3章 妹、誕生せし編

37.龍殺しの余波

 ザザザザザッ!


 足元に、俺を避けるように大量の自動剣フラガラッハが突き刺さる。実際は、俺が避けたのだが。


 昼下がり。俺と真雫は、鍛錬に励んでいた。


 パレード以降、俺達は相当目立ったものになってしまった。あそこに行くと人だらけ、またあそこに行くと人だらけ。どこもかしこも人だらけ、といった状況に陥り、満足に行動ができないでいる。


 この前だって、最近よく行っていた『レストラン・ヨールッパ』に行った時だって、俺達の周囲に人集りができてしまい、店に入ることすら叶わなかったのだ。当分は、外出も厳しくなってしまうだろう。龍退治を成したことに、本気で後悔した。


 まぁ、外出はしたいから、今度認識阻害の腕輪でも作ろう。偽りの仮面ゲフェルシュタみたいに、相手の記憶を有耶無耶にするものがいいかもしれない。


 そんなわけで、一応リーベにしか知られていないこの丘で鍛練せざるを得ないのだが、昼ご飯はどうしようか。外で食べるつもりだったから、作っていないんだよね。


 そんな事を考えながら、地に突き刺さった自動剣フラガラッハを空中に浮かせる。このスピードなら、他のことを考えながら避けるのも容易になってきたな。もう少し、スピードをあげよう。


 もう少し器用にこの剣を操作できればいいんだけど、中々どうして難しい。練習はしているのに、これっぽっちも上達しない。才能なのかね?


 自分の才能につべこべ言っても無意味なので、鍛錬へと意識を戻す。


 ちなみに真雫は、防御壁マウアーの研究及び鍛錬をしている。前の龍退治の時も、多分防御壁マウアーを駆使して無傷で倒したのだろうしね。


 俺は攻撃はともかく、防御を忘れる時があるからね、どうにかせねばならない。いつもつけていれば万事解決なのだが、腕輪をずっと付けていると、腕が以上に痛くなるから、あまりしたくない。この世界に来てから、長時間身につけたことはないから、もしかすると大丈夫かもしれないが。いつか試すとしよう。


 自動剣フラガラッハの群れを、極力無駄のない動きで捌く。訓練の成果は出ているようで、前より速く動けるようになっていた。でも、魔眼共鳴状態の俺には遠く及ばない。


 ちなみに、俺の今のステータスプレートは、


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


基礎能力

《普通状態》

攻撃:273

防御:248

俊敏:329

体力:336

魔力:5278


《魔眼覚醒時》

攻撃:2730

防御:2480

俊敏:3290

体力:3360

魔力:52780


《魔眼共鳴時》

攻撃:8190

防御:7440

俊敏:9870

体力:10080

魔力:158340


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


 ついに、と言うべきか漸く、と言うべきか分からないが、魔眼共鳴状態で体力の桁が5つになった。知らぬ間に、体力は増えていたらしい。全てそれなりに上がっているのは、龍との戦いも大きく関係しているだろう。


 このままだと、すぐに俊敏も桁が5つを越えるだろうから、1番低い防御をあげるか。伸びはいいのだが、それでも防御が1番低いのはなんでだろうか。体質とか、能力とか、そんなものだろうかね?


 一通り鍛錬を終えたところで、真雫のところへ行く。真雫は、いつも丘にたつ木の近くで鍛錬をしている。特に意味は無いらしい。


「真雫、1回休憩入れるぞ」

「……うん」


 額に汗をかいた真雫が、可愛らしくそばに来る。汗が首筋を滴り、鎖骨を通って胸元に通っていく姿が艶かしい。


 危うく視線があらぬところに行きそうなのを必死に堪える。そういったところに視線が行ってしまうのは、男の性だな。


「フフッ」


 何故笑う。まさか読まれたか……?そういや前も読まれていたし……本当、どこでその技術を手に入れたのかね?


 何か言うと薮蛇になりそうだったので、顔を背けながら自室へと転移する。


 あっ、昼ご飯どうしよう?すっかり頭から抜けていた。外に出ると目立つ以上、作るしかないんだが……。


 魔法冷蔵庫を開けて、材料を確認。残った材料は……卵と食パン。それと……カボチャ?そんなもの買ったけ?


