1.異世界転移
「クッ……沈まれ!俺の左目よ!!」
そう発言した瞬間、空気が死ぬ教室。中には「うわぁ」と言って顔を伏せるものや、吹き出しそうな口を押えて床にうずくまるものもいる。
中学三年生の時。当時、俺
いつも浴びていた奇異の視線。しかし俺はそれを気にもせず、中学一年生から三年間ずっと患っていた。
ゴンッッッッッッッッ!!
「はぁあああああああああああああああ……」
自室の壁に頭を思い切りぶつける。非常に痛いが、昔の俺を思い出してしまった俺の羞恥には勝らない。恥ずか死しそう。なんなんだよ、あの時の自分!?お願い死んで!?
「ダメだ、これ以上考えたら、マジで死ぬ」
とぼとぼとキッチンに向かう。これから夕食をつくるためだ。料理作れる俺カッコイイと思って料理を初めてみたが、意外と才能があったようで、数少ない俺の特技のひとつとなっている。
明日は、高校の初登校日。中二病の影を見せてしまったら、確実にお先真っ暗だ。絶対に、そんな素振りを見せないぞ!
夕食の準備を終えるとともに、決意を固めたのだった。
✟ ✟ ✟ ✟ ✟
小鳥のさえずりが聞こえてくる。目を開けば、白い天井が目に飛び込んでくる。欠伸をしながら、窓のカーテンを開けると、眩い朝日が部屋に差し込む。小鳥のさえずりで起きるとか、アニメみたいでいいな。
歯磨きをしつつ、クローゼットから服を取り出す。中学時代までは、弟がいて毎朝五月蝿かったが、今年から一人暮らしなので、朝はとても静かだ。大きさも、普通のワンルームなのだが、俺的に少し大きい。
着替え終えて、洗面所で歯磨きも終えると、鏡に制服姿の俺が映った。思いの外似合っている……多分。
ついでに顔をもう一度洗う。よし、絶対にミスれないぞ!と、改めて決意をする。
支度を終え、ドアを開く。
「うにゃっ」
うにゃっ?猫でもいたかな?恐る恐るドアの向こうを見ると、少し青みがかった黒髪の少女が、おでこをおさえて、蹲っていた。
「真雫か。ごめん、大丈夫?」
「うぅ、痛い。でも大丈夫。ノア、女の子をいじめるなんて、正義の鉄槌が下る」
「いじめてない。でも悪かった。ほら、見せて」
前髪を捲り、おでこを確認。結構赤いけど、時間が経てば、痛みも引くだろう。
彼女、星宮真雫は俺の小学生からの幼馴染だ。そして、俺の中二病発症の原因でもある現在進行形の中二病。まだ素直且つ純真だった俺は、当時の真雫に感化されて、中二病となったのだ。
身長は、俺より約10cm低いから、恐らく150cmぐらいだ。十分なくらい可愛い顔立ちをしていて、スタイルも年相応といった感じなのに、中二病という壁が邪魔して残念なイメージを持たれている。ネットで見た、「中二病は、可愛くても、かっこよくてもモテることはない」というのも頷けてしまう。中二病って、悲しいな。彼女もこのアパートで一人暮らしをしていて、高校も俺と同じ高校に入学する。
俺はアパートの5階に住んでいるのに、真雫はこのアパートの1階に住んでいるはずだが……わざわざ上がってきたのか?
「ノア……行こう」
「ん?あぁ、うん。行こう……って何をする」
俺が行こうと口にすると同時に、真雫が腕に抱きついてきた。
「もう高校生なんだから、あまりベタベタしない方がいいぞ?」
「……?何で?」
「いや、何でって……」
正真正銘の天然でもあるから、困ったものだ。このままで行ったら、確実に周りから白い目で見られるだろう。とりあえず腕から引き離す。
そのままなんやかんやで、1階にたどり着いた。真雫も俺と同じ足取りで、外への一歩を踏み出す。太陽の光が眩しくて、手で目前に影を作りながら歩く。下は、草で覆われていた。
…………………草?光になれた目で、周りを見ると、俺たちは草原の中央に立っていた。
「……………………………は?」
まだ寝ていたのか?と思い、目を擦る。何度擦ろうと、目の前の景色は変わらない。後ろを見ても、変わらず草原だ。一瞬で更地になったのか?そんな馬鹿な。隣の真雫も、驚きで固まっている。
と思っていたが、真雫は別の驚きだった。
「異世界転移キターー!」
「うおう!びっくりした!?」
突然立ち上がり、両手を勢いよくあげて叫ぶ真雫。あまりに急なことだったから、俺は尻餅をついてしまう。真雫、キャラ崩壊しているぞ。
「それよりも……異世界転移?どういうこと?」
「どうもなにも、そのまま」
いやいや、真雫、現状を簡単に受け入れすぎだろう。いつも冷静な中二病だった俺でも焦ってんだぞ?
