幕間話4.リーベ・プリンゼシンの1日

 私、先駆者ピオニア=後継人ナーフォーガことリーベ・プリンゼシンの朝は、静かに始まります。そう、母の静かなる怒りによって。


「リーベ?早く起きなさい?」


 いつものお母様の、朝の低い声が耳に響きます。身の危険を察知し、私はベッドから、迅速に起き上がる。


「料理長が朝食の準備をしました。早く食べましょう。冷めちゃいます」


 お母様に言われ、朝食があるリビングへと向かいます。


「おぉ、リーベ。起きたか」


 お父様は既に席についていました。家訓で、朝食は家族揃って食べると決められているので、まだ朝食には手をつけていないようです。


「じゃあ、いただきます」

「「いただきます」」


 揃ったので、料理長が作ってくださった料理を口に運びます。


 確かに、朝にぴったりで、とても美味しいのですが……ノアの料理が食べたいです……。料理長に失礼なのは承知しているのですが、どうもノアの料理の味が忘れられません。どうすれば良いのでしょう?


 その場では、何も案が思いつかなかったので、さっさと食べ終わり、仕事を始めます。


 私の仕事は、お父様から賜った、書類の整理です。プリンゼシン公爵家の経済面の問題や、南区画の経済面の問題。また、南区画をどうやって発展させるかの案や、わ、私への、きゅ、求婚、内容まで。


 とにかく、私の仕事は、思ったより多いのです。別に、毎日暇なのではございません。


 ちなみに、お父様は日々、国王様から賜った仕事を、お母様は、他の家からの情報収集の仕事をしています。


 私は、人前が苦手だけど、記憶力には自信があるので、この仕事を貰いました。お父様は、「無理しなくてもいいんだよ」と優しくしてくれますが、だらけるのはあまり好きではないので、日々頑張ってます。


 まず、家の経済面の問題の書類の整理です。


 自分で言うのもあれですが、プリンゼシン公爵家は、それなりに裕福な家柄なので、特に何もございません。


 次に南区画の経済面の問題ですが、これが意外と多いのです。事件や事故の被害額だったり、他区画や他国などのトラブルだったり。とにかく多い。


 約1時間かけて、南区画の経済面の問題終わらせます。今月は特に事故件数が多いみたいです。お父様の苦労顔が目に浮かびます。頑張ってください、お父様!


 心のエールを送った次に、南区画の発展案の整理です。


 実際は、この区画は十分に発展しており、何の手を加えなくても、存続していく分には足りています。区画競走とかもないので、実際発展しなくても、実害はございません。


 ですが、人のいいお父様の性分故、お父様は日々区画の発展に尽くしています。


 そんなお父様の案や、その臣下の方々の案がここに並べているのですが、やはり南区画は、あまり他区画と比べ、名産物などが少ないようです。


 とにかく、今は書類の整理。発展のことを頭の片隅に置いといて、次は……求婚です……。


 何故、殿方は私に求婚なんてしてくるのでしょう?この度の求婚者の方々も、どうやら全員以前お断りさせてもらった方々ですし。


 承諾する気は毛頭ないので、全てごめんなさいと一言添えて、返すことにします。10数枚あるから、ごめんなさい、と書くだけでも疲れます。


 午前中は、いつもこうやって仕事を終えたあと、見計らったように料理長の昼食の準備が出来ます。出来た人です。


 お母様に呼ばれ、リビングへ。お父様は、お外にいられるので、現在はいません。


 昼食を食べながら、やはりノアとマナと食べたいと思ってしまいます。以前は先程の仕事は、両親がどちらともいなかった私は執事やサイス様に任せていましたが、今はそうはいきません。でも、また、彼らと遊びたい……。どうか、一日中彼らといても、何も言われない方法とかあるのでしょうか。


 これも思いつかなかった私は、またすぐに食べ終わり、続いては書庫へ向かいます。後学のため、勉強するためです。


 主に勉強と言っても、経済学や統計学、あと心理学や数学などです。


 たまに、気分転換で他の本にも手を出しますが、基本的にこの4種類に関する本を読みます。


 とはいえ、ここの本はあらかた読み尽くしてしまいました。どうしましょう?


 仕方ないのかよく分かりませんが、とりあえず、あまり手に取らなかった恋愛本に手を出します。


 内容は、簡潔に言うと、主人公を彼女と、主人公の妹が取り合う話でした。あまりドロドロしていなくて、読みやすい本でした。


 もしかしたら、まだあるかもしれない。そう思い、暫し恋愛本に手を出しました。


 そして、読み漁ること数時間。いつも通り、気づけば日が暮れかけています。


 この時間に、また料理長は夕食を用意してくれているので、部屋に戻ります。


 案の定、料理長が用意してくれていた夕食を口に運びます。お父様もお母様も、お外にいられるので、私一人です。……寂しい。ノア達がいれば……。


 ノア達がいれば、この寂しさもなくなると思うのに。家が遠すぎて呼べません。はぁ、ノアみたいな転移魔法が使えたらなぁ。

 

 もしくは、ずっと彼らと一緒にいる方法とかないのでしょうか?


 お風呂に入りながらも、ずっとその事を考えていました。最近は、ずっとこんな調子です。


 お風呂からあがって、寝巻きに着替え、ベッドに入ります。ふあぁ、眠い。


 あぁ、今日もノアに会えなかったなぁ。もしかしたら、ノアが発展に関して何か分かっているかもしれないし。それを口実に、ノアを泊めることはできないのでしょうか?


 そこでふと、今日読んだ本のことを思い出します。……ありました、ノアと一緒にいる方法が思いつきました。


 いつもの私なら、とっくに寝ていますが、思わず大声に出してしまいました。


 だって、思いついた作戦が、


「妹に、なればいいじゃないですか!」


 だったのですから。

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