第十六話 管理者
「アウレイア。他には、魔力溜まりは見つかっていないのだな?」
『はい』
「ミル。見つかった魔力溜まりは任せていいよな?」
「うん。マヤと相談するけど、問題はないよ」
「それなら、神殿に戻るか?」
『マスター。眷属を、魔力溜まりの監視に残したいと思いますが、ご許可をいただけますか?』
監視は必要だな。それに、魔物が必要でも、間引きはしておいたほうがいいよな。
「そうだな。監視は、必要だ。ミル。いいよね?湧いた魔物の、間引きを含めて、アウレイアたちに頼んでも?」
「うん」
アウレイアたちには、引き続いて森の中を探索してもらう。森の木々が密集し始める奥には、ブロッホが居た山脈に繋がる場所があり、危険だと思われている。山脈には、森とは違う危険が存在している。アウレイアたちには、無理のない範囲で森の探索を進めてもらう。まだ、知らない種族が居る可能性がある。意識有る魔物なら、友誼を結びたい。意識無き魔物なら、大きな群れになる前に潰しておいたほうがいいだろう。
アウレイアだけではなく、他の眷属たちも探索を行うことになった。
「ミル?」
ミルが、目の前にあった切り株に座って、なにやら考えているように見える。
「リン。僕たちは、神殿に戻ろう」
「もういいのか?」
「うん!」
「そうか、何をしたかったのかわからないけど・・・」
「大丈夫」
何が、大丈夫なのか、わからないが、大丈夫なのだろう。眷属たちも居るし、ブロッホからは何も連絡が入らない。問題が、あればすぐに連絡をよこすだろう。
アウレイアは、眷属を連れて森の探索に出た。範囲を広げて探索を行う予定になっている。森は、深くはないが、範囲が広い。街道から山脈までの間に広がっている。ところどころに、池や沼や川がある。森の全体像を把握しておきたい。
「リン。戻ろう」
「あぁ」
考えがまとまったのか、今度は、俺の前を飛行するように進んでいる。
神殿に繋がる祠に移動すると、ブロッホが待っていた。
「ブロッホ」
「お迎えにあがりました」
「それは、嬉しいけど・・・。神殿は大丈夫なのか?」
「はい。マヤ様とロルフ様が、神殿の拡張を行っております」
「拡張は、俺がやっていたような事?」
「・・・。はい。領域の拡張を行われています」
「領域?」
ミルが、俺とブロッホの間に飛翔してきた。
「リン。僕が説明する!」
「・・・。ブロッホ。そういう事だから、ミルから話を聞くよ」
「かしこまりました」
ブロッホが、頭を下げて、後ろに下がろうとしたら、ミルがブロッホの肩に止まった。
「ミル?」
「目線が丁度いい」
「・・・。ブロッホ、そのままで頼む」
「かしこまりました」
ブロッホは、頭を下げずにそのままの姿勢で承諾した。目礼をしたのは、頭を下げられない状況だからだろうか?
「それで?」
「あっうん。マヤが管理者になって、神殿を拡張している」
「・・・。え?」
ミルは、それで説明が終わったかのようだ。しっかりと俺に伝わったと、胸を張るが、ブロッホが言った話と何ら違いはない。
「ミルさん?説明は、それで終わり?」
「え?あっ・・・。うん。僕が、話していいと言われているのは、これだけ・・・」
「ん?」
ブロッホを見ると、これ以上の説明の許可はないようだ。
二人に、強制できるのは、マヤだけだろう。ロルフもできる可能性があるが、ロルフからのお願いなら、ミルは無視している可能性が高い。
「わかった。実際に、何が行われたかは、マヤに聞けばいいのだな?」
「うん!」
正解のようだ。ミルが、立ち上がって、俺の方に飛翔してきた。
「ブロッホ。それで、神殿に戻っても大丈夫なのか?」
「ロルフ様が・・・。丁度、来られました」
ロルフが、祠から出てきた。
「リン様」
「ロルフ。マヤは?」
「お休みになっておられます」
「わかった。神殿の拡張の説明は、マヤがしてくれるのだよな?」
「・・・。マヤ様から、ミトナル様に頼むと・・・。ご伝言です」
「はぁ・・・」
マヤは、マヤだ。
何も変わっていない。いつでも全力だ。その後で、疲れて寝てしまうのも変わっていない。
「ミル?」
ロルフを見ていたら、俺の肩に居たはずのミルが居なくなっている。
辺りを見回しても、ミルが居ない。消えた?まさか・・・。
ロルフも、ブロッホも、慌てていないのが気になる。
ブロッホだけではなく、リザードマンたちを見ても、不思議に思っていないようだ。消えたよな?どこかに、飛翔したわけではない。肩にあった重みが急になくなった。祠と違う場所に移動したのか?
