42.誘拐犯
「お父様、お母様!!」
「「リーベ!!」」
ひしっと抱き合うプリンゼシン一家。君たち、それリーベが攫われる度に毎回するの?別に悪いわけではないけどさ。見てて嫌な気分もしないし。
今、俺と真雫はプリンゼシン公爵家の館にいるわけだが、この親子の感動の再会が長すぎて、なかなか話が進まない。感動したのはいいから、早くこの件について話を聞きたいんですけど……。
すると、それを見てか、執事が咳払いをした。気の利く執事だが、その止め方はまずい気がする。
特に気にもしなかったようで、公爵たちが俺達を応接間へと案内する。
「まず、娘をまたも救ってくれたこと、感謝する。ありがとう」
「ありがとうございます」
「いえいえ、元の原因は俺ですので。頭を上げてください」
そういや、俺がこの状況を作った張本人なんだよな。なんで俺はこういう時の相手の心情を察することができないのだろうか?まぁ、難しいか。
「それと、気持ちは決まったかな?」
「はい。すみませんが、お断りさせていただきます」
「そうか。それが君の選択なら、無理にひきいれる意味もあるまい」
潔くて助かる。こうして、俺に爵位がでることはなくなった。
一先ず、俺がプリンゼシン家の一員になることの問題は解決。本当に話がしたかったのは、次の問題。
「公爵、今回、リーベを攫ったヤツに心当たりは?」
「……良くも悪くも、我がプリンゼシン公爵家は他の家と比べると家柄がいい。故に、正直心当たりは多い。それでも敢えて言うなら……」
口篭る公爵。まぁ、他の家や人を疑うのだから、無理もない。少しして、再度公爵が口を開く。
「まず、東区画のラウト公爵家だな。昔からリーベを我が嫁に!派のヤツらだった。ノアさんとリーベの縁談が上がった時も猛反対していたからな」
我が嫁に!派のヤツらってなんだよ。リーベってモテるな。
それはともかく、縁談なんて話、1度も聞いてないぞ!?そういう感じの世界ってのは分かるけど、知らせることすらしないのは酷くない!?
「次は、カンフ候爵家だな。この家は我が嫁に!派でもないのだが、一昔に一悶着あってな。恐らく現在進行形で恨まれている」
なるほど。恨みによる犯行、か。なんか微妙にアリがちで、なんかなぁ。
「私の考えだと、このふたつの家だな。流石に個人の犯行なら分からないが、家が関する犯行ならこのふたつだ」
「あの、発言いいですか?」
「どうした、リーベ」
「はい。実は、犯人の顔、私見たことがあるんです」
「!……誰かは分かるのか?」
「……シアー様でした」
シアー?話の流れから、ラウト公爵家の一員だということは分かるが……。
「それってどんな人?」
「えと、金髪で、冒険者やってます」
金髪、冒険者、シアー、ラウト。うーん、なにか思いつきそうで思いつかないな。
「ノアノア」
「どした?」
「ギルドで決闘を申し込んできた人」
「……………………ああ!あの時の!」
今思い出した。確か、俺が殺気で追い払ったヤツだ。確かに『ラウト』って名乗っていたような。ただ、自己紹介に苗字だけしか言わないとか、どういうことよ。
あの場からして、明らかにラウト公爵家が、もしくはシアー個人が犯人で間違いないだろう。
まぁ、それは問い詰めればわかる事だな。
「というか、君たち、何故覚えていなかった?」
「出る言葉もございません」
忘れることもあるよ。だって俺も人間だもん。大目に見てくれ。
とりあえず、今回の犯人はわかった。国王陛下に一度話してみよう。もしかすると、動いてくれるかもしれない。
「君たちも、もう疲れただろう。この館で、でもいいから、休んでくれ」
「ありがとうございます。……どうする、真雫?」
「……うーん」
「大丈夫ですよ、遠慮しなくても」
「リーベ……分かった、じゃあお言葉に甘えるよ」
そうやって、恐らく事前に用意されていた俺達それぞれの部屋へ向かおうとすると。
「あぁ、ノアは少し待っていてくれないか?」
「え、あ、はい」
公爵に呼び止められた俺を尻目に、他の真雫や侍女達も含めたみんなは部屋から出る。
なんの話があるのだろうか?色々と思い当たる節があるが……。
「まぁ、とりあえず、座ってくれ」
「あ、はい、失礼します」
導かれるがままに椅子に座る。この椅子は高いのだろう、座り心地が半端ない。王宮にある俺達の部屋の椅子やソファと同等以上だ。
「すまないが、少しデリカシーのない質問をさせてもらうよ。君、リーベの所に転移できただろう?」
「……はい」
「あぁ、いや、別に責めてるわけではないんだ。娘は元気だし、君のことだから、何か対策でもしてあるのだろう。多分、転移しなかったのも、リーベになんて言おうか分からなかった、という感じだろう」
なんて鋭い人だ。伊達に公爵ではない。
「でも、俺の所為でリーベに恐怖を抱かせたのは事実ですし……」
「ふむ……なら、罰を与えよう」
「罰、ですか?」
「あぁ、罰。といっても、そんなやばいやつではない。恐らく今回は十中八九ラウト公爵家の仕業だと踏んでいる。故に、証拠を1つでも見つけ次第、裁判へと運ぶつもりだ」
「裁判、ですか……」
「あぁ。だから、君には重要参考人として、その裁判に出てほしい。正確には、少し汚いことをしてもらいたい」
汚いこと……?裁判で汚いこと、って、そうないと思うのだが。
「君に、彼ら公爵家に、威圧を掛けて欲しいんだ」
「い、威圧?」
「確か君、そういうこと出来ただろ?だから、それを使って、嘘かどうかを見抜きやすくするんだ」
なるほど、確かに汚い仕事だ。しかし、それがバレれば、まずいことになるのでは?
「心配はいらない。魔法というわけではないし、単純に君の威圧に怯えた、というぐらいだからね。威圧を強化はできないだろう?」
「ええ、できませんが……」
屁理屈な気がしないでもない。それに、証拠が見つかればいいのだろう。まぁ、念には念を、ということだな。
「話はそれだけだ」
「はい、では、失礼します」
そして、俺も部屋から出る。
──これ、どこに向かえばいいんだ?
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