12.舞踏会(2)
「ようこそおいでくださいました、国王陛下」
「うむ、其方等の忠義に感謝する」
「勿体なきお言葉」
現在、国王陛下とこの村の村長が面会している。国王陛下、と読んでいることから、ここはまだケーニヒクライヒ王国領みたいだ。広いな、この国。真雫とリーベはこの家の外で待っているが、
例の悪意を持つヤツは、ここからは程遠い場所にいる。今は危害を加える気はないようだ。
「ノア、分かっているな?」
「分かっていますよ」
この人は悪意も感じ取れるのか。どこまで強いんだこの人。俺も人のこと言えないと思えるが。
この村は100人ぐらいで成り立っている小さな村だ。最果ての村、という表現が合いそうな感じである。畑を使って自給自足の暮らしをしているらしい。
「それでは、ここで1時間休ませてもらう」
「ごゆるりと、お休みくださいませ」
その会話を最後に、面会は終了した。
外に出ると、真雫とリーベが退屈そうにしていた。いや、リーベは少し震えている。人間恐怖症だからだろう。それでも、真雫が近くにいるからそれなりに和らいでいるようだが。仲の深い人と一緒なら、それなりに大丈夫みたいだ。
「ん、ノア。早かったね」
「挨拶だけだったからな。あとちょっと寄るところができた。行くぞ」
もちろん、行くところとは悪意を持つヤツのところだ。早めに確認しておきたいからだ。既にリターさんとの話もついている。出来るならば”捕縛してほしい”らしい。捕縛できるかどうかは相手によるが。
ヤツがいるのは、この村の隅みたいだ。小さい村だから、すぐに着くな。
予想通り5分も経たずにヤツのところへ着いた。【感覚強化】によればこの辺りなのだが、人らしき影は見当たらないな。どこかに隠れているのか、あるいは
「真雫、何か見えるか?」
「……見えない。でも、いる」
そんなシリアス風に言わないでくれ。フラグだから。でも、見つからないのなら諦めるしかなさそうだ。声をかけてもいいが、もしそれで襲ってきたりしたら面倒くさい。動くのを待つか。
「ねぇねぇ、お姉ちゃんたち」
不意に、後から幼い声がした。振り向くと、年端もいかない幼女がいた。可愛い顔立ちをしていて、将来モテそうだ。一応悪意を持つヤツではないみたいだ。
「何かな?」
「お姉ちゃん達はもしかしててんいしゃ?」
「えっと、うん、そうだよ。君は?」
「わたし、シューネ、ていうの」
流石にこの黒髪ではバレるか。でも、王都内では指摘されることはなかったし、ここでのみ、この髪は珍しいのかもしれない。
あまり気にしてなかったことに、今更なことを考えていると、シューネと名乗った幼女は少し怯えた感じで話を続けた。
「だったら、あの『黒いの』やっつけて」
「『黒いの』?」
「うん。最近ね、よく見るの。変な黒いモヤモヤをつけているのが」
ふむ、なんだそりゃ?魔獣の類か、あるいは……。
「すまない。私たちには果たすべき任が──うにゃ!?」
「幼子相手に難しい言葉を使うな。ごめんね、お兄ちゃんたち、やらないといけないことがあるんだ」
「じゃあ、今度やっつけてくれる?」
「ああ、やっつけてあげるよ。約束だ」
「うん、やくそく!」
安易な約束かもしれないが、この村に恩を売るのもいいかもしれないので、引き受けた。それに、こんな子の願いを踏みにじりたくないしね。
とりあえず、もう少し探してみたが、見つからなかった。
「あの子は?」
「どこかへ行った」
「そうか」
もう少し情報が欲しかったが、無理そうだな。
「ダメだな、見つからなさそうだ。帰ろう」
「うん。気をつけて、この村には魔神が」
「封印されていない」
いつも通りの会話をして、俺達は国王陛下達の元へ戻った。
✟ ✟ ✟ ✟ ✟
「国王陛下、そろそろ」
「もうそんな時間か?なら、さっさと行こう」
「御意」
結局何も起こらず、時が過ぎてそろそろ出る時間になった。既に時間は11時を過ぎている。悪意を持つヤツが少々気がかりだが、今は気にしても無駄だろう。
「くっ、これから上級悪魔との決戦か」
「うん、頑張ってな」
中二病みたいだが、真雫にとっちゃある意味そうだな。マジで頑張れ、馬車酔い。
「僅かな滞在であったが、ここで休ませてくれたこと、感謝しよう」
「陛下に御感謝いただき、私感涙の極み」
ずっと思っていたけど、この村長なんか語彙が古いよね。
手を振る無邪気な子供たちと村長に見送られ、俺達は出立した。
「ネイヒステンに着くまであと3時間以上あるけど、お昼休憩はないから途中ではもう止まらないよ。さっき貰った軽食を食べるか我慢するかにしてね」
「御意」
「分かりました」
腹が減っては戦ができぬ、というので、先に食べておくとしよう。真雫にも食べさせたいが……うん、無理だな。
そういえば、リーベが非常に静かだ。緊張とかそういうのじゃなく、なんだろう、会いたくない人に会う前みたいな感じだ。ネイヒステンに嫌な思い出でもあるのだろうか?