探しに行こう。
「リン」
祠に背を向けて探しに行こうと思っていたら、後ろから誰かに抱きつかれた。
「ミル?」
腕を見れば、手を見れば解る。
「うん。マヤが、寝るから交代した」
「え?・・・。あっ。遠距離でも替われるのか?」
「うーん。どうだろう。妖精は、魔力の塊だから、消せばいい。身体の僕が目覚めただけ?よくわからないけど、できた!」
「ミル。マヤにも伝えて欲しいのだけど、無理だけはしないでくれ、俺が言えた話しではないが、頼む。二人を失いたくはない」
「え・・・。うん。わかった」
抱きついていた身体を離して、俺の前に歩いてくる。
ミルだ。マヤではない。でも、少しだけ雰囲気が変わったか?
「ミル。雰囲気が変わった?」
「多分、マヤの影響かな?僕たち二人で、一つの身体を共有している。マヤが、妖精の姿になれば、戻るかもしれない。今は、マヤは寝ている」
「そう・・・。それで、神殿の拡張って?」
「うん。僕が、魔力溜まりを吸収したのは、神殿の拡張に必要だったから」
「え?」
「僕とマヤが、リンに言わなかったのは、ごめんなさい。謝ります。でも、言ったら反対されていた」
先に謝られてしまうと、怒れない。無茶では無かったかも知れないが、”危険がないとは、断言できなかった”から、俺には内緒にしたのだろう。マヤが起きてから、しっかりと聞かなければならない。
「あっマヤを叱るのは辞めてあげて、マヤは・・・。反対していた。僕が・・・」
そんな泣きそうな顔をされたら許す以外の選択肢はない。
「いいよ。でも、次から、先に教えてくれ、それで、魔力溜まりが必要だった理由は?」
「あっ神殿の拡張に必要だった」
堂々巡りになってしまう。
「うーん。それは、後でロルフに聞くとして、拡張すると何ができるようになる?」
ロルフを見ると、しっかりと頭を下げるので、説明はしてくれるつもりなのだろう。
「マガラ渓谷を神殿に組み込んだ」
うーん。
なぜ、マガラ渓谷を取り込んだのか、その結果何が発生するのかを説明して欲しいのだけど・・・。
ロルフを見ると、首を横にふる。
後ろに控えていた、ブロッホを見ると、跪いていた状態から立ち上がった。
「ミトナル様。詳細な、説明を私からしてよろしいでしょうか?」
ミルが、俺を見てから頷いた。説明を諦めてくれたらしい。それで、俺の横に来て、腕を組んできた。問題はないが、話を、説明を受ける態度ではない。ブロッホは、気にした様子もなく、俺を見てから説明を始めた。
ブロッホは、魔力溜まりが必要だった理由から説明を始めた。
当初は、マヤが自分の残存魔力を使って、神殿を拡張すると言い出したようだ。しかし、それでは、マヤの魔力が著しく低下して、もしかしたらまた睡眠モードに入ってしまうかも知れない。睡眠モードに入っても、起きてこない・・・。と、いう自体にはならないが、それなら、俺に説明してからにしたほうが良いとブロッホが窘めた。
そのときに、魔力溜まりが発見された。魔力溜まりを、吸収すれば、マヤの魔力を減らさずに、神殿の拡張ができると考えたようだ。
魔力溜まりを吸収するのを、マヤが反対したのは、ミルを危険に晒す可能性を考えてのことだ。しかし、自分が危険な状況はそのまま押し通そうとした。問題が変わっただけで、マヤもミルも危険だったことには間違いはない。
「ブロッホ。神殿を拡張するために、魔力溜まりが必要だった理由は解ったが、そもそも、なぜ神殿の拡張が必要だったのだ?」
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