「真雫も、こう、焦るとかないの?」
「先人は言った。子、曰く、焦りは禁物、と」
いや、その言葉は儒学にはない……はず。まぁ、あまりしっかりと覚えていないが。それでも、言う通りなんだけどさ。
一旦深呼吸をする。心を落ち着けよう。落ち着いたところで、まず何をすべきかを考える。
「とは言っても、こんな平原のど真ん中じゃなあ……」
周りは平原が地平線まで続いている。動物どころか木1本を見当たらない。花はところどころ咲いているのに。
「ノア、見て見て。この花綺麗」
「少しは緊張感持てよ!?」
真雫はどこに行っても真雫だよ、ホント……。キラキラした目で地面に生えている花を見ていた真雫が、おもむろに立ち上がり、俺の後ろ側を指さす。
「急にどうした?」
「街がある」
「え?」
「この先に、街がある」
「……何故わかる?」
「私の能力の一つ。ある程度の場所がわかる」
要するに勘だろ。でも、行く宛もないし、進むとするか。
「気をつけて。途中に魔王がいるかも」
「何でラスボスキャラが野生のスライムとかと同列なんだよ」
真雫のキャラがブレなさすぎる。いや、一度ブレたか。
「ほら、変なことやってないで行くよ?」
「むぅ……分かった」
✟ ✟ ✟ ✟ ✟
「真雫、あとどれ位が分かるか?」
「今で大体、半分」
真雫の指さした方向に歩いて約1時間。俺たちはまさに草原で遭難していた。真雫情報によれば、あともう1時間は歩かないといけないらしい。結局勘だから、あまりあてにもならないが。
少し前を歩く真雫から、キュルキュル、と可愛らしい音が聞こえる。
「うぅ、駄目。お腹空いた」
「本当にお前は自由だな!?」
ここまで我を貫くのも凄いと思うんだが、感心すべきかどうかは悩む。ここまで来てもすべて同じ景色だから、流石に飽きてきたが、精神的には大して疲れてはいない。強いていえば、真雫へのツッコミぐらいだ。対して、真雫は精神的にも体力的にも疲れてきているようだ。真雫に頑張れと言って、さらに先へ進む。
「……マジかよ」
現在、俺たちは街中にいた。あれから1時間、本当に街にたどり着いたのだ。勘もたまには頼りになるね。
街には検問がなく、すんなりと入れた。それなりに活気がある。ただ、外国人にしか見えない街の住人が、とても流暢に日本語を話しているのが気になる。見た感じ、この街にはロシア系の人種が多いみたいだ。
誰かに話しかけて、情報を得たいところだが、皆雑談に花を咲かせていて、会話に割り込みずらい。いっそ、屋台の店主にでも聞いてみるか?
近くのあまり売れていない屋台のおっさんに声をかける。
「あの、聞きたいことがあるのですが……」
「ん?なんだい?」
「すみません、僕達流れに流れてこの街にたどり着いたのですが、この街のことを教えてくれませんか?」
「放浪者か。すまないね。私も最近ここに来たばかりだから、この街がシュタットという名前、ということぐらいしか知らないよ。ほかを当たってくれないか」
最近この街に来た人だったか。それでも、この街のことを名前しか知らないのは情勢に疎すぎると思うけど。
仕方ない。ほかを当たるか。そう思った矢先、後から声をかけられた。
「あの、もしやあなたがたはニホンジンですか?」
恰幅のいいおじさんが立っていた。想像もしなかった単語が彼から発せられて、少しばかり驚いてしまう。日本人の発音がなんかおかしいが、方言的なものなのかもしれない。
もしかしたら、いい情報が手に入るかもしれないので、ここは話を聞いておこう。
「はい、そうです」
「あぁ、やっぱりそうでしたか。やっと見つけた」
至極安心した顔で、恰幅のいいおじさんが微笑む。慈悲を感じさせるような笑みだ。でも……見つけた?俺たちを探していたのだろうか?
俺はしばしおじさんとの会話を続けるのだった。
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