2.邪神退治、はじめます

 俺らに話しかけてきた恰幅のいい中年男性は、サイスさんという名らしい。この街、もといこの国の外交官の一人だそうだ。外交官なのにこんな場所にいてもいいのだろうか?


 俺たちはそのまま、何も詳しい説明を聞かされぬまま、サイスさんの連れた馬車に運ばれた。今どき馬車か。もう完全に異世界と考えてよさそうだな。


「あと、10分くらいでつきますので」


 そう言って再度沈黙するサイスさん。偉くニコニコしているけど、俺たちに会えたことがそんなに嬉しいのだろうか?


 色々思案を巡らせていると、自然と真雫に目が止まった。なんか、顔が青い。


「車酔いならぬ馬車酔い?」


 ヒソヒソと真雫に耳打ちする。


「うぅ、うん。上級悪魔たちが私を襲ってきた」


 中二病は、どの状況でも相変わらずだな。思わず感心してしまう。本当にキツそうだったので、背中をさすってやる。ここではリバースしないで欲しい。


 そんなこんなで、この国の首都らしき場所に来た。周りの話を聞けば、皆ここを王都と言っているから、この国は王国なのだろう。絶対王政じゃないことを祈る。


「さぁ、ようこそいらっしゃいました。我が国の王宮、パラストへ!」


 後10分ほど歩くと、ドイツのベルリン王宮を彷彿させる建物に着いた。パラストって確か宮殿っていう意味だったか?


 ベルリン王宮には行ったことがないから実際の大きさは分からないが、かなり大きい。何回建てなんだろうか?


 サイスさんが、門に近づき手を伸ばす。


「陛下、ニホンジンをお連れいたしました」


 何故かどんぐりころころの一節がチャイムの音として鳴り響き、何やら言葉を発した。


 この門にこのチャイムは……似合わない。


 ギギギ、という扉の開く音を響かせて、門が開く。


「中で陛下がお待ちです。さぁ、入ってください」


 俺らは一瞬顔を見合わせて、視線で「どうする?」と問う。先に真雫が歩み出した。中に入るということらしい。1人にするのも不安なので、そそくさと付いていく。


 中に足を踏み入れたら、豪華な彩色が施された大きな部屋に出る。いや玄関か?無駄にでかい。この国、もしくはこの世界は、靴を脱ぐという習慣はないようで、靴のまま上がっても何も言われなかった。


 しばらく豪華な彩色のなされた廊下が続く。金色が多すぎて目が痛い。ちょくちょくモナ・リザのような絵画やダビデみたいな像も飾ってあるのだが、酷似しすぎているのは偶然だろうか?実物見たことないけどさ。


 すると、またもや隣から盛大に腹の虫らしき音がする。


「ノア……もう、ヤバい」


 お腹を押さえてしゃがむ真雫がいた。ホントお前は……。流石にこのままスルーするのも不憫なので、耐えきれずサイスさんになにか食べ物がないか聞く。


「分かりました。そこの君。応接間においてすぐに食事を準備を。陛下の分も忘れるな」

「畏まりました」


 そこらを通りかかった侍女らしき人が、少し急ぎ足で俺たちの進んでいる方向の逆に向かっていった。


「では、目的地が変わったので、こちらへ」


 少しばかり大きいドアの前に来たら、そのドアの向こうに案内された。中は、映画とかでよく見た長机があった。高そうな食器が置いてある。


「もうすぐ食事が届きますので、少々お待ちください」


 そう言ってサイズさんはまたドアの向こうに消えた。タッタッタッ、と走る音が、ドアが閉まると同時に聞こえてくる。少し気になったが、真雫はお腹が空きすぎてそれどころではないらしい。


 特にすることもなく、10分経過。部屋の奥から、タキシードをきた威厳に満ちた男が来た。執事だろうか?


