第十五話 嫌がらせ
『マスター!新しい、魔力溜まりを発見しました!』
「はぁ?」
街道までの距離を計測していたアウレイアからの報告だ。
『アウレイア。どういうことだ?』
アウレイアからの報告では、街道近くに新しい魔力溜まりができていて、低位の魔物が産まれ始めているという報告だ。
「ミル。どうする?」
「うーん。アウレイア。その場所って、神殿からどっちの方向?」
ミルが、普通に俺と話をしながら、アウレイアに繋げるという器用なことをしている。俺も練習をしてみよう。できるようになれば、いろいろなことができる。
アウレイアの報告では、新しい魔力溜まりは、神殿に影響が出る場所ではない。森の中なのは間違い無いが、ティロン家が代官をしている街に向かう街道に近い場所だ。
「ティロンか・・・」
「ん?ミル?」
ミルが嫌そうな表情をする。ミルが見せる表情では珍しい部類だ。
「リン。エスタール・ティロンは、山崎だよ」
山崎?
覚えている。立花の取り巻きの一人だ。
「・・・。山崎徹か?」
「そうだよ」
「そうか・・・。マヤとミルの事だけを考えていて、すっかり忘れていた。奴らには、思うことはあるけど、街に住んでいる連中には・・・」
「わかった。リン。僕が、魔力溜まりに行こう。でも、湧いた魔物は、僕に処理を任せて欲しい」
「わかった」
ミルの表情から、何か考えが有るのだろう。俺に言うと、反対されると思っていたようだが、ミルがやりたいと思っている事で、俺が反対するのは、ミルを犠牲にすることだけだ。それ以外で、反対することはない。ミルとマヤには言わないが、俺の覚悟だ。
『アウレイア。聞いたか!ミルの言葉は、俺の命令だ。指示に従え』
『はい。マイマスター!』
「アウレイア。魔物たちは、低位の魔物なの?」
『はい。ミトナル様』
「低位なら、追い立てることもできる?」
『はい。可能です。魔力溜まりから湧き出る魔物程度なら、上位種が出てきても対処はできます』
「アウレイアが?」
『はい。中位魔物なら、我の眷属でも対応は可能です』
「そう・・・。リン。本当に、僕に任せてくれるの?」
「あぁミルが何をしようと任せる」
「ありがとう」
ミルは、俺の肩に戻った。どんな表情をしているのかわからないが、肩からミルの気配を感じる。
戻る前に、表情が変わったことから、誰かと繋いで話をしたのだろう。もしかしたら、ブロッホ辺りから助言を得たのかも知れない。
『アウレイア。意識無き魔物たちを率いて、ティロンに向かう馬車で、今から見せる文様が書かれた馬車を襲え!従者と兵士は殺すな。荷の奪取を目的としろ』
『はっ!ミトナル様。ご命令に従います。その上で、我の眷属だけではなく、リデルの眷属で、命令を遂行いたしたく思います』
『なぜ?』
『我の眷属では、意識無き魔物を追い立てることはできますが、追い立てるだけで、明確に狙った馬車を襲わせることはできません。しかし、リデルの眷属ならば、意識無き魔物を操れます』
「リン」
「ミルに任せる。荷を盗むのは、魔物が繁殖しているようにみせるのか?」
「うん。あとは・・・。嫌がらせ。嫌いになった?」
「俺が、ミルを?」
「うん」
「惚れ直した」
「っっっっっっ」
ミルが、肩に乗って、俺の側頭部を”ぽこぽこ”殴っている。照れているのが解る。俺も、きっと耳まで赤くなっているだろう。
「ミル。嫌がらせをするのなら、夜の間に、魔物たちを移動させたほうがいいな」
「え?」
「神殿の森から襲われたら、魔物討伐とか、短絡的なことを言いそうな連中が居るだろう?山崎とか、立花とか、細田とか、西沢辺りも偉そうに分析していいそうだな」
「あっ」
「それに、従者や護衛を殺さないのなら、アゾレムや関係する家の馬車じゃなくて、対立している派閥の馬車を狙おう」
「え?」
「うーん。ルナやフレットに聞いたほうが良いかも知れないが、アゾレムが属している派閥じゃない馬車ばかりが襲われたら、襲われた者たちはどう考える?」
