本番
プロローグ
「ワン! ツー! スリー! はい! カードは見事消え去りましたぁ」
「腕、見せろ」
「はぁい、ご覧の通り裏も表もカードはございません。きれいさっぱり」
「違う。腕の中身を見せろと言ったんだ」
「……はい?」
「だから、歯でもナイフでもいいからその腕の皮を引き裂いて、肉の中にカードがないか見せろと言ってるんだ」
「いや、あの」
「それであればお前は嘘つきだ。殺して断罪する。だがなければお前は神か悪魔だ。殺して断罪する」
男の一言に、笑いが巻き起こる。
「いいぞ。さっさと引き裂け道化師ー」
「下らん。さっさと殺してしまえ」
「ばあさんや、命乞いはまだかいのぉ?」
「ジーさん、ばあさんは昨日食ったろ」
笑いに混じって好き勝手言われる。
みんなで笑顔、と日頃からいっているけど、これは俺が求めるエンターテイメントじゃない。こっちに来てこんな目にばっかりあってる。
とほほ、何でこんなことになっちゃったんだぁ?
▼
異世界で社長を決める戦争をする、と聞いた時、すっごいわくわくした。
あの陣営、あの兵器、あの化け物、勢ぞろいで戦うなんてエンターテイメントだ。
その中で俺は、社長になるつもりはない、という意思表示も含めてあちこち頑張った。この国の王族を消したり、弱っちい陣営に嫌いな奴らをまとめたり、色々暗躍して、それでいよいよ本番って時に邪魔が入った。
手違いか何か、転移システムの上限をはるかに超える物資の持ち込まれたのだ。
自体を打開すべく向かったらまたも手違い、王城に出された。そこから向かおうとした矢先、俺に通信が入った。
……要約すれば、俺も代理として戦うはめになっていた。
それも弱っちい陣営で、しかもこのデッキを理由に食べ物も飲み物もない状態で放り出されたのだ。
お陰で、こんなところで手品なんかやって日銭を稼がないといけない。
これは間違いなく、俺を陥れるための陰謀だろう。
もしも戦争で死ねばそれで良し、死ななくてもベルが壊されればここから出られなくなる。
犯人が誰だか知らないけれど、俺は絶対にあきらめない。僅かでも希望がある限り、俺は戦い続けてやる。
それに、やるなら徹底的に、誰よりも本気で、楽しんでやるぞ!
▼
「あ、ああ、あああ、あああああっぶしぇ」
「ばあさんや、今ゆくぞぉ……おぅぶ」
よし、せん滅、勝利だ。
こちらはノーダメージの先行ワンターンキル、やっぱ俺って天才かも!?
あ、まだ一人残ってた。
「待って! 待ってくれ! 金なら払う! だから!」
言いながら男は逃げる。逃げられたら、エンターテイメントにならない。
しかたない、エクストラターンだ。
「俺のターンドロー!」
よし、いいカードだ。
「コストを払い、イエローカード・カンガルー・発動!」
宣言、霧散、閃光、変身、力がみなぎる。
獣の五感、新たな知覚、カンガルーの獣人となって自然と構えるはボクシング。
「さぁて、お楽しみは、これからだっ!」
「待てって!」
待たない、即効はゲームの基礎、一足で間合いを潰し、二足で追いつき、三脚と共に後頭部へ拳を叩きこむ。
びちゅ。べちゃ。
一撃必殺、じゃなくて二撃必殺か。頭を殴られつまずいて顔を打って止め……だめだな、せっかく潰れた効果音は面白いのに、肝心の断末魔がないんじゃエンターテイメントにはほど遠い。せめてこう、ひでぶ的な一声で個性を付けてもらえないと、盛り上がらないな。
ま、素人に求めるのは酷ってもんかなぁ?
だけど本番はこうも行かない。どいつもこいつも強そうなのばっかりが来るだろう。しかもその中には俺をはめたやつもいる。どんな罠が待ち受けているか、わかったもんじゃない。
だけど、俺にできるのは、それまでに力を蓄えることだけだ。
と言うわけで腹ごしらえ、まずは、誰から食べようかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます