よくあること?

第1話 ある日の出来事

冷蔵庫の扉を開けて中をふと見てみる。


…違和感が…


前日と比べ大した違いは無いけれども、

何かが違う。あれ? と思ったけど家族と一緒に住んでるため、家族の誰かが冷蔵庫の中の物を食べたり飲んだりしたのだろうと気にしないことにした。


暫くしてから喉が渇いたので飲み物を取るため、また冷蔵庫を開けた。


…やっぱり違和感…


何かが違うのに何が違うのかが分からない。でも、何かが違うということはわかる。

だが家族の誰もその違和感を指摘しないと言うことは私だけにしか分からない違いなんだろう。


…心がモヤモヤする…

分かりそうで分からないこのジレンマ。


心のモヤモヤを解消したくて何が違うのかを突き止めようと観察をしてみるが、「冷気が逃げる!」「電気代がかかるでしょ!」「早く扉を閉めなさい!」との理由で母親に叱られてしまった。

致し方なくその場は冷蔵庫の扉を閉める。


結局、違和感の正体は不明のままだ。


心のモヤモヤは解消されないままだが、これ以上観察を続けていれば、いずれ母親の鉄拳が飛んでくることになる。それだけは避けたい。痛いのはゴメンだ。


喉に魚の骨が引っ掛かって取れそうで取れないような、何とも言えない気持ち悪さだけが残る。思い出せそうで思い出せない気持ち悪さ。

だが、考えても答えが出そうにないので渋々だが諦めることにした。


そんなとき、転機が訪れた。


転機と言う程の事ではないのかもしれないけれども、ほんの些細な事がきっかけだった。


…ない…そう、無いのだ!

がなくなっていたのだ!


以前、お菓子を作ったときにほんの少しだけバターが余ってしまった。分量を無視して入れるわけにもいかず、余ったバターを元々包んであった銀の紙に戻して、乾燥しないようにしっかりと四方を包み冷蔵庫のマーガリンの近くに仕舞っておいた。

いずれまたお菓子を作るときに使うか、料理に使うかするだろうと思って仕舞っておいたのだ。


そのバターがない。

ずっとモヤモヤし続けた違和感の正体がついに明らかになった!

違和感の正体に気付いた瞬間、喉に刺さった魚の骨がようやく取れたようなスッキリとした清々しい爽快感に満たされた。


だがここからはまた別の問題が発生した。


【 Question 】

さて、バターはどこにいってしまったのか?


この問題を解決するべく、その答えとなる可能性を3つ程考え付いた。


≪可能性その①≫

銀の紙に包み直したバターは消しゴムくらいの大きさだった。小さすぎて物を出し入れしたときに何処かに転がってしまったのだろうか?


≪可能性その②≫

マーガリンの近くに置いたと思っていた記憶が間違いで、別の場所に仕舞っていたのだろうか?


≪可能性その③≫

母親にすでに料理などで使われてしまった後なのだろうか?


これら3つの可能性を順に考えてみた。


まず可能性その①について。

何かを取り出した時に転がってしまったのなら、冷蔵庫の中の何処かにはあるはず。そう思い、冷蔵庫の中をくまなく探してみるが見当たらない。物を退かして隅々まで見てみるが、結果は同じだった。


次に可能性その②について。

そもそもマーガリンの近くに置いたという記憶自体が間違っていて、他の場所にしまいこんでしまったのかもしれない。


例えば、野菜室やチルド室、あり得ないだろうけど冷凍庫など。冷蔵庫の中でもドリンクホルダーや扉のポケットに仕舞ってしまったという可能性もある。考え付く有りとあらゆる所を隅々までくまなく探してみるが、それでもバターは見つけることが出来なかった。


そして最後に可能性その③について。

この時点でその①、②の両方の可能性が否定されているのだから、消極的に考えれば可能性その③しかないはずだ。

だが万全を期すためには可能性その③を検証する必要がある。

そしてそれはまず母親の協力が必要だ。


私は母に

「マーガリンの近くに置いてあったバター使った?」


と聞いてみる。すると、

「知らないよ。そんなの。」


と、あっさりと可能性その③も否定されてしまった。確かに、ここ最近の食事でバターを使ったような料理は出てきていなかったが、「もしかして?」という気持ちが少なからずあったので母の回答にはちょっぴり拍子抜けしてしまった。


さて、それなら一体問題のバターは何処にいってしまったのだろうか?私が考え付いた可能性①~③は全て否定されてしまった。他に考え付く可能性が思い当たらない。


念のために、もう一度母にバターを知らないか聞いてみようと思った。母は父とテレビを見ている最中だったが、もう一度聞いてみた。すると、


「知らないって。自分で使ったんじゃないの?」

と、やはり同じ返答だった。側で聞いていた父も

「俺も知らんぞ。」

と、心当たりがない返答をしてきた。


「おかしいなぁ…銀の紙に包み直してマーガリンの近くに置いたはずなんだけどなぁ…」

と私が呟くと突然父が口をあんぐりと開けて目を真ん丸に開いて私を見ていた。


…様子がおかしい…


ほんの数分前まではどうでもよさそうに聞いていたのに、私がボソッと一言呟いた後から突然に様子が180度変わった。「何かある!」っと直感的にそう思った。


「マーガリンの近くに置いてあったんだけど何か知ってる?消しゴムくらいの大きさで銀の紙に包んであったんだけど。」


今度は母ではなくて父に直接聞いてみた。すると目を真ん丸に開いたまま

「1個だけ置いてあったこのくらいの大きさのヤツか?」

と逆に聞き返されてしまった。だが、父のこの質問の仕方は明らかに知っているものだ。


「そう!それ!」

と答えると父から予想外の答えが出てきた。


「…あれ、チーズじゃないのか?…」


と…………。

そして答えると同時に口元を押さえていた。父のその行動に「まさか?!」とは思いながらも「チーズじゃないよ。バターだよ。」と教えてあげた。すると


「…チーズだと思って食べちまった…」


………………。

私も父の横で聞いていた母も唖然としてしまった。そして2人で同じように

「「食べた瞬間にチーズじゃないってわかるだろ!!」」

と言ってしまった。どうやら、父はプロセスチーズだと思って、こっそりと食べたようだ。

ようやく解けた謎は思いもよらない正解で幕を閉じた。



…父よ。チーズとバターの味の違いも分からないのか?…

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