 ちなみに、こういった食材は全てネイヒステン王国の一件からすべて街に行って買っている。……って、外に出れないんじゃ、買出しにも行けないじゃん。マジでどうしよう……。今度国王陛下、それかバータ公爵に頼むか。あまりあの人たちには苦労をかけたくないんだがなぁ。早く腕輪を作ろう。


 他にもまだ食べ物の種類はあるが、種類のみ豊富なので、割愛する。


「よし、今日はカボチャ料理にするか」

「ヤダ」


 独り言だったのに拒否られた。


 そういや、真雫は極度のカボチャ嫌いだったな。かく言う俺もカボチャは嫌いだが、真雫の方が凄い。兎に角カボチャが嫌いで、中学の頃も、給食に出てきたカボチャは、絶対に残していた。それでも、他のは全て余さず食べていたが。


 それはともかく、どうしよう?


 こんな世界だから、真雫には極力無理をして欲しくないため、あまり真雫が嫌いな食べ物を出したくない。好き嫌いが少ないからそれはいいのだが、いざ彼女の嫌いなものしかないとなると、困るな。


 そうだ、かぼちゃケーキにしよう。材料は揃っているし、前に作ったことがあるから、レシピも大方頭に入っている。別に1日くらい昼食がケーキでも罰は当たらないだろう。


 まず、カボチャのワタや皮などを取ったり、サラダ油や砂糖、ホットケーキミックスらしきもの(一応ホットケーキはこれで作れる)を混ぜたりして、それらを混ぜ合わせる。


 混ぜ合わせる間に余熱していたオーブンに、少し大きめのカップに混ぜ合わせたものを入れたものを投入。後はこれで25分待つだけ。


 少し物足りないかもしれないから、コーヒーも入れよう。


 中二病あるある、コーヒーが突然好きになる。否、コーヒーが好きと自称する。まだ黒歴史が生きていた時に、コーヒーの入れ方は覚えたので、普通に作れる。プロ顔負けの美味しさと自負しているが、味の感じ方には個人差があるだろうし、そこのところは真雫に聞いてみよう。


 丁度できたかぼちゃケーキと一緒にコーヒーを運ぶ。真雫は、疲れたのかソファで寝転がっていた。


「真雫、できたぞ」

「カボチャは無理」

「ケーキだ、ケーキ。ケーキなら食べられるだろ?」

「…………」


 真雫は、納得いかない、と言いたげな顔をして席に着いた。カップに入っているケーキをじっと見ている。食べていいんだけどな。


 待つだけ無駄な気がしてきたので、先に食べる。それをキッカケに、真雫も食べ始めた。


 お口には合ったようで、喜んで食べていた。俺的にも、確かにケーキなら、カボチャは大丈夫だな。生とか、原型が残っていると、あまり食べたくはないが。


 ものの数分で平らげる。材料があれだからか、珍しく感想は言わなかった。美味しく食べてくれていたから、特に不満はない。


 さて、今日の午後はどうしようか。飲み干したコーヒーカップを洗いながら、午後の予定を考える。ギルドには目立って行けないし、鍛錬ぐらいしか出来ないのだが。これだと生活に支障をきたすな。ギルドにだけは、人集りが出来ないうちに用事だけ済まして帰ることにしよう。それだったら行けると思う。……状況によるか。


 とりあえず、ギルドに向かうか。


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


 ギルドには、やはり人が少なかった。ここなら、一般人は入れないし、冒険者も元の数がこの国には少ないから、人集りは出来にくいかもしれない。


 それでも時期に人集りができるだろうから、早急に事を済ませよう。


 真雫にさっさと受けるクエストを選んでもらい、ほかのことは気にせずカウンターへと一直線。


 受注を颯爽と済ませ、極力無駄のない動きで、ギルドから出……たかったのだが、阻まれた。1人の冒険者によって。


「やぁ、君が『龍殺し』だね?」


 無駄に爽やかに、肩にかかるぐらいの髪をフゥァサッ、と靡かせて、何故かウインクをして俺達の前に立っていた。うわ、面倒臭いオーラが凄い。


 真雫も、同じことを考えているのか、嫌なものにあった、という顔をしている。


「……何の用ですか?」


 珍しく真雫が切り出した。よっぽど事を早く済ませたいらしい。まぁ、面倒くさそうだから、無理もないか。俺も早く終わらせたいし。


「これはどうも、マドモアゼル。私はラウトと申します。この度は──」


 色々長かったので割愛するが、つまりは俺達に手合わせ願いたいらしい。時々見え隠れしているように、自分が俺達より上だと、証明したいようだ。


 さて、案の定面倒くさいやつだったが……どうしようか。いや、相手にはしないのだが、どう追い返そう。このまま口だけで帰すと、つけられたりしそうだし、かえって戦うと、より知名度を上げかねない。殺気で怯えさせて、二度と俺達に戦いを挑めないようにするか。トラウマを作る感じでいこう。


