第八話 ステータス


 ミアは、自分が従者だと認識はしていても、従者の役割がよくわかっていない。

 今も、アウレイアの眷属に跨って・・・。正確には、眷属の白狼に抱きついて眠ってしまっている。俺とミルが、自分に危害を加えないとわかったのだろう。安心して眠ってしまっている。


「リン」


 ミルは、ミアの髪の毛を触りながら、僕を見つめて来る。

 もう、他の猫人族が離れてしまっているので、神殿にミアだけを向かわせるのは難しい。不可能だと言い切ってもいい。戻すのなら、俺たちも、一度神殿に戻る必要がある。せっかく、マガラ渓谷を抜けたのに、戻って、さらに、もう一度マガラ渓谷を越えるのは手間だし、時間の無駄だ。


 それに、ミルがこの調子なら、可愛い物が好きな癖に、必死に隠そうとしていたイリメリ静川瞳が神殿に行った時に、ミアを知ったら怒らないまでも、機嫌を悪くするだろう。それなら、先に合わせた方がいい。あと、ルアリーナ熱川千明にも合わせて、王都や貴族の中では獣人、特に猫人族の扱いを聞いておきたい。そのためにも、ミアを連れていく意味はある。


 あと、今はミルの服に着替えているが、一部を除いてサイズが大きい。ミアにあった服や下着を買ってあげなければならない。


「連れて行くのはいいけど、大丈夫かな?」


「心配?」


 ミアは、今まで猫人族の中でも、冷遇とまではいわないけど、処遇がよかったとは思えない。

 それが、神殿ならまだしも、王都では人が多い環境にはなれていないだろう。


「うん。環境が一気に変わるから・・・」


 人の波で疲れてしまわないか心配だ。


「神殿に戻す?」


 それは考えたが、どちらにしろ、もう遅い。帰すのなら、ミアが寝てしまう前に判断しなければならなかった。

 はしゃいでいる姿が可愛かった・・・。一生懸命、話をする姿に絆されてしまった。


「でも、猫人族での立場を考えると・・・」


「わかっている」


 ミルも感じているのだろう。

 猫人族の対応が正しいとは思えない。でも、間違っていると断罪できるほど、俺たちは猫人族を知らない。


「ミアを、俺とミルに預けるという形を取っているけど、追い出した?人質?その両方の意味がある」


 だから、俺は彼らがミアを預けると言い出した時に、受け入れる姿勢を取った。

 俺の対応は、間違っていない。と、思いたい。


「うん。僕たちで守れば?」


 ミルは、もう離れたくないような雰囲気だ。

 確かに、俺たちなら、物理的な脅威なら守れるだろう。権力は、ルアリーナやフレットに会ってからになるが、権力から守る方法も存在している。


「それしかないと思っている。ミル。ミアのステータスを見た?」


 問題は、同級生たちだ。

 女子たちは大丈夫だと思いたい。ミアのステータスは、少しだけ、本当に少しだけ異常だ。あとで、偽装を施すとして、”偽装を破る方法が存在しない”とは、、思えない。だから、ミアは、俺とミルの側に居るほうが、安全だと思う。ブロッホが居れば、逃がすことも可能だろう。

 神殿の中なら、ロルフも居る。眷属たちにも保護をお願いすれば安全は高まる。


「え?ううん。見てない」


「驚くよ」


 説明するよりも、見てもらったほうが早い。

 ステータスの新しい可能性だ。眷属たちにも、芽生える可能性がある・・・。新しい、可能性なのかもしれない。


「え?転生者・・・。は、違うよね」


///真命:ミークラヒ・シートレーン

///種族:ハーフ・ケットシー

///ジョブ:テイマー

///体力:30[240]

///魔力:110[110]

///腕力:40[320]

///敏捷性:90[720]

///魅力:80

///魔法:白(1) [赤(9) 黒(9)]