「リーベ様、どうしたのですか?」
「いえ、なんでもありません」
……。
………………。
…………………………。
………………………………え、終わり?もしかして、俺にも言いたくないとか?ちょっと傷ついた……。なら、真雫を──
「世界が、世界が~」
ダメだった。こんな時に全く……。しょうがない、諦めよう。
「それはそうとノア殿。最近の調子はどうかな?」
「え?あ、まあ、ぼちぼちです」
突然俺に話が飛んできたので、曖昧に答えてしまう。リターさんが軽く睨んできた。確かに、少し失礼だったかもしれない。
「ははは、そうか。悪くないようで何よりだよ」
それでも気さくに話しかけてくれる国王陛下。こういう時はありがたいな、こういう対応。
「……リーベはどうだね?」
俺ぐらいにしか聞こえないような小声で話しかけてくる。まぁ、察し。でも、とりあえずとぼけておこう。
「どう、とは?」
「迷惑になってはいないかね?」
「大丈夫ですよ。少なくとも、普通に話しかけてくれます」
「そうか……」
少し考え込む国王陛下。何か考えることがあるのだろうか?
「くれぐれも、彼女を守ってくれよ」
「承知しております」
彼は笑みを浮かべた。俺は何故だか、それを怖いと思ってしまった。どうも、親愛の眼差しとは思えなかったのだ。少し怪訝に思ったが、勘違いだろうと、俺は割り切った。
それから昼食を食べ、軽く一睡した。この世界に来てから、肉体的疲労が少ない。今なら、マラソンとかも余裕でできそうだ。
あれから結構経ったが、ここは平和なのか、魔獣に一切出くわしていない。リターさんが至極暇そうだ。俺も、争いごとは好きではないが、暇である。とても、暇である。
リーベはなんかずっと静かだし、真雫は酔いで蹲っているし。国王陛下は寝ている。現状、この場でまともに話してくれそうなのは、運転手さんだけである。久しぶりに孤独を感じた。……気がしないでもない。
「……ノア」
「はい?」
「暇だ」
いや俺もだよ。
「何かしろ」
「と、言われましても。せいぜい子供じみた遊びしか思いつかないですよ」
「つまらんやつだな」
やかましいわ。しょうがないだろう、中学の時、誰かとまともに話したことが少なかったのだから。
「じゃあ、お前のいた世界の話を聞かせろ」
意外だな。そういうのに興味があったのか。
「暇だから聞いてやるだけだ」
「分かりました。じゃあまず──」
俺はリターさんに色々なことを話した。日本の歴史、世界の歴史、スポーツ、武道、その他諸々。リーベに教えたことだけでなく、他にも文化的なものも教えたから、リターさんはリーベよりも地球に詳しくなったかもしれない。
「存外楽しめた。いい話を聞かせてもらったぞ、ノア」
「いえ、このくらいならいつでも大丈夫ですよ」
僅か1時間もないが、リターさんとある程度は仲を縮めることはできた。地球には帰るつもりでも、当分はこの世界にいるから、こういう人たちとはそれなりの仲を持っておきたい。
結局そのまま談笑を、起きた国王陛下も混ぜて更に続けることにした。
「では、次はリターさんのことをお聞かせください」
「何も面白みがないぞ」
「単純に知りたいだけですから」
するとリターさんは、渋々といった感じで話し始めた。
リターさんは元々、さっきの村のような辺境の地の出らしい。頭もそれなりにキレて、武に至っては地域単位で無敵だったらしい。まさに文武両道を地で行ってる状態だったらしい。
ある時、王都で武術大会が開かれ、村の人達に推薦されてそれに出場し、そこで当時のパラディンに買われ、騎士団へ入団。やはりその力は強大で、スピード出世していき、一年後にはパラディンの次に強いナイトの称号を持っていた。
