生きて痛い

生きて痛い

「このまま生きていきたくないなぁ」

彼女はそう呟いた。カーテンの隙間から差し込む夏の太陽は高く、朝と言うには時間が流れすぎたことを示している。これは不味い。私はベッドから起き上がり、遅刻の言い訳を考えながら洗面所へと向かった。結局汗など諸々が汚すぎたのでシャワーにかかる必要があった。私が用を済ませて戻ってくると、

「どこ行っても失敗ばっかりだし友達いないし。」

ベッドの上でまだ燻っている。彼女はどうか知らないが、私は半日でも講義に出ておかないと、単位がまずい。冷蔵庫にまだサンドイッチあったかな。

「私もう行かなきゃ。おーい。死ぬの?それとも変わりたいの?」

「わからない。」

「そう。あっ、サンドイッチがない!あんた食べた?」

「食べた。」

「まじか。まあいいや。あんたも講義出ないとやばいんじゃないの?」

サンドイッチがないから予備のカロリーメイトを齧る。面倒臭いので昨日と同じ服に着替え、スマホの充電コードを抜く。

「いや別に留年してもどうせ死ぬし。」

「死ぬのはもうちょっと先なんでしょ?もったいないから出とけ出とけ。」

「いや今日取ってある講義全部午前中で終わった。」

「終わったんかい!じゃあ今日はあんたの好きな猫ちゃん型のドーナツ買ってきてあげるからちゃんと生きて待ってなよ。」

「わかった。」

「あっ、あとぜっったいお風呂に入ってよ!」

そういうと私は急いでドアを開け、大学へ向かった。スマホをチェックすると、思った通り「財布」達からのLINEやDMが大量に入っている。あいつらの前で可愛い顔をするのも結構疲れるのだ。全員に同じ返信をする。

「ごめーん(>_<) すっかり寝坊しちゃった💦 許して(>︿<。)」

だっる。私を「女」として見ている男は扱いやすいがあまり気持ちのいいものでは無い。バスが来た。バスは私と数人の乗客を飲み込み走る。

「…未来を……信じて……希望と…………夢に向かって………」

近くの乗客のイヤホンから音漏れがしている。希望、夢、未来。随分と気持ちの悪い言葉だ。そうだ。薬を飲むのを忘れていた。手持ちの水筒で手早く錠剤を飲み込む。血圧を上げる薬と向精神薬。最近また向精神薬の量が増えた。思えば随分昔から飲んでいる気がする。まあいいや。そんなことより今日は彼女にドーナツを買わなければ。バスが次の停留所を示す。

「次、留まります。」

私がボタンを押すと無機質な音声が流れる。バスから降りるともう大学は目の前だ。巨大な校舎が私の前に聳え立っている。ここに入れば私も騒々しくて下賎な外界の一部だ。嫌で嫌で仕方ない。いっそ彼女のように呼吸さえも諦めることを選んでしまおうか。でも私はこの生を手放すのが怖い。どうせ今日も

「変わり続けて生きていくんだろうなぁ」

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