第二話 ジャイアニズム


 魔法陣に光が集まり、強く光りだす。

 目を開けていられないくらいに強く光ってから光が明滅した。徐々に、明滅の感覚が長くなっていく、光も弱まっていく。


 光だけなのに、肌が刺されたような感覚にとらわれる。


「・・・」


 肌を刺す光も弱まり、目が開けられるようになる。


 魔法陣には、ミルが立っている。


 後ろ姿でも、ミルなのはわかる。


 魔法陣の最後の光が消えた。


「ミル!」


 ミルが、膝から崩れ落ちるように魔法陣の中で座り込んでしまった。


「ロルフ!」


「わからない。にゃ」


 駆け寄って、マヤを抱き寄せるが、息はしている。目を閉じているが、身体から力が抜けているような感じがするだけだ。


 この場に置いておけない。


「ロルフ。横にできる場所はあるか?」


「居住区があります。です。にゃ」


「わかった。案内を頼む」


「はい。にゃ」


 ミルを抱き寄せて、”お姫様抱っこ”状態にする。

 軽い。俺が感じた感想は、他には考えては駄目だ。俺は、ミルを犠牲に捧げた愚か者だ。マヤは、拒否したようだったが、強制力なのか光がミルに吸い込まれるように移動したのが見えた。無事、マヤが乗り移ったのか?目を覚ませばわかるだろう。


 ロルフが案内した場所は、ホテルのような場所だ。廊下があり、両脇に泊まれるようになっている部屋が連なっている。


「ここは?」


「以前は、神殿に来た者たちが泊まっていた部屋です。にゃ」


「そうか・・・」


「マヤ様は、奥にある部屋に寝かせるにゃ」


 自然と”にゃ”が付いていた。段々慣れてきたのか?


「マスター。どうしたのにゃ?」


「なんでもない。部屋の掃除はどうなっている?」


「マスターのおかげで、神殿が動き出したので、自動的に掃除がおこなわれる。にゃ」


「そうか・・・。綺麗なら問題はないな」


「はいにゃ!」


 ミルを貴賓室というべき部屋にあるキングサイズのベッドに寝かせる。


「ん・・・」


「ミル?!」


「リン?」


 え?ミル?マヤ?

 寝かせたベッドから身体を起こして、思いっきり手を振りかぶって、俺に平手打ちをした。


 俺が唖然としている間に、ミルはベッドに倒れ込むように寝てしまった。


「ロルフ?」


「マスター。わからないにゃ。でも、マスターが悪いにゃ!」


「・・・。そうだよな。でも・・・」


「はいにゃ」


 ロルフも、俺と同じ考えのようだ。

 ミルなのか、マヤなのか、わからないが、動いていた。俺を平手打ちするくらいの体力があるのなら、目覚めるのも早いだろう。


「ロルフ。ヒューマたちを頼めるか?」


「はいにゃ」


 ロルフが部屋から出ていく、魔法陣で待たせているヒューマたちを呼びにいかせた。

 マヤの復活ができるかに、関わりなく、ヒューマたちは神殿に来てもらおうと思っている。仲間になってもらうための準備だ。


 ミルをベッドに寝かした状態で、俺はソファーに身体を預ける。

 打たれた頬の痛みは無いが、打たれた場所が熱くなっている。


 俺を、”リン”と呼んだのは、ミルだったのか?マヤだったのか?一瞬、マヤに見えた。マヤだったのか?

 声は、ミルだったが、マヤが俺を呼ぶ時に似ていた。感じが・・・・。しない・・・。でも、ない。

 よくわからない。


 天井を見る。

 マガラ神殿の中なのはわかっているが、すごく”日本的”な感じがする。


 ソファーも、ミヤナック家やローザスと会談をした場所に有ったようなソファーではない。うまくは言えないが、しっくりとする。安心できる。

 肘掛けに頭を載せて、足を投げ出す。目を閉じると、何も考えられなくなる。


 自分が何をやったのか理解している。

 しかし、自分が何をやりたかったのかわからない。


「マスター。マスター。マスター。にゃ」


 ロルフ。

 今の”にゃ”はおかしい。


 ん?あっそうか、俺は寝てしまったのか?


