第九話 案内


 揉めるかと思ったが、ゲートを入る順番は最初から決めていたようだ。


 最初は、ナッセ・ブラウンが入った。


 フェナサリム重久真由が続いた、最後に残ったのは、イリメリ静川瞳だ。

 タシアナ韮山里穂の弟や妹たちは、まだ商隊と一緒に待機してもらっている。まずは、ギルドのメンバーと商隊の主要メンバーだけが、神殿に入ることに決まったようだ。順番や神殿に向かう人選は、関与していない。


 俺とセバスチャンで、ゲートの周りを確認する。


「セブ。こっちは頼む。後で、眷属を向かわせる」


「わかりました。いってらっしゃいませ」


 セバスチャンが深々と頭を下げるのを見てから、俺もゲートを潜る。


 俺がゲートを出ると、皆が揃っていた。

 周りを探してみるが、ミトナルとマヤは来ていない。どうやら、案内は俺がしなければならないようだ。


 ゲートを潜った場所は、馬車での移動を考えて広めに確保している。

 ギルドのメンバーと商隊のメンバーだけなら、余裕だ。


「リン君!」


「ん?フェム?どうした?」


「ここが、ゲートの入口?」


「そうなる。こっちは、貴族が使うゲートだ。貴族向けにも、同じような場所が3箇所・・・。豪商と下級貴族用。上級貴族向け。王族向け。に、分ける予定だ」


「そう・・・。ルナ!」


 ルナとアデレードは、商隊の関係者の装いから着替えている。外装を脱いだだけだが、雰囲気が変わっている。

 ここに居るのは、身内だけだと判断したのだろう。


「何?」


 フェナサリムとルアリーナが何かを話始めている。

 俺の所には、サリーカが来て、ゲートに関係する質問をしてくるが、答えられることではなかった。スキルの内容なんて、俺が解るはずがない。どうやら、サリーカとしては、ゲートをスキルで再現できないか考えているようだ。ゲートがスキルで代用できたら、いろいろ便利にはなるだろう。頑張って欲しい。


「リン君。ルナと殿下・・・。アデレードに確認したけど、やっぱり・・・」


 話をまとめると、ゲートの前が広いのはいいけど、広すぎるようだ。

 貴族が使うことを考えると、ゲートから繋がる場所に小部屋を用意した方がよいだろうと言われた。


 小部屋を”格”で分けるほうが貴族は喜ぶらしい。よくわからない感覚だが、王族と辺境伯の娘が言っているので、大丈夫だろう。それから、王族用のゲートは必要がないだろうと言われた。

 下級貴族用と上級貴族で分ければ十分で、豪商は、貴族用のゲートを使いたければ、”貴族に話をつけるだろう”と教えられた。


 小部屋も、通路を作って、並べるようにした方がよいと言われた。

 王宮にある控室が参考になるだろうと言われて、アデレードが説明をしてくれた。ゲートを中心にして、小部屋を用意すればいいと言われた。その先に検閲を行う場所を作れば十分らしい。

 他にも、いくつか提案された。


 ゲートは二か所にして、”入口”と”出口”で使い分けるほうがいいだろうということだ。

 セバスチャンたちとの打ち合わせも必要になるが、辺境伯家の娘と王家の代表?と思われるアデレードが言っているのだ。大筋では、その方がいいだろう。話を聞いていると、セバスチャンたちの負担も少なそうだ。小部屋を専用にすれば、専用の従者を貴族が雇うだろうと教えられた。従者は、神殿の内部かアロイに常駐すればいい。


 入口だけで時間を使ってもしょうがないので、あとでまとめて話を聞くことにした。


 入口から、神殿の内部に入る。

 建物の説明は、省略した。王都にあった街並みを真似している。


 家具はまだ作っていないが、大まかに役割を持たせられるような建物にしてある。


 やはり、ギルドのメンバーは”大浴場”に喰い付いている。上下水道もしっかり完備していると説明をした。


 街並みを見ながら、アロイ側に作った”村”に向かう。


 村の中を案内している時に、皆から表情が抜け落ちていた。


「リン君?」


「ん?」


「これは、村?」


「村だろう?」


「・・・。城塞都市じゃなくて?」


「あぁ”村”だ」


 サリーカが何か言っているが無視する。

 それに、村でなければならない理由がある。


 村なら村長が統治すればいい。村は、開拓した者たちが住み着く場所だ。町になると、代官が置かれてしまう。街でも同じだ。セバスチャンから聞いている。だから、”俺が勝手に開拓した場所”だから”村”だ。