またある時、邪神の手下の大軍が押し寄せた時、当時のパラディンと共闘し、人間側に勝利を収めたことでパラディンへと昇格したらしい。アニメとかであったら、よくある話だな。
「彼には、本当に助けてもらっているよ」
「いえ、陛下を側近が助けるのは当たり前のこと」
この人達、本当にいい主従関係だな。
「リーベ、こっちに来なさい」
「分かりました、陛下」
未だ上の空だったリーベも、国王陛下に呼ばれ談笑に入ってきた。見た感じ、やはり気乗りではないみたいだ。
「リーベは何か知りたいことはあるかい?」
「いえ、私は──」
そうリーベは言いとどまった。なにか聞きたいことが、この中の誰かにいるのだろうか?
「真雫さんが言っていたんです。ノア様はチュウニビョウがどうとかって……」
うわぁ、真雫何言ってんの……。もしかしてこれは自分で自分の古傷を抉らなければならないのか……?
「ほう、それは……。私も気になるな」
国王陛下が追い討ちをかけた。続いてリターさんも無言で知りたいと訴えている。俺の逃げ道は潰された。
「……ふぅ。あまりこれは俺の恥ずかしい過去なのであまり言いたくないのですが──」
俺は語った。中二病だった時のことを。
ネットで調べてわかったが、俺と真雫は中二病の中でも多い『邪気眼系中二病』だった。真雫は言動がとても激しく恥ずかしい感じだったが、俺は左目に『魔神』が眠り、且つ言動も痛々しいという、絵に書いたような中二病だった。2人で常に近くの林などの探索に励んだり、「目の封印が解ける。解けてしまうぅ!」とか変なことをぬかしたりしてよく遊んだものだ。
ただ、それを人前でやってしまっていたことが笑えない。今こうしてこのことを話すのに、相当な精神力がいる。氏ね、あの頃の俺。
「面白い方だったのですね」
「いや、あはは」
リーベが輝かしい笑顔を見せた。気は紛れたみたいで良かった。
対して俺はもう乾いた笑いしか出ない。自分でもわかるくらいの苦笑いだ。国王陛下も少し引きつった笑顔をしている。
「ん、あれ」
「うおう!……起きていたのか、真雫」
「うん、今さっき」
話に(主に羞恥で)夢中になっていた所為で、真雫が起きていることに気づかなかった。まだ微妙に酔っているみたいだが、ある程度は大丈夫みたいだ。
「あれって……おお、着いたな」
「あれがネイヒステンですか?」
「ああ、そうだ」
俺の問いかけにリターさんが答えてくれる。
馬車で約8時間。たどり着いたのは、中世のフランスを彷彿とさせる街だ。ここからは、近くに複数村があるのも確認できる。
ネイヒステン王国は、ケーニヒクライヒ王国のような創始国の後に建国された、この世界では有数の資本主義国だ。主に農業が有名らしい。この国の小麦などから作られたパンや麺などはハズレがないとまで言われている(外交官達情報)。軍事力も高く、邪神退治にも長らく貢献している国だ。俺達の邪神退治にも参加してくれるとのことだから、友好的な関係を持ちたい。
「舞踏会が開かれるのは18時からだ。それまでよく休んでおいてくれ。休憩場所は、そこのホテルだ。ケーニヒクライヒに戻るのは明日だ」
「御意」
「分かりました」
馬車が例のホテル前で止まる。流石王族、こんなに高そうなホテルを取るとは。
さて、勘だとおそらく厄介事に巻き込まれそうだから、準備をしておくか。
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