 目を開けると、目を瞑る前に見ていた天井が目に入る。

 よかったのか・・・。判断は、難しいが、マガラ神殿の居住区ホテルに居る。


 身体を起こして、ベッドを見ると、ミルがまだ寝ている。


「ロルフ?何か、あったのか?」


「心配でした。にゃ」


「心配?」


「はいにゃ。マスターは、3日間・・・。寝ていましたにゃ」


「は?3日?間違いはないのか?」


「はいにゃ。ヒューマたちを迎えに行って、帰ってきたら、マスターが寝ていたにゃ。最初は、お疲れだと思い。そのままにしたにゃ。でも、流石に・・・。にゃ」


「ありがとう。疲れていたのかもしれないな。もしかしたら、眷属にした者たちから力が集まったのかもしれない」


「・・・。はいにゃ」


 もうしわけなさそうにする。ロルフを抱き上げて、膝に座らせる。

 こうしていると、本当に”猫”だと思えてくる。


 ベッドを見ると、俺が記憶している状態と変わっていない。ミルが寝ている。


「まだ起きないのか?」


「はいにゃ。ヒューマたちにも見てもらったのですが・・・。にゃ」


「何もわからないのか?」


「はい。今は、長たちに何か知らないか聞きに戻っているにゃ。あと、食料も取りに行っているにゃ」


「そうか、食料・・・。あぁマジックバッグは俺にしか使えなかったな」


「はいにゃ」


「悪かったな。取り出せる場所はあるか?」


「貯蔵庫があるにゃ」


「案内を頼む」


「はいにゃ」


 起きた時に、身体から何かが抜けるような感覚になり、跪いてしまった。


「マスター!あっ・・・。にゃ」


「大丈夫だ。少し、寝すぎただけだろう」


「・・・。こっちにゃ」


 もう大丈夫だ。俺は、大丈夫だ。

 立ち上がる。今度は、足にも、膝にも、腰にも、しっかりと力が入る。伸びをするが、問題はない。


 ロルフが部屋の出口で心配そうな表情で俺を見ている。

 大丈夫だと言ったのに心配性なことだ。一歩踏み出す。問題はない。しっかりと歩ける。部屋から出ると、ロルフが、先を少しだけ歩いて振り返る。


 居住区ホテルの廊下を抜けて、祭壇とは反対側に向かう。

 貯蔵庫は地下にあるようだ。階段を降りていくのだが、問題はない。しっかりとした足取りだ。力も問題はない。


「ここにゃ」


「ありがとう」


 厳重な扉を開けて、中に入ると、外気温よりも少しだけ・・・。1-2度、気温が低い感じに鳴っている部屋だ。


「ここに出せばいいのか?」


「はいにゃ。扉を閉めると、時間が停止する部屋にゃ」


「へぇすごいな」


「はいにゃ」


 ロルフの指示に従って、マジックバッグから食料を出していく、村長クズの家や、村の貯蔵庫から持って盗んできた、食料が大量にある。


「ロルフ。魔物の死体も少しだけだがあるがどうしたらいい?」


「問題がなければ、魔力に還元するにゃ。食べられる物や、素材に使えそうなら、ヒューマたちに言って、解体させるにゃ」


「わかった。任せる」


「にゃ?」


「ん?」


「マスター。ヒューマたちが、貯蔵庫に入っていいのかにゃ?」


「入らなければ、解体が出来ないし、食べ物も無いぞ?」


 何か、話しが噛み合わない。

 もしかして・・・。


「ロルフ。貯蔵庫の物は、皆で分け合うための物だ。神殿のために使う物だと思ってくれ」


「!!いいのにゃ??」


「いいぞ。その代わり、ロルフたちが持ってくる食料を俺がもらうこともあるだろう」


「それは、はじめから当然だと思っているにゃ。マスターは、マスターなのだから、当然にゃ!」


 やっぱり・・・。

 俺の物は、俺の物。みんなの物も俺の物。ジャイアニズムを押し付けられるとは思わなかった。命までも、俺に差し出しそうな勢いだ。


 ヒューマたちは、仲間にはなれるが家族ではない。

 皆と、しっかりと話さなければならない。


 自分を大事に、家族を大事に、部族を大事に、それから俺のことを考えて欲しいと伝えよう。


 仲間が欲しい。


 家族と静かに暮らしたい。

 俺のささやかな願いは無理な願いだったのか?

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