 たとえ、1,000名以上が住めるようになっていても、城塞があり、立派な堀があり、水が蓄えられていても、ここは”村”だ。

 城塞の上には、バリスタが置かれていて、防衛能力が有っても、ここは”村”だ。


「リン君。無理が・・」


「サリーカ。ここは、俺が開拓した。だから、ここは”村”だ」


「・・・」


 納得してもらう必要はないが、ここは”村”だ。

 どこの貴族の領地ではない。


「ルナ。ここは、俺が貰った土地だよな?」


 表情を消していたルアリーナとアデレードが揃って頷いている。

 事情は聞いているのだろう。


「”村”なのはいいけど、村長や村民はどうするの?」


「アロイで宿を出している人が知り合いだ。良心的な店舗を経営している人たちに来てもらおうと思っている」


「え?」


「俺の両親と一緒に、旅をしたことがある仲間・・・。らしい。もう一人は、俺とマヤがパシリカを受けるために、村から王都に向かう時に護衛をしてくれた人で、”まとも”な護衛だった人だ」


「へぇ・・・」


「渓谷越えのアロイは衰退するのが解っている」


「そうね。値段が、少し高い程度なら、神殿を使うのは確実・・・。そういうことね」


 なにか、サリーカが一人で納得している。


「ん?」


「リン君?」


 ルアリーナだ。


「ん?ルナ?もう説明したと思うぞ?」


「こっちの”村”はわかった。貴族が出入りする場所も教えてもらった」


「あぁ・・。そうか、メルナ側の出入口だな」


「そう。どうするの?」


 ルアリーナの質問で、解っていないのは、アデレードとサリーカとタシアナだ。イリメリとフェナサリムは、ルアリーナの質問の意図が解っているようだ。


「森の中に、古ぼけた教会がある。そこから、神殿に入ることができる。そちらは、完全にギルドに任せようと思っている」


「わかった。開拓は?」


「まだだ。何が必要だ?」


「そうね。道は欲しい。メルナに繋がる道と街道から繋がる道があると、便利。この村の規模は必要ないとは思うけど・・・」


「わかった。どのくらいの規模が必要だ?」


「教会は、どの辺り?」


「森の中心だ」


「メルナの近くに広がっている森?」


「そうだ」


「森の中は、スコルやフェンリルが居るから注意が必要だぞ」


「そうなのね」


 俺とルアリーナの会話は、言葉を濁しているが何が必要になるのか聞いている。

 森は、アウレイアやアイルたちが、意識がない魔物たちを駆逐している。動物たちは、見逃している。生態系が多少崩れても問題にはならないと思っている。最悪の場合にはブロッホが教会に居るだけで、魔物は寄り付かないだろうと予測している。


 ルアリーナからの要望は、やはり道だ。

 道は、2か所。メルナに繋がる道は、当初の予定通りだ。俺が貰った屋敷から、伸ばしていけばいい。馬車がすれ違えるくらいでいいだろう。

 もう一本は、街道から繋がるようにすればいいのか?詳細は、作るときに聞けばいいだろう。


「あぁ」


 見回すと、少しだけ離れた場所で、サリーカがリカールと話をしている。

 イリメリとフェムサリムも、商隊の人と話を始めている。


 ここでしなくても・・・。

 それに、メルナ側に残っている人たちも居る。


「神殿に戻って、詳細を話したい。それから、サリーカ!」


「ん?何?」


「セトラス商への依頼になると思うのだけど、神殿で必要な物資の購入を頼みたい。支払いは、魔石になってしまう」


 サリーカではなく、リカールが俺の前に出てきて要望を聞いてくれる。


「大丈夫です。足りない物は、王都以外で買い集めます」


 リカールは解っている。

 王都で、セトラス商隊が普段は買い集めない日用品や家具を買い集めたら、噂になってしまう。


「それから、王都以外での買い物の時に、奴隷を買い集めて欲しい」


「奴隷ですか?」


「そうだ。犯罪奴隷は必要ない。出来れば、口減らしにあったような者たちを頼む。借金奴隷は、借金の理由次第だ」


 リカールは、俺が求めている人材がわかったのだろう。

 条件付きだが、承諾してくれた。


 セトラス商隊では、奴隷を買い集めるのは難しいから、知り合いの奴隷商に頼むことになると言っていた。なんとなく、話の筋が見えたので承諾した。俺の予想通りの人物が、大量の奴隷を従えて来てくれるだろう。


 神殿に移動して、中央広場の中央にある。ギルド本部用の建物に、揃って入って、打ち合わせを行うことになった。


 そこに、アイルと一緒にミトナルが現れた

 肩には、妖精の姿でマヤが居る。皆に紹介しなければならないから丁度良かった。


「あれ?アデー?なんで、リンと一緒に居るの?」


「へ?」


 マヤが部屋に入ってきて、アデレードを見つけて、話しかける。

 アデレードも、マヤを見て、少しだけ考えて・・・。


「マヤ?」


 そもそも、二人は知り合いなのか?

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