第二十三話 奴隷商


 ローザスの目的は解らないが、確かに眷属は、”いい意味”で俺に従順だ。ロルフは違うが、ロルフはマヤに甘いだろう。

 ブロッホは、苦言も呈してくれるが、俺以外への感心は薄い。眷属は、守るべき者たちだと認識しているが、他の”人”は、認識しているか怪しい。


 いろいろな意味で、確かに、”人”が必要になってくる。

 神殿に繋がる場所だと考えると、裏切る可能性がない者でないとダメだ。ブロッホでもいいが、ブロッホには神殿で、眷属のまとめ役を頼みたい。今後、眷属が増えるか解らないが、指示系統を考えると、移動速度と強さを兼ねたブロッホしかいない。他の者では、同種の統括にも影響が出てしまう可能性がある。


「リン君」


「ん?」


「君に、人材を紹介したい」


「人材?」


 ローザスの笑顔が胡散臭い。

 ハーコムレイは、いつもと変わらない。イリメリは、どこか諦めたような表情をしている。タシアナとルナがローザスを睨んでいる。機嫌が悪いようだけど、俺が原因ではなさそうだ。


「僕の・・・。正確には、ニノサと一緒に居た人間が、行っている商会だが、君にぴったりな人材が居る」


「ん?それなら、ギルドで雇えば?俺に、人なんて必要か?」


 必要なのは解っているが、ローザスやハーコムレイとの距離を考えると、紹介される人物をそのまま信じることができない。人材は、喉から手が出るほど欲しいけど、紐付きでは”人材”とは言えない。

 特に、俺のステータスを含めて、知られたくない事が多い。眷属の情報は、どこかで開示する必要はあるだろうけど、隠し通せるのなら、隠しておきたい。アドラが言っている”影響力”を考えれば、どこかで、戦闘は避けられない状況になるだろう。その時に・・・。


「そうよ!殿下。ギルドで、雇って・・・」「ルナ。俺も、その方法を考えた、でも、説明しただろう。リン=フリークスの特異性を考えれば、それでは弱い」


「ルアリーナ君。話しただろう?リン君は、僕たちを信頼していない。でも、リン君には人材は必要だ。そして、リン君をけして裏切らない人材が必要だと・・・」


 ん?ルナが抵抗している?

 確かに、ギルドからの人材では安心できない。でも、屋敷の管理をさせて、神殿への入口を管理させるくらいなら、大きな問題にはならない。


 どうせ、中に入ってきても・・・。

 そうか、ローザスやハーコムレイだけではなく、ギルドのメンバーにも神殿の出入口の説明をしていなかった。


「リン君。申し訳ない」


「いや、大丈夫だ。それで、人材は?」


「これから、行こう」


「これから?」


「そうだ。君に紹介したい会頭は、アッシュ=グローズ。奴隷商だ」


「奴隷?」


「そうだ。君には、ぴったりだろう?それに、君なら奴隷でも大事にするだろう?」


「奴隷を持ったことがないから解らない」


「その回答で十分だよ。それで、どうする?」


 奴隷か・・・。

 考えていなかったが、”有り”だな。


「わかった。でも、俺には」「資金なら大丈夫。僕たちが用意する」


「え?」


「リン=フリークス。いろいろな物への支払いが終わっていない。それだけではなく、ニノサが保留していた資金もある」


「はぁ」


 まぁ気にしてもしょうがない。

 ここは、ローザスとハーコムレイに頼ることにしよう。


「わかった。そのアッシュ=グローズの奴隷商に行けばいいのか?」


「今日、リン=フリークスが来ているとは知らなかったから、アッシュにはまだ連絡を入れていない。すぐに連絡を入れる。問題がなければ、このあと移動したいが大丈夫か?」


「あぁ。ミルとミアは、ギルドに居てもらおうかと思うが、大丈夫か?」


 ギルドのメンバーがミルには説明をすると言ってくれた。すぐには戻ってこないが、戻ってくると解っていれば、待っていてくれる。


 アッシュの奴隷商には、ハーコムレイの護衛が、先ぶれに出ている。


 戻って来るまで、ローザスやハーコムレイから奴隷に関する基礎知識を叩きこまれた。

 ギルドのメンバーは、話が終わったとばかりに、自分の用事を済ませて、俺が奴隷商から戻ってきてから、メロナに移動することにしたようだ。


 待つこと、30分くらいか?

 戻ってきた護衛から、アッシュは奴隷商に居て、すぐに要望の奴隷を用意すると言っているようだ。


 ”要望?”俺は、要望もなにも伝えていないのだが、ローザスが伝えていたようだ。


 もしかして、最初から仕組まれていたのか?

 そして、屋敷の話も嘘とは言わないが、ギルドとの関係を考えて、後付けの理由なのではないか?


 まぁ考えても、答えが出てこないだろうし、誰も教えてくれるような事でもないだろう。

 俺に、不都合があるわけでもないし、気にしないことにしておこう。


 奴隷商には、ギルドから馬車で10分くらいだ。

 店構えを見れば、俺なんかが入るような場所ではないのがよくわかる。


 店の前では、紳士が一人で待っていた。年は、ニノサと同じくらいか?


「リン様」


「え?」


「サビナーニ様に、お世話になっておりました。アッシュ=グローズと言います。是非、アッシュとお呼びください。良かったです。ニノサに似ていなくて・・・」


 あぁこの人も、ニノサに迷惑をかけられた人だな。


「わかった。アッシュさん」


 アッシュ=グローズの案内で店の中に入っていく、奥まった部屋に案内された。


「リン様。サビナーニ様・・・。サビニ様でしたね。サビニ様のお話をお聞きしたいのですが、それは、別の機会にしましょう」


 サビニの話は聞きたいのだな。


「わかった。ギルドに話を通して貰えれば、俺の居場所は解るようにしておく」


「そうでした。ローザス様。ハーコムレイ様。予定通りで大丈夫でしょうか?」


 ん?

 あぁ何かしらの約束事があるということだな。


 二人が、頷いている。


「わかりました。それでは、我が奴隷商が、リン様におすすめする奴隷をご紹介します」


「あぁ」


 ローザスとハーコムレイは、部屋から出ていく。ギルドに戻って、準備を行うようだ。

 奴隷を購入する資金は、ミヤナック家が建て替えるから、必要な奴隷を揃えるように言ってから、ギルドに戻っていった。


 アッシュは、ローザスとハーコムレイの見送りをしてから、俺に奴隷に関しての説明を始めた。

 ローザスとハーコムレイから聞いていたが、もう一度アッシュからも説明を受けた。内容は、同じだったが、奴隷契約に関しては、より詳しく教えてもらえた。奴隷契約は、スキルで縛る方法と、首輪などの装具で行う方法があり、今回はスキルでの契約を進められた。金額も高くなるが、機密を守るためには、スキルの方が良いと言われた。

 装具での奴隷契約は、簡単に言えば首輪で、命令に逆らった場合に、首が絞まるようになっていて、契約者(俺)が死ぬと首輪がしまって、奴隷も死ぬことになる。従って、主人の命を狙うのを躊躇させる物だ。しかし、秘密が多い場合などは、秘密の漏洩が可能なので、勧められない。


 話を聞いた限りでは、スキルでの契約がいいだろう。

 それでも、抜け道はいろいろあるので、最終的には人間関係で秘密の漏洩を防ぐ必要があるのだと、言われた。


 人間関係が大事。

 俺が苦手とする所だ。俺にできるだろうか?


「リン様」


「ん?」


「難しく考える必要はありません」


「え?」


「リン様は、まだパシリカを受けたばかりです」


「そうだが、奴隷の主になるのなら」


「ダメです」


「え?」


「奴隷の主は、”これが正しい”とか考えては、奴隷も主も幸せになれません」


「どういうこと?」


「はい。主と奴隷との関係は、違って当たり前です。それこそ、家族でも考え方が違うように、奴隷との接し方は、違うのです。ですので、リン様は、奴隷との接し方で悩まれる必要はないのです」


「しかし、それでは、”いい関係”が築けないのでは?」


「その考えは、間違っていませんが、正しくもありません。リン様と奴隷の関係は、リン様と奴隷にしか解らないのです。今、お悩みになっても、結局は、その時になってみないと解らない」


「それは、そうだろう・・・」


「まずは、私どもがお勧めいたします。人物を見てから判断してください。リン様との相性もあります。必ずしも、素晴らしいスキルと経験がある者が、リン様にとって”良い”人材である保証はありません」


 アッシュの話を聞いて、納得したわけではないが、理解はできた。

 確かに、考えても仕方がない事なのだろう。


 ダメならメロナの屋敷だから、ダメなら最悪は放置でもいいのかもしれない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る