///スキル:念話

///エクストラスキル:眷属回復 獣化


「すごい、真命だ」


 確かに、真命が存在している。

 これは、”人”と同じだ。


「そこ?」


「テイマー?でも、かっこの数字は?」


 ジョブのテイマーも気になったが、やはり、[]の数字は俺も気になった。


「わからないけど、多分、獣化したときには、ステータスが変わるとかじゃないの?」


 予測の範囲だけど、間違っていないと思う。


「そうだね。ねぇリン」


 ミルの言いたいことは解っている。

 ミアのステータスは隠蔽しておいた方がいい。


「獣化は、隠蔽しておこう。あと、念話と、かっこの数字も・・・。あっできた。種族名も、猫人族に変えておこう」


 他のステータスは、特に数字はいじる必要がなさそうだ。

 念話が使えるのは、種族的な物なのか、ミアだけ特別なのか・・・。他の、猫人族のステータスも確認しておけばよかった。


「うん!あと、真命は消せる?」


「消す?」


 変えるのは解るけど、消す意味がわからない。


「うん。なんとなく、感だけど、隷属とか、真命に結びつくように感じない?」


 ミルの感だけど、なんとなくミルの言いたいことがわかった。真命が必要な場面になったら、考えればいいかな。

 それまでは消しておけばいい。


「わかった」


 ミルは完全にスルーしていたが、俺は「ハーフ・ケットシー」が気になった。種族が、”ハーフ(クォーター)・猫人族”ならわかるが、ハーフ・ケットシーだと、ミアの両親のどちらかが、ケットシーになってくる。それとも、先祖返りなのか?それで、ハーフになるのか?疑問が尽きない。

 それに、ケットシーは、この世界では”精霊王”の一柱だったはずだ。神の使いとして崇められる存在だ。それは、”子”を為す?


 長老は、ミアの秘密を知っているのか?

 知っていて、俺たちに託したのだとしたら、ミアの両親は?猫人族として過ごしてきた状況がわからない。


///真命:

///種族:猫人族

///ジョブ:テイマー

///体力:30

///魔力:110

///腕力:40

///敏捷性:90

///魅力:80

///魔法:白(1)

///エクストラスキル:眷属回復


「うん!これで、ミアは大丈夫」


 ひとまず、偽装を施した。


「そうだな。さて、ミアが寝ているしけど、移動を早めにする?」


 王都が近くなってきている。森の密度が和らいできている。騒音は聞こえないが、森の中の息遣いが減ってきている印象がある。


「わかった」


 ミルの了承を得て、速度を上げる。

 アウレイアの眷属も、ミアを載せながら器用に走って、俺たちに付いてくる。ミルが、眷属の背中に抱きついて眠っているミアの安全を確認している。俺は、丁度良い速度を探すように、徐々に速度を上げていく。


 マガラ渓谷を越えた。

 あとは、王都に向かうだけだ。


 ミアが起きていると、一緒に歩きたいと言い出しかねない。ミルが、ミアに甘くなりそうな雰囲気がある。


 今のミアのステータスでは、俺とミルが手を抜いた状態の、移動速度でも付いてこられない。今のように、別の移動手段が必要になる。獣化すればステータスの問題は解決するかもしれないが、ミアが獣化を使い続けられるのか?使った後には?メリットは解りやすいが、デメリットがステータスからでは読めない。”使う”としても、神殿に戻ってからだろう。

 眷属が居る状態なら、何かあっても対処が可能だ。


 神殿に残してきた者とは、繋がりは感じるが”念話”が届かなくなった。

 距離の問題なのか、他の問題なのか、わからないけど、連絡ができなくなっている。


 木々の密度が減って、草原が見え始める。

 王都が近くなってきている。


 馬車道も見える。


「ミル」


「うん」


 速度を緩める。

 アウレイアの眷属を帰した方が・・・。


「ねぇリン。アウレイアの眷属だけど、この子は白狼?」


「うん。白狼は、珍しいけど、フェンリルやリトル・フェンリルやレッサー・フェンリルと比べると、珍しくない。元居た村にも、1年で数回は見かけた種だよ」


「それなら、このまま連れて行かない?」


「え?」


「ミアは、テイマーで、この白狼を従わせれば、安全にならない?」


「うーん。うーん。判断に迷うけど・・・」


 白狼を見ると、頷いている。

 どうやら、ミアの従獣になるのは問題ないようだ。


「わかった。ミアを起こしてから確認しよう」


「うん」

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