「すみません、俺達用事があるので」

「まぁまぁ、待て待て──」


 フゥァサッ、とまた髪を靡かせるコイツだけに、少し本気を出した殺気をぶつける。


「──ひっ」


 顔面蒼白で、彼は退いた。やはり、言葉だけだったか。まぁ、予想通りだが。


 まだ、少し邪魔だったので、続けて殺気を放ちながら、


「どいて下さい」


 彼は萎縮したまま、まるで怯えるように逃げていった。これなら、多分もう俺達に構うことはないだろう。


 というか、これも龍殺しを成した影響だな。あんな面倒くさそうなやつに絡まれてしまうとは。前までは割とこっそりと動いていたから、何も無かったけど、パレードで顔をがわれているからなぁ。本当に馬鹿なことをした。


 近日中に腕輪を作る気だったけど、今日作ろう。徹夜だな、今日は。


 とりあえず外に出て、人のいない路地に行く。


 リーベが馬車でどこへ向かうのが視界に入った。公務かな?バータ公爵は見えない。恐らくリーベ1人だろう。


 向こうは俺に気づかなかったようで、馬車は颯爽とその場を離れていった。


 追いかけてもなんなので、鍛錬場所である丘に転移する。


 受けたクエストの指定場所はここから近いから、さっさと済ませよう。


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


「ん、終わり」

「だな」


 遺跡のような場所に佇む2人の影。その周りには、それはもう大きなが、死屍累々と転がっていた。


 俺達が受けたクエストは、アリの魔獣(魔虫?)が大量発生したため、その駆除である。このアリは、ゾンビーズアーマイゼンと呼ばれるもので、アンデッドでもあり、個体の強さはそれほどでもないが、死んでも1度だけ復活するという特性を持っている。つまり、2回殺さなければならない。


 ちなみに俺達が使った対処法は、まず、真雫が全てのアリに俺だけが壊せる硬度の強さの防御壁マウアーを張り、動きが止まったところで、俺が不壊剣デュランダルで一刀両断していく、という方法だ。


 俺が1人で火焔剣フランベルジェとかを使って殲滅しても良かったのだが、ここは遺跡だから、傷つけるのは気が引けたので、この戦法を取っている。


 殺した分のアリの触覚を切り取って、袋へと入れる。う、手に緑色の血?がついた。嫌悪感がする。昔から虫の死骸を見るのは嫌いだったが、【精神強化】を手に入れた今でも、それは変わらないらしい。


 ギルドに提出するために、またギルドへと戻る。


 さっきのやつみたいなのがまた関わってこないように、早急に事を済ませ、早足で自室へと向かう。思いの外時間がかかり、現在時刻は6時だ。


 さて、夜ご飯はどうしようか。気疲れしているので、作りたくはないのだが、外には行けないしなぁ。


 と思いつつも、材料が限られているので、昼に作ったかぼちゃケーキのあまりを食べることにする。


 真雫は、このケーキは気に入ってくれたようで、美味しそうにもぐもぐと頬張っている。


 食べ終わったところで、早速作業に取り掛かる。腕輪を作る作業だ。徹夜の可能性が高いから、早く作っておきたいんだよね。風呂は、終わってから入るとしよう。


「ノア、一緒に入ろ?」

「アホか、先入ってろ」


 本当にこの娘は意味が分からない。


 何故か粘った真雫を説得し(代わりに今度1度だけなんでも言うことを聞く約束を取り付けられたが)、作業に集中する。


 武器や防具の作り方は、大きくわけて2種類ある。


 まず、1つ目は他のものをイメージして、創造する。つまり、パクリだ。これは、アイデアなどを拝借しているため、すぐに作ることが出来る。これには、火焔剣フランベルジェ不壊剣デュランダルなどが分類される。


 次に、2つ目はオリジナルのイメージで、創造。俺自身で考えたことを、武器や防具に反映させる作り方だ。構造から能力内容まで、自身で考えるため、時間がかかる。主に偽りの仮面ゲフェルシュタとか、最後の抵抗ラスト・ウィダースタンドなどが分類される。


 しかし、例外もあり、転移剣ウヴァーガンはアイデアは拝借だが、武器の構造とかは俺のオリジナルだ。


 今回は後者のため、時間がかかる。イメージしにくいものなので、尚更作りにくいのだ。最後の抵抗ラスト・ウィダースタンドだけでも、作り終えるのに約5時間を費やしたんだよね。今回は何時間かかるだろうか。


 さぁ、頑張って平和を取り戻そう。

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