第九話 執事からの提案


 ブロッホが、眷属たちの意見をまとめてくれた。

 ロルフも意見をまとめるのを手伝ったようだ。


 二人からまとめられた意見をもとに、神殿の内部を変更した。


 俺が専用で使う部屋を用意した。マヤとミルが眠っている祭壇の横に作られた。ジャッロやヴェルデやビアンコからの要望だ。俺の部屋が無いのを気にしていた。俺は別に必要ないと思ったのだが、ブロッホから皆が安心するためにも、俺の部屋が必要だと言われた。拠点となるように、寝室と執務室を作った。調度品は、とりあえずはポルタ村から持ってくることに決めたようだ。

 寝室の奥には、俺の趣味で”風呂”を作った。トイレも作っておいた。完全に、住める場所にするためだ。特殊な小部屋として、神殿内を移動できる転移門を作った。神殿の中を移動するための転移門なら自由に設置できる。


 階層を追加することになった。

 3階層しか追加出来なかった。神殿が攻められた時の避難場所にもなるようにした。追加した階層は、ロルフの進言を受けて、魔物が湧き出るようにした。ロルフの説明では、神殿で湧き出る魔物は、意識が芽生えることが無いらしい。それでも、気分の問題として、眷属と同種同族は湧き出ないように設定した。ジャッロやヒューマやラトギたちが、訓練を行うためにも魔物が湧き出るようになっている方が良いようだ。そして、眷属たちは俺とは違って、同種同族でも仲間でなければ戦うのは当たり前だと考えているようで、問題はないらしい。

 神殿の表層から、下に降りると草原が広がる階層になっている。広さは限界まで広げた。実際の広さは、アウレイアとアイルの眷属たちが確認を行っている。草原の階層を、1階層と表現した。2階層目は、俺の記憶にあるようなダンジョンにした。洞窟と迷路を併せたような場所だ。罠も皆の意見を取り入れならが大量に設置した。湧き出す魔物は虫系や特殊スライムにした。最終となる3階層は、避難所となるように設定した。


 神殿に階層を追加して、ロルフがパネルのある部屋が移動できると教えてくれたので、執務室の奥に設置した。

 これで、重要な施設をまとめることが出来た。敵勢力が侵入した時でも、防御がしやすいだろう。眷属たちが守りやすいように配置を考えてくれた。


 神殿の担当者が設置できるようになっていた。

 選択できた者の中から、皆の推薦もあり、ブロッホに担当してもらうことが決定した。


--- パネル表示

神殿名:マガラ神殿

所有者:マヤ・アルセイド

管理者:リン=フリークス・マノーラ

サポート:ロルフ・アルセイド

担当者:ブロッホ

---


 ロルフとブロッホと相談をして、ブロッホの権限を決定した。

 祭壇と俺の居住スペース以外の場所は、ブロッホが変更できるようにした。階層の追加や削除は、管理者が行う必要があるが、ロルフの話では魔力の関係上”追加は、暫くは出来ないだろう”ということなので、問題はないと判断した。


「旦那様。ダンジョンの管理はお任せください」


「頼む。神殿部分も、使いやすいようにしてくれ」


「かしこまりました」


 眠り姫マヤとミルは起きる気配がない。

 死んでいないのは、パネルの表示と、ブロッホの診断で解っている。


 食事をして、外の様子を見に行っている者たちから報告を受ける。俺は、祭壇に居る時間が増えた。

 執務室が出来たことで、報告を受けやすく鳴った。それだけではなく、ブロッホが窓口になっていることで、円滑に物事が進むようになった。新しく眷属になるために訪れた魔物たちの対応も、ブロッホが対応している。俺は、最終的に名付けを行うだけで良くなった。


 俺は、日課に鳴っている眠り姫の側に居る。

 姿は、ミルだ。ブロッホが言うには、生きている状態である。しかし”魔力が安定していない、そのために、目を覚まさない”と言われた。


「マヤ。いつまで寝ている?ミルは白い部屋なのか?俺はどうしたらいい?マヤ・・・。ミル・・・」


 ブロッホが言っている”魔力が安定していない”という言葉で思いついたのは、二人と繋がるように魔力を流し続けることだ。毎日、眷属の名付けで増えた魔力を二人に流し続ける。枠しかない入れ物に流し続けるように感じている。垂れ流しているという表現が正しい。多分、方法が間違っているのだろう。


