1章 ネイヒステン王国編
8.護衛(1)
「あなた方が、今周期の転移者の方々なのですね!?」
近い近い近い。公爵家令嬢、リーベ・プリンゼシンが目の前に、キラキラ、もといギラギラした目で、興奮気味に迫ってくる。
「えっと、あなたがお客様ですか?」
1歩引いて問いかける。しまった、露骨に警戒心を顕にしてしまったか。
「はい!」
「それで、プリンゼシン様、ご要件は?」
特に嫌な顔もせずプリンゼシンさんが答えてくれる。それに対し、真雫が俺の前に出るようにして問いかけた。
「はい、実は──」
そう口を開こうとした瞬間、コンコンコン、とノックが聞こえた。シンクロしたように俺達はドアへ一斉に振り向く。
「やぁ、揃ったかな?」
入ってきたのは、国王陛下だった。いつもとは違う、ラフな格好だ。それでもとても高そうなのは、国王陛下ゆえだろう。
「まぁ、とりあえず座ってくれ」
「お言葉に甘えて」と言って置かれた2対のソファに座る。自然と国王陛下の隣にプリンゼシンさんが、俺の隣に真雫が座るという配置になった。
「もう自己紹介しあっただろうから、それは省こう。それでは本題だが──」
プリンゼシンさんがニッコニコしている。俺の方を向いて。国民とは、また違った笑顔だ。怖い。
公爵家は、ケーニヒクライヒ王国建国当初から王族に忠誠を誓っていた貴族階級で、今ではこのプリンゼシン家を含めた3家しかないそうだ。
そして近々、世界中の王族及び公爵のみで行われる、舞踏会が隣国のネイヒステン王国であるらしい。この世界の殆どは、王国または帝国なので、ほぼ全世界が参加するとても重要な会なのだそうだ。
そして、これを俺達に話したということは多分……。
「そこで君たちに、このリーベの護衛を頼みたい」
だろうな。俺達にこの依頼をしたということは、これは俺達の成長も兼ねると、国王陛下は踏んでいるのだろう。でも、何故プリンゼシンさんだけ?
「私の方はパラディンが付くからね。ただ、パラディンは王族を最優先なため、現状パラディンが一人しかいないのでは、公爵家のこの娘を守るのに人手が足りないんだよ」
なるほど、そういう事だったのか。だったらその頼みを受けても大丈夫そうだが……。とりあえず真雫を見る。まだ悩んでいるみたいだった。
「あの、私たちの他に、まだ誰かプリンゼシン様の護衛に付かれるのですか?」
「いや、君たちだけに頼みたいと思っている」
「理由を聞いても?」
「見ての通り、マナさんに匹敵する容姿だ。殆どが貴族の次男三男で形成されている国の騎士では、良からぬことを考えているヤツが多くてな。だからといって冒険者を雇うと、それもそれで、な。兄か弟が、この子にいればよかったのだが、子はこの子しか産まれなかった。それで、君たちだけに、というわけだ」
うん、面倒くさいな、貴族関係。叙爵断っておいて良かった。ただ、結局面倒事に巻き込まれそうなのは、解せぬ。
隣の真雫を見ると、なんか頬を染めていた。向こうのプリンゼシンさんも頬を染めている。なんでお前ら照れてんだよ……。まぁ、嫌な顔をしていないだけ、マシだな。現実に戻った真雫も、俺を見た。「俺は別に大丈夫」というつもりで、俺は微笑む。真雫もそれを見て微笑んだ。そして、プリンゼシンさんの方を向く。
「分かりました。その護衛役、引き受けます」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
実は、護衛任務とか、ちょっと憧れてたんだよね。
「それでは、詳しい任務内容ですが──」
・護衛対象:リーベ・プリンゼシン
・護衛期間:今日から舞踏会からの家に帰るまで
報酬は舞踏会の参加資格らしい。俺は別にいらなかったが、真雫が欲しそうだったので、それも受け取ることにした。シンプルな任務内容だな。難しいよりかはマシか。
ちなみに、舞踏会は6日後らしい。
「それでは、よろしくお願い致します、ノア様、マナ様」
「こちらこそ、プリンゼシン様」
「リーベでお願いします」
「分かりました、リーベ様」
✟ ✟ ✟ ✟ ✟
「へぇー、そうなんですか!?世界と同時に通信できるなんて、凄いですね!?」
「そう、地球はすごい。そして、私も、ノアと世界でどこにいようと通信できる能力を持って、」
「持っていない」
「うにゃ!?……ノア……痛い!」
と、まあ、こんな感じで、俺達とリーベさんは、あれから数時間、雑談で盛り上がっていた。互いに名前で呼び合うようになったし、真雫に至ってはもう既にタメ口で話している。ゲームのことやら、学校のことやら、挙句インターネットや赤外線のことやら。女子トークとはイメージがかけ離れた感じの会話も繰り広げられたりしている。そして、真雫が嘘や中二病を発揮した時に、俺がツッコミを入れるというスタンスが完成してしまっていた。
「さて、もう夜も深いですし、ここで一旦お暇させてもらいます」
時計を見れば、もう12時を回っていた。意外とおしゃべりに夢中になってしまっていたようだ。
「それでは、俺達が送っていきます」
「いえ、大丈夫ですよ」
「俺達は今日からあなたの護衛ですので」
「……それもそうですね。では、よろしくお願いします」
「はい、承りました」
リーベさんと先に部屋から出す。2人とも出たところで、俺も
「”
極小版の
「リーベ様」
「どうしました?」
「これは、身に危険が及ぶ時に魔法障壁が現れる効果がある魔法具です。これを常に身につけていてください」
「これは……婚約指輪ですか?」
「違います」
何を言い出すかと思えば……この人は時々こういう冗談を言ってくるから、少し相手しずらい。それと真雫、何故そんなしかめっ面をしている?
王宮を出ると、豪華な馬車が待っていた。どうやらこれに乗って帰るようだ。
「それでは、ここで」
「いえ、私達も乗ります」
真雫が急にそんなことを言い出した。
「私の家は南区画にございます。なので、馬車でなければ1時間はかかってしまいます」
「ご心配には及びません。私達の後のことは気にせずに」
今日はグイグイ行くなぁ、真雫。リーベさんも根負けしたのか、俺達の同乗を承諾した。
「ああ、それとリーベ様」
「はい?」
「この短剣を常にお持ちください」
「これは?」
「あなた自身を守ってくれる、お守りのようなものです」
そう言って、魔眼で作った
10分後、王宮ほどとはいかないものの、立派な豪邸に着いた。風見鶏もついている。
「わざわざここまで、ありがとうございました」
「いえ、仕事ですので。それでは」
そう言って、真雫が俺の方を見る。はいはい、分かりましたよ。これはあまり人前では使いたくないんだけどな。
懐から
「”
「!!?」
リーベさんたちが驚くいているのを尻目に、薄黄色の魔法陣が俺達を包み、俺達とともに消えた。
✟ ✟ ✟ ✟ ✟
「ノア」
「ん?……って、近い近い」
座ってボーッとしていた俺が振り向くと、吐息を感じるぐらい近くに真雫の顔があった。なんか、目が笑っていないんだが?少し引いて、真雫から顔を遠ざける。
「どうしたんだ?なんかおかしいぞ?」
「……別に」
すると、突然真雫が抱きついてきた。あまりに唐突なことに、反応できず、硬直してしまった。
「……本当にどうしたんだ?」
「……指輪」
指輪?もしかしてリーベさんに渡した
「欲しいのか?指輪」
「……(コクッ)」
なんだそんなことか。魔眼を発動し、同じ
真雫はもしかして俺のことを、と思ってしまったが、幼馴染だからなぁ、とも思ってしまい、結局それはない、という風に自己完結した。
さて、明日からリーベさんの護衛に付かなきゃ行けないのだが……朝お出迎えとかした方がいいのだろうか?とりあえず馬車を降りたときに
「ノア、それでは明日、魔夫人のところへ迎えにいく」
「あの人は普通の人間だし、結婚もしていない」
俺が質問する前に、真雫はもう既に行くと決めていたようだ。明日から早く起きなきゃいけなさそうだから、とっとと風呂入って寝るか。
✟ ✟ ✟ ✟ ✟
「んぁ?」