「やぁ、はじめまして。この王国、ケーニヒクライヒ王国国王、オンケル・ケーニヒクライヒだ」


 まさかの国王陛下だった。ケーニヒクライヒは王国、オンケルはおじさんという意味だったはずだ。おじさん王国って……。少し同情してしまった。


「君たちが、ニホンジンのカミジキノアさんとホシミヤマナさんですかな?」

「あ、はい。そうですけど……えっと?」

「あぁ、いや、すまない。いきなりこの世界に飛ばされてきてびっくりしただろうね」


 いやま、びっくりしたけども。ん?世界?もしかして……。色々聞き出そうと口を開きかけた瞬間、国王陛下の入ってきたドアとはまた違うドアからノックが聞こえた。「失礼します」という声とともに、豪華な食事が運ばれてきた。さりげなく、ヨダレが垂れている真雫の口を手元のナプキンで拭く。


「食事が冷めるのもよくない。食べながら話すとしよう。遠慮せず食べてくれ」

「分かりました。では、お言葉に甘えて」


 1番手前に置かれた料理を口に運ぶ。高級感溢れる上品な味だが、もう少しインパクトみたいなものが欲しい。美味しいけど。


「まず、この世界のことから話そう───」


先に口を開いたのは国王陛下だった。


 この世界(名はベルト)は、元々当たり障りのない、平凡な世界だったらしい。このケーニヒクライヒ国を含めた、全部で9つの国(創始国というらしい)が建国されて以来、戦争すら起きたことがないそうだ。


 しかしある時、とある存在によって、平和が脅かされた。


 現れたのは、邪神。なんとも信じきれないが、実際に存在するらしい。目的は人類の恐怖を集めること。邪神曰く、そうしなければ自分の存在意義がなくなるらしい。迷惑な話だ。当初は為す術なく人々は逃げ惑うだけだった。


 しかしそれを不憫に思った他の神々が、とある人を召喚した。それが俺たちのような、所謂転移者だ。邪神は転移者によって討伐されたが、神は邪神に関わらず不変、つまり死なないので、体が消滅すると15年周期で復活する。復活場所は、復活一週間前まで分からないみたいだ。復活するたびにほかの神々が、邪神復活の半年前に転移者を召喚しているらしい。今回はそれが俺たちだったそうだ。ニホンジンと言っていたのは、この世界に来た転移者は全て日本人だったからだそうだ。


「というわけだ。話はわかったかな?」

「ええ、大方は」


 確かに今の状況は分かった。しかし、俺にはこの世界を救うほどの義理がない。だから、隣の真雫に聞いた。


「どうする?」

「救う!助けを求めている人を助けないなんて、正義のヒーローが泣いて呆れる!」


 即答か。真雫らしい。ただ、口の周りについたソースは拭こうな。


「というわけなので、その邪神退治、協力させてもらいます」

「おぉ!なんと慈悲深い!」


 慈悲深いのは真雫だけだけどな。でも、俺たちにはなんの能力もない。


「その点は心配ないよ。今までのニホンジンもそうだったからね」

「では、どうすれば?」


 国王陛下が手に持っていた食器を置いて、席を立つ。


「こちらへ来てくれ」


 俺たちは話途中に食べ終えたので、腹はもう膨れた。遅れないように国王陛下の後について行く。


 ついて行った先には、書庫らしき場所があった。本棚に、謎文字で書かれた本がズラリと詰められている。大きさも相当で、向こう側が見えない。どんだけ遠いんだ?


「ここは書庫で、空間魔法により空間拡張されていますから、全長およそ1kmです」


 俺たちの視線を感じ取ったのか、近くにいた司書らしき人が教えてくれた。魔法もあるのか。邪神がいるから不思議ではないか。しかし、空間魔法か……ロマンだな。中二心を擽る。


「これだ」


 書庫の中央に着くと、薄い白銀色をした板が重ねてあった。


「このプレート、アビリティプレートと呼ばれるものだが、これに自分の血を垂らすことで、自分の持つ能力とそれを行使する方法がわかる代物だ」


 マンガやラノベみたいな展開に1人ワクワクしながら、針で手に小さい穴を開け、血をプレートに垂らす。文字が浮き出るかと思っていたが、空中に画像が投影されるという、いい意味で予想を裏切ってくれた。


