SPOTLIGHT

山吹K

俺と女

深夜、路地裏。

そんなところに人なんて来るはずない。

だけど、ここだけは違う。

俺、桐崎京がいることを知っている人物は来るのだ。


「ケイ、依頼があるんだが」


『ケイ』という名前は、俺の第2の名前とも言えるだろう。

名前の『京』のイニシャルからK、そして別の読み方として『けい』と掛け合わせた。


「どんなやつだ」


俺はタバコを吸いながら言うと、男は1枚の紙を俺に渡してきた。

名前、住所、連絡先、家族構成などの情報。そして、顔写真。


「いくらでやってくれる」

「300万でどうだ」

「いいだろう」


封筒に入った札束をもらい、男は路地裏から離れた。

この世界に入って何年経っただろうか。

もう3年は経つだろう。

だいぶ慣れてしまった血の匂いと苦しみながら死んでいく人間の姿。

そんな人間を見下ろしながら、俺はまた次の依頼を受けるのだ。


さっきの男からもらった紙を頼りに俺は、ターゲットの男の元へ近づくために家へ。

明かりはついていない。

深夜だからかと思ったが、なんとなく家にいないことを感じた。殺し屋の勘というやつだろうか。

俺は家から離れ、男がよく行くというバーに向かって歩き出した。

バーに行く途中、フラフラと歩いている男。

酔っ払っているようにしか見えなかった。

酒臭い男の隣を通り過ぎようとしたときだった。見覚えのある顔に俺は体を反転させる。


「おい、お前」

「あー、なんだよー。今どきの若造は本当……」


呂律が回っていないし、言っている言葉もいまいちわからない。相当酔ってるらしい。

顔を見ると、真っ赤なこと以外顔写真と変わらなかった。

ビンゴだ。俺は周りに人がいないことを確認した後、ターゲットの男の左胸に一刺しした。


「グハッ……!」


血飛沫が自分の衣類に飛び散る。

ナイフを引き抜き、死んでいることを確認した。そのままその場を離れようと歩き出したときだった。

後ろに気配を感じ、咄嗟に振り返る。

スポットライトのように街灯で照らされたターゲットの男。そして、同じように街灯で照らされた1人の女がいた。


「ねぇ」


見られた。殺してる場面を見られていないにしろ、この返り血を浴びた俺は確実に誤魔化すことなんて不可能だった。


「ねぇ、聞いてるの」


女は俺に声をかけていたらしい。

でも、俺の中ではそれどころではない。

自分の人生がかかっているのだから。


「あなた、殺し屋か何かでしょうか」

「そうだったら、なんだよ」


徐々に距離を縮めてくるその女に俺は一瞬にして目を奪われた。

黒髪にぱっちりとした目に赤い唇。スラリと伸びた手足。

今までこんなに美人な女はみたことなかったから、息をするのを忘れていたぐらいだ。


「あなたに依頼があるんだけど、やってくれるの」

「あ、あぁ。金さえくれればな」

「そうなんだ。じゃ、依頼してもいいかな」

「場所を変えた方がいい。ここじゃこいつを殺したことがバレちまう」

「すぐ終わるから大丈夫」

「すぐ終わるって……」


他人事だな、なんて思いながらもまあ当たり前かと納得する。

金さえ出せば自分が殺したい相手を殺してもらえるのだから。

実際、俺は依頼されたらすぐに動くタイプだ。

依頼されてから1日か2日、短い時には今日みたいに当日殺してる。

計画なんて立てる必要ないと思ってるし、時間の無駄だ。だから、早めに殺してもらいたいやつは俺の元へ来ることが多い。

この女は、俺のことを知らなかったみたいだし別に誰でもよかったようだ。


「俺のことも知らないのに随分簡単に言ってくれるんだな。まあ、いい。誰を殺してほしいんだ」

「私」

「はっ……」

「私を殺して」


札束を5つコンクリートの上にそのまま投げ捨てる。

見た目的には100万の束ってとこだろうか。

こんな大金を意味もなく持ち歩くなんてことは、ないだろう。本当に殺されるために用意したのだろうか。


「そう簡単に死ななくてもいいんじゃねぇの。お前まだ若いだろ。何歳だよ」

「23だけど。そんなことに口出ししてくるの、今どきの殺し屋って」

「ただ、俺が興味あっただけだ」

「興味があってもどうせ今から死ぬ身。ただのタンパク質の塊になる」

「いつ俺がお前を殺すって言ったんだよ」

「え……」


今までに自分を殺してくれ、なんて依頼受けたことなんてない。この女に興味が湧いたのは事実だった。

それにこれだけいい女が悪い扱いを受けているとは思わなかった。そう思うと、何かしら死にたいと思う理由があるのだろう。

なぜかわからなかったが、その理由も知りたいと思っていた。


「お前、どうせ死ぬ気なんだろ」

「そうだけど」

「なら俺の近くにいろよ」

「何言ってるの、馬鹿なの」

「頭がよかったら、良いとこ入って金儲けしてるだろうな」


なんだ、割と強気だな。

そりゃそうか、死ぬ覚悟があるならそれ以外のことを怖いなんて思わないだろう。


「死ぬなら俺がお前を良いように使ってから、俺がお前を殺してやる。それならいいだろ」

「本当にちゃんと殺してくれるんなら」


結局、1度も俺と目を合わせることはなかった。

俺の2歩後ろを歩く女に俺は自分が暮らしているアパートに連れて行った。


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