第二十九話 修羅場?


 ギルドの入口が見えてきた。

 しっかりと見張りが立っている。


 知らない顔だ。

 ハーコムレイかローザスが雇った護衛か?


「なぁリン。大丈夫なんか?睨まれているぞ?」


「大丈夫だ。女子・・・。重久が中心になって作った組織だ。重久は、フェナサリム・ヴァーヴァンが名前だからな。間違えるなよ」


「おっおぉ」


「本当に、大丈夫か?」


「大丈夫だ。名前を覚えるのは得意だ」


 まぁ困るのは、オイゲンだからいいけど・・・。

 後ろを振り返ると、奴隷の少女たちが、俺とオイゲンの会話を聞いている。不思議な表情を浮かべている。


 ハーフエルフの少女と視線が交差した。


「どうした?」


「いえ・・・」


「ん?何か、疑問が有れば、聞いてくれ、その方が、俺も嬉しい」


 ハーフエルフの少女は、獣人の少女たちを見てから、立ち止まった。

 俺とオイゲンも、少女たちに合わせて、立ち止まった。


「はい。あの・・・。ご主人様と、オイゲン様は、お知り合いなのですか?」


「難しい質問だ。詳しくは、オイゲンに聞いてくれ」


 所謂、丸投げだ。

 別に教えても良いとは思うが、オイゲンが奴隷の少女たちと心を通わせられなかったら、困ってしまう・・・。ことは、ないのか?

 俺の奴隷なのは、確かな事実だ。その上で、オイゲンから離れたいと言い出したら、違う仕事を割り振ればいい。


「わかりました。オイゲン様」


「ん?何?」


 オイゲンの声が上ずっている。

 気にしないようにしているのだろうけど、気になってしまっているのだろう。


「私たちに、名前を頂けないでしょうか?」


「名前?」


「はい」


 おかしな事は言っていない。

 奴隷になってから、名前が消されている。真名はあるのだが、真名を呼ぶのは、控えた方がいい。奴隷を奪われてしまう。そのために、”呼び名”が必要だ。


「うーん。落ち着いてからでいいか?」


「はい。お願いいたします」


 一応、オイゲンに釘を刺しておいた方がいいかもしれない。

 何気なく、好きなアニメやマンガのキャラ名を付けそうで怖い。俺も、それほど詳しいわけではないが、ハーフエルフと獣人に、似たアニメキャラは存在するだろう。俺が、知らなくても、誰かが気が付いたら・・・。大丈夫だとは思うけど・・・。


「オイゲン。解っていると思うけど・・・」


「ん?」


「アニメやマンガのキャラ名はやめておけよ。似ている位ならいいけど・・・」


「・・・。ん?あっそうだな」


 解っていなかった。

 意味は解ってくれたようなので、大丈夫だろう。


 先にギルドに行ってもらっていたセバスチャンが、俺を見つけてギルドから出てきた。


「セブ」


「ご主人様。皆さまには、簡単にご説明を致しました」


 セバスチャンが、オイゲンと奴隷の少女たちを見ながら、自分の事や購入した奴隷は、簡単に説明をした。

 そういえば、同じ神殿だけど、マガラ神殿で”パシリカ”が行えるのか?

 ロルフに確認した方がいいよな。もし、マガラ神殿でも行えるのなら、奴隷の少女たちのパシリカが行える。それだけではなく、奴隷になってしまったから、パシリカが行えていない人たちが居ると聞いたことがある。できるのか、確認しなければならないけど、話を聞いていると、出来そうな雰囲気がある。


「ありがとう。後は、オイゲンの事だけ?」


「はい」


 セバスチャンは、優雅に一礼してみせた。

 面倒な説明が残ったという事だな。


「皆は?」


「ギルドでお待ちです」


 やっぱり・・・。

 待っているのか?

 神殿に案内をすると約束しているから、待っていてもらわないと都合が悪いけど、オイゲンの事とか説明が少しだけ面倒だ。


 面倒だと思っていても・・・。


 オイゲンと奴隷の少女たちを連れて、ギルドに向かう。

 やはり、入口で止められた。


 奴隷の少女たちは、連れていかれた。

 俺とオイゲンだけが残された。


 戻ってきたのは、フェムだけだ。


「リン君?」


 フェムは、部屋に入ってきて、オイゲンを無視して俺に話しかける。

 俺は、関係ないよな?奴隷の少女たちは、オイゲンに任せたと説明している。ギルドのメンバーも納得している。


「え?俺?」


「話を聞けば、貴方が”主人”なのよね?」


 確かに、名義は俺だが、主人はオイゲンだ。


「金を出したのは、俺だからな。でも、実質的な主人は、オイゲンだ」


「それは、いいの。彼女たちから事情を聞いている。オイゲン君を”主”だと認識していた」


 オイゲンの事は、オイゲンとして認識することにしたようだ。

 茂手木では話がややっこしくなってしまう。


「なら!」


「彼女たちの服装は何?狙っているの?あんな服装が、リン君の好みなの?」


「え?あっ!違う。あれは、オイゲンが気に入るように仕向けるために・・・」


「リン君が選んだのよね?」


 ダメだ。

 言い訳ができない。確かに、俺が選んだ。それは正しい。でも・・・。ダメだ。フェムの視線は、俺が認めるまで追及してくる視線だ。ここは、認めてしまったほうが、傷が浅くなる。


「はい。そうです」


「次、オイゲン君」


 !

 服装を問題ではないようだ。

 フェムが何を確認したいのか解らない。


「え?俺?何?自己紹介もまだだけど?」


「自己紹介は、追々やっていけばいいでしょ?違う?」


「はい。間違っていません」


 あぁ確かに、日本名での自己紹介はしていない。

 フェムの言い方では、追々やっていくつもりなのだろう。それか、日本名の自己紹介をしないつもりか?


「フレットに聞いて、驚いた。君。パシリカで大騒ぎを起こしたらしいわね?馬鹿なの?」


「反省しています」


 え?


「さて、リン君」


 それだけ?

 反省しているだけでいいの?


「何?」


「マガラ神殿の話は、大まかに聞いて納得している。でも、前に聞いた時には、オイゲン君は居なかったよね?オイゲン君に何をやらせたいの?」


「うーん。分類をすると、通路の運営はギルドに任せたい。オイゲンは、ギルドで活躍をする・・・。広告塔かな?」


 簡単に説明はしているけど、オイゲンとギルドで話し合ってもらいたい。

 俺が決めるのは、簡単な方針だけだ。


「広告塔?」


「あぁマガラ神殿には、訓練用のダンジョンがある。そこで、ギルドに来た依頼の素材を、オイゲンに取りに行かせる」


「え?リン君はやらないの?」


「俺は、別の事をしようと思う。それに、オイゲンならダンジョンの改善点とか、施設の改善点とか、出せるだろう?」


「ふぅ・・・。わかった。リン君の提案に、全面的に乗るか、話し合いをする時間を頂戴。オイゲン君の事を含めて・・・」


 状況が変わったから、話し合いの必要性があると考えているようだ。

 俺が、オイゲンを奴隷として連れてきてしまった。奴隷の少女だけではなく、セバスチャンや他の奴隷も居る。俺が、奴隷商に言っている最中に、ローザスやハーコムレイから話を聞いたのかもしれない。


「わかった。それで、ミルは?」


「ミアちゃんとレオちゃんを連れて、宿に移動したわよ。リン君が初めて、使った宿だから覚えている?」


「大丈夫だ。オイゲンは、置いていくから、好きにしてくれ」


「えぇ」


 オイゲンが、俺を見て”なぜ?”という表情をしているけど、”連れて行く”と思っていたのか?

 ギルドのメンバーに自己紹介をしてもらわないと困る。

 それに、奴隷の少女たちの名前も考えていない。


 修羅場は回避できたようだ。


 ギルドの王都本部?から出ると、俺の考えが甘かったと思い知らされた。


 そこには、豪華な馬車が止まっていた。

 無視して通り過ぎるには、難しい視線を俺に投げかけている。


 ローザスが、馬車から降りて、しっかりと俺を見定めて、手招きしている。


 馬車の中には、ハーコムレイの姿が見えることから、逃げられそうにもない。セバスチャンも、すぐに理解したのだろう。ローザスに近づいて行って、話を聞いている。


「ご主人様。殿下が、”話を聞きたい”との事です」


 そうだろうね。

 雰囲気でわかった。セバスチャンに案内されるように、馬車に近づいた。


 そのまま、ローザスが俺を馬車に案内する。

 セバスチャンは、固辞したのだが、ローザスが半ば無理矢理に、セバスチャンを馬車に乗せた。今後の話もあるので、セバスチャンにも効かせた方がいいだろうと・・・。一応、理由を説明している。

 そもそも、継承権を持つ者が、”気軽に平民に会いに来るな”と言いたい。

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