたい気持ちになる。

例えるなら、上司に「自分で考えて行動しろ」って言われて、実行したら「勝手な事するな」と説教されたサラリーマンみたいな、どうしたら良いのか分からない気持ちだ。

しかも、二人は俺を完全無視で俺を出迎えてくれるのは、飾られているクマのぬいぐるみキーホルダーだけだ。

いつもの光景だけど・・・やっぱり見慣れない。というか、見慣れちゃいけない気がする。

「おお、帰ってたか」

「・・・ただいま」

春斗は俺に気付いて、上半身をひねりこちらに視線を向ける。右手は絶えず冬花の頭をなで続けている。

「じゃあ、俺は飯作ってるから」

「おう」

うちは、母が早くに他界し、親父は俺が高校生になって急に家から出て行き、いろんな所で仕事しているらしい。

昔から兄さんは頼りにならなかったから、俺が家の事をほとんどしている。

今日も、兄妹を監視しながら家事を済ませた。

寝間着に着替え、自分の部屋に向かう。

自分の部屋に入ると、机、椅子、パソコン、ベット、収納などのシンプルにまとまっている。

自分の体をベットに投げ、夢の世界にダイビングしようとした瞬間、充電中のスマホから機械的な着信音が流れる。

「誰だ、こんな時間に・・・」

電話を掛けてきた相手の名前を見て、素早く通話ボタンを押し、耳に当てる。

数瞬の静寂の後、俺は問いを投げかける。

「何だ親父」

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