第九話 ギルド(仮)本部では


 リンがマガラ神殿で、マヤとミトナルが起きるのを待っている頃。

 王都では、いろいろな事が発生していた。


 王都の一等地に立つ店舗のような建物の中にある。一つの部屋で、女性だけ8人が集まって会議をしている。


「ルナ。それで?リン君たちはまだ見つからないの?」


 王国に初めてできる組織の方向性を決める会議をしていた。先ほどまで、次期国王であるローザス王子とハーコムレイ次期辺境伯とギルドが正式に認められた場合に、ギルド長に内定しているナッセ・ブラウンと人材面のサポートを行うアッシュ・グローズが参加していた。

 それだけでも、ギルドという仕組みを王国が興味を示しているのか解る。会議には、参加はしていなかったが、教会関係者である枢機卿の一人でもあるリンザー・コンラートが最初だけ顔を出した。


 会議は無事に終わって、今は設立メンバーである8人だけが残って、会議を行っている。


「商隊経由で調べたけど、情報が錯綜しているわね」


 8人の中では、リン・フリークスは、神崎凛だという認識で一致している。

 本人が隠しているので、追及はしないと約束している。リンが危険に晒されていると聞いて、ミトナルが、何も言わずに後を追った辺りから、確信に変わった。そして、ギルドの話にも協力的なことなどから、確実だと考えていた。

 日本に居た頃の、神崎凛を知っている者たちは、リンが慎重になっている理由も解っている。解っているからこそ、リンが自分から言わない限りは、神崎凛だと言わないことに決めた。幸いな事に、凛とリンで呼び名が変わっていない。そのために、混乱はしないで済むと考えていた。


「サリーカ。どういうこと?」


 サリーカは、自分が属している商隊の情報収集能力を使って、リン・フリークスの情報を集めた。

 しかし、集められる情報は、”フリークス”は、フリークスでも、ニノサ・フリークスの情報だけだ。騎士団に属していた過去や、貴族への推挙を断り、姫君を攫って逃げた極悪人だとか、陛下に忠節を誓い。陛下からの命で、姫君を逃がした。その先で、姫君を静かに暮らしている。姫君も、自らの騎士であるニノサを頼りにしていた。宰相からの執拗な求婚を煩わしく思い、恋仲であったニノサ・フリークスと駆け落ちした。

 いろいろな話が集まったが、リン・フリークスやマヤ・フリークスの情報は、何も集まらなかった。


「関係しそうな所は、リン君の産まれた村。あとは、アロイにある三月マーチラビットという宿屋の店主くらい」


「その宿屋は?」


「ナナさんという人が切り盛りしているけど、パシリカに来る時に、リン君とマヤちゃんが立ち寄った宿屋。ナナさんは、リン君のご両親とも面識があるみたい」


「へぇ何か知っている可能性があるのね」


「それが解らないのよね」


「え?」


「リン君とマヤちゃんは、村に帰る途中で、マガラ渓谷に落ちたと言われている」


「うん」


「でもね。リン君とミトナルを、アゾレムの領都で見たという商人が居たり、村で見たという商人が居たり、森の中で魔物に囲まれていたのを助けられたという商人がいたり、様々な情報がある」


「え?でも、おかしくない?」


「ん?フェム?なにが?」


「商人が、いろいろな所に居るのは解るけど、リン君が移動するには、距離がありすぎない?どれか、一つなら、マガラ渓谷から急いだと思えるけど・・・」


 この世界には、明確な地図は存在しない。

 町から町。町から村。村から村。それぞれの移動に掛かる時間で、大凡の位置関係を把握している。

 商隊は、それらの相対地図を頼りに、移動を行っている。森を突っ切れば早いとか、現実的ではない移動手段は省かれる傾向にある。そのために、サリーカは、位置関係を誤解していた。そんなサリーカの地図を見ながら議論をしている8名は、リンの噂がおかしな事になっていると考えた。