 ブロッホも、ロルフもわからないと言っている。

 多分、本当なのだろう。それでも、俺は目を覚まして欲しい。マヤとして、起き上がるのか?ミルとして起き上がるのかわからない。わからないが、起きて欲しい。これは、俺の偽らざる気持ちだ。


 気を失うまで魔力を流し続ける。それでも、目覚めない。

 心臓は動いている。身体も温かい。今にも起き出しそうだ。


 ミル・・・。


 ミルの綺麗な手を見る。剣を握っていたのだろう。

 そっと、手に触れる。眠っている女の子に触れるのは、罪悪感が芽生えてくるが・・・。好奇心は抑えられない。


 柔らかい。タコのような物が出来ているが、ミルの手は柔らかい。そして、血が通っている。温かい。


 触れながら、ミルの身体に居るマヤとミルを探すように魔力を流す。

 練習を行っている様に、ミルの体内で魔力を回す。魔力が制御できれば、無駄な魔力が減るとブロッホに教えられた。眷属たちのおかげで、魔力が増えたが俺は魔力の使い方が下手だと言われた。


 ただ闇雲に魔力を、ミルに注いでいたが、触れながら魔力を流せば違った感覚になる。

 魔力が、ミルの身体に浸透していくようだ。ただ、ミルの身体が魔力で満たされると、それ以上は、こぼれ落ちてしまう。そして、時間が経過すると魔力が減っているように思える。減った分の魔力を流し込む。その時に、ミルの身体の中を魔力で探索するように流し込む。

 ただ、注いでいるよりも時間が必要になる。


 執務室で休んでいると、ブロッホが部屋に入ってきた。


「旦那様」


「どうした?眷属たちから新しい要望?」


「いえ、祭壇に居られる方の存在感が増しているようですが?」


「存在感?」


「はい。ご説明が難しいのですが、人族では強者と対峙した時に、なんとなく力量がわかると聞きます。祭壇で眠っていらっしゃる方が、昨日まではチグハグな印象でしたが、ほんの少しだけ違って感じられます」


「え?魔力が安定してきているの?」


「・・・。はい。そう考えて良さそうです」


 ブロッホは、少しだけ考えてから、しっかりとした表情で俺を見つめながら宣言した。

 今回の方法は間違っていなかった。もしかしたら、神殿に漂う魔力を、吸収しながら魔力の調整をしていたのかもしれない。俺が、垂れ流していた魔力では、駄目だったのだろう。触りながら、ミルかマヤを探すようにしたのが良かったのかもしれない。


「ブロッホ。今、時間は大丈夫?」


「はい。旦那様の用事以上に大切なことなどありません」


「・・・。ついてきて」


「はい」


 執務室から出て、祭壇に向かう。

 魔力を限界まで時間が経過している。ミルの身体から、魔力が抜けているだろう。


「ブロッホ。ミルを見ていて」


「かしこまりました」


---


 私は、今・・・。何を見せられている。私の主となった人族が、私でも難しいだろうことを簡単にやっている。

 私たち竜族は、他の魔物よりも魔力を使う技術は優れている。主の魔法を見せていただいた時に、大量にある魔力に溺れているような印象を受けた。もしかして、主は”魔法を使う”ことに”慣れては、いらっしゃらないのでは?”と考えて助言をさせていただいた。

 それから、主は毎日のように魔力制御の訓練をしていた。


 そこまでは、私も知っている。何度か、魔法を使う所を見て気になった箇所を指摘させていただいた。

 主は、それだけではなく魔力が切れそうな状態で、ヒューマと剣を使っての訓練をしたり、ジャッロたちと模擬戦を行ったり、ラトギたちと集団訓練を行っている。1対1だけではなく、1対多での戦闘訓練だ。


 ロルフ殿から、祭壇に眠る人族が、アルセイド様だと教えられた。それだけではなく、我が主の大切な人だと・・・。


 主は、人族に触れながら魔力を流し始めた。

 純粋な魔力だ。そんなことができるのか?私には出来ない。人族ならできるのか?聞いたことがない。旦那様は、無意識にやられているようだ。触っている部分から、眠る人族に魔力を流し込む。

 今までのように、旦那様の体内で生成された魔力を注いでいる状態とは違う。旦那様の魔力は膨大でも、眠る人族が吸収出来たのは、1万分の1にも満たない量だろう。だが、純粋な魔力だと違ってくる。実際に、眠る人族の身体に魔力が浸透していく、そして、人の形になるように魔力が構成されていく・・・。


 奇跡。そう呼んでもいい現象だ。形作られた魔力が固定できれば、失った組織を取り戻すことも可能になる。


 我らの主は・・・。

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