「うーん。リンの話は解るけど、何か裏があるとか思われない?」
ミルが言っているのも間違っては居ないし、別の意図が実際にあるので、意図を見抜いた気になって解説する奴らは出てくるだろう。そして、”自分たちに責任を追わせる”敵対派閥の仕業だと言い出す可能性だってある。
「うん。ミルの心配は、解るけど、バレても・・・。何も困らないよね?」
「え?」
「神殿の存在まで、バレたら少しだけ困るけど、結局は”魔物が馬車を襲っている”だけでしょ?」
「・・・」
「それに、アゾレムに関係する馬車だけが狙われなかったら?確か、奴らに、”テイマー”が居たよね?」
「うーん。覚えていない」
「確か、白い部屋で、”動物使い”のジョブを笑っていたから覚えている。確か、西沢だと思う」
「え?あっ!」
さすがは、ミル。すぐに気がついたようだ。
「そう、統率した魔物が馬車を襲うという一点で、疑われるのは”テイマー”だ。奴らのことだ、すでに”自慢”を始めているだろう。丁度いいと思わない?」
「・・・」
「それに・・・。もし、西沢が出てきたら・・・」
「リン?」
「あぁごめん。立花たちは、別に友誼や忠誠で繋がっているわけじゃないだろう?」
「うん」
「特に、西沢は、立花や山崎には、いい顔をするけど、他のメンバーには・・・」
立花たちが”カツアゲ”のようなことをしないのは、西沢が居たからだと記憶している。
この世界の人間関係が、日本に居たときの人間関係の延長線にあるのなら、西沢の役割は”金庫番”なのかもしれない。立花の立場や、山崎の立場を考えると、日本での関係をある程度は踏襲していると考えて良いかも知れない。
実際に、女性たちの立場も似たような感じになっている。
「・・・」
「多分、奴が一番、あの中で情報を握っている。裏で仕切っているのは、西沢だと思う。西沢が誰なのか、わからないけど、丁度いい”嫌がらせ”だと思わない?」
ミルが、俺の肩でどんな表情をしているのかわからない。軽蔑されてしまうかも知れないが、俺は・・・。もう・・・。
「リン。それで、僕は何をすればいい?」
ミルが、また肩から飛び出して、目の前に移動してきた。
表情を見ると、何かを期待している雰囲気がある。
「何を期待しているのかわからないけど、魔力溜まりをミルに任せたい」
「わかった。一度、神殿に戻ってから、マヤと相談してからでいい?」
「もちろん。人員が必要なら言ってくれ」
「わかった。あっ!そうだ、リデルの眷属に魔物を操ってもらうだけでも十分だけど・・・。ラトギの眷属で、”テイマー”のジョブを持っている者が居るらしいから・・・」
「任せるよ。リデルの眷属に、魔物を操らせて、ラトギの眷属にテイムさせれば、”嫌がらせ”の成功率が上がるだろうね」
「ありがとう!」
多分、話を聞いていたブロッホ辺りが、調べたのだろう。
あとで、ブロッホに確認したほうが良いかも知れない。いや、聞いても覚えられないから、把握している状態なのか、確認しておけばいいな。組織を作らなければならないほどの数ではないが、種族で動くよりも、ジョブで動くことが多くなりそうだし、種族の長を集めて確認したほうがいいかもしれないな。
立花たちは、間違いなく俺を、俺たちを狙ってくるだろう。実際に、”リン”は殺されかけた。実際に、死んでいても不思議ではない状況だ。生きているのは、奇跡的な偶然の結果だ。
アゾレムは、俺の敵だ。アゾレムの跡継ぎが、立花だったのは解りやすい図式だ。
やはり茂手木を早く見つけて、俺の味方には無理かも知れないけど、女子たちのブレーンにはしたい。
この生き残りゲームの勝敗は、茂手木が握っているかもしれない。茂手木のジョブはわからないけど・・・。奴なら、ジョブがなくても、チートを考えつくだろう。瞳たちのブレーンには向いているだろう。ただ、女子の前でも”ハーレム”とかいいそうだからな・・・。茂手木は・・・。
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