第8話 鉄棒制裁

「あー、くそっ!」

「よーし、このままゴールだ!」


 昼休みの時間、サッカーを楽しんでいる男子たち。まさやくんからボールを奪ったしょうくんが目指したのは、


「えっ、ボール?」

「危ない!」

「きゃーっ!」


 女子たちが遊んでいる、鉄棒でした。そしてしょうくんが蹴ったボールは、


「ちょっと! 大丈夫っ?」


 逆上がりの練習をしていた山元さんの顔に当たりました。それを見た男子たちは全員サッカーを止め、急いで山元さんたちに駆け寄りました。


「お前ら邪魔! どけよ!」


 しょうくんは、女子たちに怒っています。そして女子たちは、サッカーをしていた男子たちに怒っていました。


「人にボールぶつけといて、その態度は何よ! 大体、鉄棒はサッカーのゴールじゃないでしょ!」

「うるさいっ! 他の奴らが本物を使っているんだから、しょうがないだろ!」

「お、おい……。しょう……」

「大変! 今すぐ保健室、行こう!」


 しょうくんたちが言い争いをピタッと止めて見たその先には、鼻血を出して大泣きしている山元さんがいました。しょうくんに注意していた女子は、すぐに山元さんの方へ戻りました。


「あんたたち、絶対に許さない!」

「そうよ! 私たちは何も悪いことしていないのに……。ひどいわ!」


 山元さんの親友二人は、男子たちを睨みました。そして山元さんを保健室へ連れて行きました。


「みんな、謝りに行こう」

「うん。女子は何も悪くないよ」

「最初から鉄棒をゴールにしていた、おれたちが悪かったんだ」

「山元さん、すごく痛かったよね……」


 男子たちは山元さんに謝ろうと、校舎へ歩き始めました。ある一人を除いて。


「しょう、行こうよ」


 まさやくんは残って、しょうくんを呼んでいます。


「お前だけが悪いわけじゃないけどさ、山元さんにボールぶつけて、しかも鼻血が出ちゃったんだし……」

「嫌だ!」

「何だよ……。それならもう、おれは知らないっ!」


 とうとう、まさやくんも行ってしまいました。一人ぼっちになって遊び相手がいなくなってしまった、しょうくん。つまらなくなり、しょうくんは教室へ戻ることにしました。しょうくんがその場から三歩進むと、


「待て!」


 大きな声が聞こえてきました。


「な、何だっ?」

「私をくぐる前に、三つの質問に答えろ!」

「……は?」


 しょうくんに話しかけたのは、この小学校で一番大きい鉄棒でした。小学生は、ぶら下がるくらいしかできないような高さの鉄棒です。


「お前は鉄棒をサッカーゴールにしたことを、良いアイディアと思ったか?」

「……うん!」

「サッカーをしている自分たちにとって、山元さんは邪魔だったか?」

「そりゃそうだろ!」

「お前は鉄棒をゴールに使ってサッカーをしていた自分たちは悪くない、悪いのは鉄棒なんかで遊んでいた山元さんたちだ、と本気で思っているのか?」

「はっ、そんなの当たり前じゃん」


 これで、鉄棒からの質問が終わりました。しょうくんは全て、胸を張って答えました。


「そうか。正直でよろしい!」

「おっ! もしかしてプレゼントくれるの?」


 しょうくんが鉄棒からのご褒美を期待した瞬間、しょうくんの頭に何かが落ちてきました。

 そして、しょうくんは頭から血を流して倒れました。


「わーっ! 一番大きい鉄棒が壊れたぞ!」

「先生を呼んで来る!」

「ぼ、棒が頭に直撃するなんて……」

「怖いっ!」

「あれ、きっと怪我では済まないよ……」


 一方、しょうくんと一緒にサッカーをしていた男子たちは山元さんに謝り、仲直りしていました。山元さんの鼻血も涙も、今ではすっかり止まっています。

 この出来事は学校内で大きな話題となり、全校集会も開かれました。その後、山元さんは「大変だったね」「かわいそうに」とちょくちょく声をかけられました。

 最終的に意識が戻らなかったにも関わらず、しょうくんは「罰当たり」「ざまあみろ」など、自分が聞こえないところで心ない言葉をたくさん吐かれていました。

 もちろん、鉄棒をゴールにしてサッカーをするのは禁止というルールができました。

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