体が重い。だるいとかそういうのじゃなくて、物理的に重い。んー、なんとなく予想はできた。
お腹らへんを見れば、案の定真雫が俺に乗っていた。寝ていてもベタつき癖があるやつだな。ゆっくり起こさないように俺の横へ移動させる。
時計を見れば、まだ6時前だった。地球では普通に寝ていた時間だな。二度寝しようかなと思い、また横になるが、既に目は覚めたようで寝付けなかった。しょうがない、起きるとしよう。
部屋の隅で背伸びをしていると、ノックが聞こえてきた。こんな時間に誰か訪ねてくるなんて、早すぎやしないか?真雫も今のノックで起きたようだった。
「おはようございます!」
ムッ、この声は。早足で玄関に行き、ドアをガチャりと開ける。そこに居たのは、リーベさんだった。
「おはようございます、リーベ様。まだお早い時間ですが、どうされたのですか?」
「いえ、早く起きてしまったので、遊びに来ました。1人で」
確か、ここまで来るには馬車でなければ1時間かかるんじゃ……?リーベさんは想像以上に破茶滅茶な人だった。
「リーベ、ここに来る時は私たちが迎えに行くから、1人でここに来るのはやめて。あなたは私達の護衛対象」
「そうですね、マナ様。以後気をつけることにします」
寝ぼけ眼だった真雫も、すっかり目を覚ましたようで、リーベさんに注意していた。
「立ち話もなんですし、中に入ってください」
リーベさんを中に招き入れる。昨日渡した指輪はちゃんと付けているようだった。……左手の薬指にはめて。深くツッコまないでおこう。
「家の方にはご連絡されているのですか?」
「いえ、無断で来ました」
全くこの人は……。
「真雫、あとリーベ様、1度プリンゼシン宅に行きますよ」
「何故です?」
「何故って……あなたのご両親が心配されますよ」
「私には、親がおりません」
……やば。これ地雷踏んだやつだ。もう少し言葉を選ぶべきだったか。
「いや、正確には2人とも健在ですが、どちらも今は国外に出ておられて、会えないのです。なので家にはいま私の家庭教師役のサイスしかおりません」
そういう事だったか。地雷踏んだかと思ってヒヤヒヤしてしまった。
サイスは、外交官兼リーベさんの家庭教師役だったか。大変そうだな。そういえば、サイスさんはいま何をしているのだろう。叙爵式以来会っていない。無理に関わろうとも思わないが、この世界で初めて話した人なんだよな。まぁ、それはまた今度でいいか。
「それよりも、それよりも!!昨日のあれは何だったのですか!?」
「昨日のあれ?」
「昨日の、あの、光に包まれて、バッ、と消えた、あれです!!」
ああ、あれか。そういや目の前で転移していたな。やっぱりあれは失態だったか。
「あれは俺の能力ですよ。指定した場所に転移できる魔法です」
「どこへでも転移出来るのですか!?」
「いえ、1度行ったことのある場所のみです」
そんな感じに誤魔化した。本当のことはまだ言わなくてもいいだろう。
キッラキラした目でリーベさんが俺を見る。……はぁ、ったく、この人は……。
「体験してみますか?」
「是非!!」
真雫とリーベさんを手元まで引きつける。そして、コートの中でこっそり
「”
とりあえず、いつものように訓練場にした。このまま家に送り返すのも手だったが、流石に不憫だと思い、ここにした。丁度昇ってきた太陽が綺麗だ。
「素晴らしい能力をお持ちなのですね!」
「あぁ、はい、そぅ…すね」
迫りに迫るリーベさんの迫力に気圧される。ていうか、なんでそんなに俺の能力に興味があるんだよ。
「ああ、そうだ、リーベ様、朝食は食べましたか?」
「いえ、まだです」
「何なら、食べていきます?俺が作りますよ?」
「まぁ、なら、お言葉に甘えて」
久しぶりに料理を作りたい気分だったので、朝食にリーベさんも誘った。まだ早いから、きっと侍女達も起きていないだろうしね。
いざ朝食を作るために、俺達はまた転移を使って帰った。
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