「確かに不思議ね。リン君で間違いはないの?」


「それが不明確なの。ただ、ミトナルの目撃情報は、間違いはないと思う。三月マーチラビットに入っていった所や、森に居た所を見られている」


「でも、そうなると、マヤちゃんが居ないのが不思議よね?マヤちゃんが、リン君から離れるとは思えない」


 不確かな情報からの想像だ。

 答えに辿り着けるはずがない。


 8名の全員が、リンの心配をしているのは、間違いではない。しかし、心配の度合いが違う。8名の半数の5名は、マガラ渓谷の探索をするために、すぐにでも王都と飛び出したいと思っている。他の3名は、同じように心配はしているが、無事なら王都に戻ってくると考えていて、探しに行って、自分たちが、マガラ渓谷に飲み込まれるほうが問題だろうと考えている。そして、飛び出していきたいと思っている5名も、残りの3名の言葉が正しいと認めている。

 自分たちがやらなければならないのは、ギルドの設立と制度設計。そして、自分たちのレベルアップだ。


 レベルアップは必須だと考えている。


「リン君は、ミトナルに任せるとして、私たちは私たちの事を考えましょう」


 イリメリが、皆をまとめるように話題を変える。実際には、イリメリが飛び出したい気持ちになっているのだが、リンから託された物も多い現状では、ギルドを放置して王都から離れられない。


 ギルドは、本格稼働に向けて順調に進んでいる。


 それに平行して、ミヤナック辺境伯家による、宰相派閥の追い込みも行われている。裏で、ギルドのメンバーが動いているのは、ローザス一派でも一部の者にしか知らされていない。

 リンからもたらされた情報は、宰相派閥の動きを牽制するのには十分な効力を発揮した。

 ダメージを与えるには至っていない。宰相たちは、下級貴族の何人かをスケープゴートにして逃げ切る方法を模索している。王国の病巣は、まだ根深い。


 宰相派閥とローザス(現王家)派閥の暗躍は、教会を巻き込んだ派閥闘争に発展した。


「フェム。大丈夫なの?」


「どうだろう?それよりも、カルーネとアルマールの店は、ギルド内に作る?」


「うーん。ギルドの横にしようかと思っている」「私も」


「そうね。ギルドとは別にしておいた方がいいかもね」


「そういえば、タシアナ。寮を作るよね?」


「うん。もう、手配してある。今週末には入寮できる」


「了解。ルナはどうする?」


「もちろん。入寮するよ」


「え?いいの?」


「うん。反対されたけど・・・。押し切った。それよりも、フレットの方が、難しいよね?聖女さま?」


「もう。私は大丈夫。役目は無くなったよ。ステータスが、どう見ても聖女じゃないからね」


「ははは。ずるいな。リン君に偽装してもらった結果でしょ?」


(パン!パン)


 クラスに居た時と同じように、イリメリが手を叩く。

 姦しかった雰囲気が、手の音で元に戻る。


「はい。はい。タシアナ。寮は任せる。ナッセさんと話し合って決めて」


「了解。皆の部屋は?」


「任せる。いいわよね?」


 皆が頷く、別にこだわっているわけではない部屋があれば文句を言わない。


「リン君とミトナルの部屋は?」


「確保しておきましょう」


「わかった」


「ルナは、引き続き、宰相派閥の動向のチェック。もしかしたら、茂手木くんの足取りが掴めるかも」


「了解」


「フェムは、ギルドの受付と内装をお願い。サリーカとカルーネとアルマールは、フェムを手伝って」


 4人が了承の返事を上げる。


「フレットは、教会からのアプローチをお願い。茂手木くんが、このゲームのジョーカーになってくると思うの・・・」


「わかった。奴らの動向は?」


「私が・・・。と、立候補したいけど、力不足だから、私は、王都周辺の聞き込みをしてこようと思う」


 皆が了承の返事を上げる。

 これで、今日の会議は終わりだ。


「次は、リン君かミトナルが帰ってきたら、臨時会議を行うけど、何もなければ3日後に集まろう」


 皆が頷く、連絡方法はいくつか用意されている。

 3日後に、情報を持ち寄ることで、無駄を減らそうとしている。


「予定では、5日後に、討伐部隊が近隣の森で間引きを行う。それには参加しようと思っている。皆、準備をお願い。負担が掛かるけど、アルマールとカルーネは無茶にならない範囲で対応をお願い」


「「了解」」


 この後は、個別に相談したことを各自で相談する時間となる。

 飲み物やお菓子を持ち寄って、情報交換を行って、三々五々に部屋から出て行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る