 内容はこう。



✟ ✟ ✟ ✟ ✟


カミジキ ノア

所持魔法

・行使魔法

虚構の魔眼フィクティバー・デーモン

発動内容

・想像による武器、防具の創造。複数創造可。創造量は魔力量により左右される。創造した物は、基本消失しない。故意的消失は可。


・想像による加速魔法陣の展開。魔法陣の効力の高さにより、比例して魔力消費量も増加。


・魔眼共鳴


発動条件

以下の文の詠唱。

〈我が身に眠りし虚構の魔眼フィクティバー・デーモンよ。ここにその力を示し、我が力の糧となれ!〉


・常時発動魔法

【身体強化】

発動内容

・常時身体の基礎能力の強化。魔力量により左右される。魔力消費なし。


【感覚強化】

発動内容

・常時視線などを感じ取る感覚を強化。魔力量により左右される。魔力消費なし。


【気配操作】

発動内容

・気配に関する全てを操れる。魔力消費なし。


【言語解】

発動内容

・ほぼ全ての言語を理解出来る。魔力消費なし。


【精神強化】

発動内容

・常時精神に対する過大な負荷の軽減。魔力消費なし。



✟ ✟ ✟ ✟ ✟



 と言ったところだ。なるほど、さっきの謎言葉の本をなんとなしに理解していたのは、【言語解】の効果だったか。あと、最後の【精神強化】の効果が少し気になる。


いやそれよりも……。


「まさか、卒業したすぐに、中二病能力を現実で得るとは……」


 何なんだよ!?〈我が身に眠りし虚構の魔眼フィクティバー・デーモンよ。ここにその力を示し、我が力の糧となれ!〉とか!?中二病丸出しじゃねーか!?特に最後のビックリマーク!?要らねーだろ!?カッコつけて言えってことなのか!?そうなのか!?……中二病がぶり返してきそうだ……。


 心に多大なダメージを負いつつ、隣の真雫に目を向ける。真雫は自分の指に穴を開けるのに苦労しているようだ。しょうがない。


「ほら、手を貸して」

「え?あ、うん」

「目、瞑っていた方がいいぞ?」

「う、うん」


 なるべく痛く感じさせないよう、丁寧に針を刺す。出てきた血をプレートに垂らす。すると、俺の時と同じように、画像が空中投影された。


 真雫の能力の内容はこう。



✟ ✟ ✟ ✟ ✟


ホシミヤ マナ

所持魔法

・行使魔法

真実の魔眼ヴァンラ・オウゲン

発動内容

・自身や任意の者への防御壁展開。防御壁の大きさ、硬さにより魔力消費量増加。部分展開も可。


・想像による減速魔法陣の展開。魔法陣の効力の高さにより、比例して魔力消費量も増加。


・魔眼共鳴


発動条件

以下の文の詠唱

〈我が身に眠りし真実の魔眼ヴァンラ・オウゲンよ。ここにその力を示し、我が力の糧となれ!〉


・常時発動魔法

【言語解】

発動内容

・ほぼ全ての言語を理解出来る。魔力消費なし。


【場所特定】

発動内容

・望む所への方角、距離などがわかる。魔力消費なし。


【並行思考】

発動内容

・同時に3つまでの事項を考えることが出来る。魔力消費あり。


【記憶強化】

発動内容

・常時基本的な記憶力の増強。魔力消費なし。


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


 魔眼と詠唱が俺とそっくりだな。真実と虚構か。他の真雫の魔法は戦闘向きではないみたいだ。


「ノアのも見して」

「ん?そういや見てなかったな」


 1度血を垂らせば、後は魔力を込めればまた情報を投影できるようなので、試してみる……そうしたかったが、やり方がイマイチ分からない。


「プレートを持っている手に意識を込めてみてくれ」


 見かねた国王陛下が助言してくれた。言われた通りに意識を込める。すると、時間差で空中にさっきの情報が投影された。おお、これが魔力を込める感覚か。イイね。


「おー!詠唱私のと同じ!」

「全く同じではないけどな」


 キラキラした目で投影された情報を見る真雫。子供っぽくて、微笑ましい。


 ふと、右を見れば。


「おぉ、神よ」


 涙を流しながら両膝をついて、祈っているポーズのサイスさんがいた。……何してんの?というか、いたのか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る