第十七話 今後の方針


「リン。それで、今後の方針は?僕のオススメは、アゾレムの領都に乗り込んで、街中に火を放つかな?魔狼で、魔法が使える者に頼めば証拠も残らない」


「・・・。ミトナル。さすがにそれは・・・。それに、アゾレムが苦しまないのは、俺的にはなしだな。火を着けたら、簡単に終わってしまう」


「そうだった。特に、立花は苦しめないと駄目。トラウマが産まれるくらいにしたほうがいい」


「俺も同意見だな。そうだな。この村が盗賊の根城になるのもいいけど・・・。ロルフ!」


『はい。マスター』


「この村に、転移門を設置したり出来るか?」


『マガラ神殿が稼働し始めれば可能です』


「ヒューマたちに任せている転移門を移すのは可能か?」


『可能ですが、ヒューマたちへの、説明が必要です』


「そうだな。村で、領主たちに対抗しようと思ったら、今の戦力では難しいか・・・」


『1度や2度の戦闘は大丈夫だと思いますが、永続的に支配するには、力不足です』


「力不足か・・・。確かに、3種族で、リザードマンと狼と栗鼠だからな」


「ねぇリン。気になったのだけど・・・」


「ん?どうした?」


 ミルが話にはいってきたが、ロルフの声は聞こえていないはずだ。


「力不足とか言っていたけど、リンが魔物を眷属にする条件はあるの?」


「え?どうして?」


「僕を、ここに誘導してきた狼たちは、リンの眷属でしょ?」


「そうだけど・・・。条件か・・・」


 ミルに、条件として考えられる内容を説明した。


「そうなると、話せると眷属に出来る可能性が高いということ?」


「そうなる」


 ミルが言っている内容で概ね間違っていないだろう。

 交渉が出来ない限りは、眷属にもなってもらえない。魔物と対峙して、屈服させることで、従わせることも出来るだろうが、”パス”がつながらなければ進化も出来ないだろう。

 ミルは、それだけ聞いて何かを考え始めた。


「ロルフ。ヒューマも言っていたけど、魔物の基本は”個は全”なのだろう?」


『一部の上位種は違いますが、進化前の個体は”個”はないです』


 ロルフに、魔物に関する認識を確認している時に、ミルは難しい顔をして何かを考えていた。


「ねぇリン。さっきの話だけど・・・」


「ん?”さっき”の話?」


「あっうん。戦力になるような魔物を眷属に・・・。って、話だけど、僕の育った村の近くにある。ヘルズ森林の中心部には”エルフの里”があるけど、昔から里の近くに、人の言葉を理解する、オークとゴブリンとコボルトが集落を作って住んでいる・・・。と、言われている」


「え?」


「リンの条件にぴったりだと思う」


『マスター。ミトナルの意見に賛同します。ヒューマと一緒に向かえば、可能性が高まります。アウレイアとアイルを連れていけば、探すのにも苦労しないと考えます』


「ミル。その魔物たちが居る場所はわかるのか?」


「ごめん。僕も、話を聞いただけで・・・。それに、村にはちょっと・・・」


「俺は、人型の魔物は配下に加えたい。ミル。途中まででも案内を頼めるか?村には行かないで済むのなら行かない」


「うん!もちろん!」


 ミルの顔が、嬉しそうな笑顔になる。

 両親の話は驚いたが、証拠がない話だ。それに、和葉の両親も巻き込まれたのは間違いが無いのだろう。敵は、立花であり、山崎だ。


 マヤを殺した奴らにも報いが必要だ。そのための力を得たい。


「ロルフ!ヒューマに連絡をしたい。アウレイアやアイルを使者に出せば大丈夫か?」


『はい。眷属同士は、認識できますので、アウレイアかアイルかリデルが使者に出向けば、ヒューマには伝わります』


「わかった。アイル!眷属を何体か連れて、ロルフと一緒にリザードマンに使者として行ってくれ」


『はっ』


 草むらに控えていたアイルが尻尾を高速に振りながら姿を現した。

 気配を感じていたから、近くに居ると思っていたけど、間違いではなかった。


『マスター?』


「ロルフは、優秀だから、一人でも大丈夫だとは思うけど、アイルに乗っていけば早いだろう?それに、ロルフが使者となってくれれば、俺も安心だ。信頼しているぞ」


『わかりました。アイルと向かいます。マスターは?』


「俺は、アウレイアとリデルと一緒に、ミルの村に向かう。オークたちとの接触は、ロルフたちが合流してからにする」


『わかりました』


 ロルフは、それだけ話をして、アイルたちを呼んで一言二言の話をして、俺の前に整列してから、遠吠えをしてから、走り去った。

 ヒューマが居る、マガラ森林に向かっていった。


「さて、ミル。気がついていると思うけど」


「うん。僕の産まれた村に行くのだよね?」


「そうだな。でも、村ではなく、森の中で過ごそうと思うけど、いいか?」


「うん。それなら、僕も大丈夫。でも、一度、パパとママのお墓には行きたい。遺骨もなにも無いけど、挨拶はしたい。”育ててくれてありがとう”と伝えたい」


「わかった。一緒に行くのは、狼のアイルたちと栗鼠のリデル。それと、眷属たちだ」


「村はどうするの?」


「アウレイアの眷属が見張っていれば、大丈夫だと思う。そもそも、逃げ出そうとしても正面からなら勝手に出ていってくれていいと思っている。そうだ。アウレイア!村長の遺体は、洞窟に放置してあるのだよな?」


『はい。アンデットになってしまった場合に、速やかに排除するために、眷属が見張っています』


「村の中心に配置させられるか?」


『可能です』


「アウレイアたちの存在を隠しながらだぞ?」


『はい。問題はありません』


「頼む」


 アウレイアに無茶振りをしたと思ったが、二つ返事で実行を了承した。眷属に頼んでいる圧力を緩和させた。逃げ出すしかない村を見捨てる理由が出来たのだ、村の者たちは散り散りになるのだろう。水も、食料もなくなって居る。リデルの眷属からの報告で、村人が村長の家に入って家探しをしていたらしい。村長が不正に貯めた金が狙いだったのだろう。多くの村人は知っていたのだろう。もしかしたら、村人の全員で不正を働いていたのかもしれない。


「ミル。アウレイア。リデル。移動しよう」


 3日後に、ミルの案内で、ヴァズレ領にあるヘルズ森林に到着した。アイルの眷属が一体だけ先触れとして来た。

 1日後に、ロルフとヒューマを連れて合流できるらしい。タイミングとしてはベストに近い。リデルの眷属が、ミルが言っていた、オークとゴブリンとコボルトの集落を探しだした。半日の距離にあるようだ。


『マスター』


 翌日、ロルフたちが合流した。

 ヒューマに、ミルを俺とマヤの仲間だと紹介した。


「マスター」


 ヒューマが話しかけてきた。魔物が喋るという状態に、ミルが最初はびっくりしていた。ヒューマからの説明では、リザードマンたちの進化が落ち着いて、ヒューマが恩恵を受けたようだ。俺の眷属としての強い思いから、念話スキルが進化して”会話”になった。


「ん?」


「オークとゴブリンとコボルトですが、我らと同じ状態だと推測します」


「え?」


「初代様に名付けして頂いた者や末裔ではないかと思います」


 もし、それならリザードマンと同じように会話が成立するかもしれない。

 ヒューマが、集落を訪れて説得を試みると言ってくれた。ロルフが一緒に行けば、集落に居る魔物たちも安心するだろう。


 俺は、ミルとアウレイアとアイルとリデルとヘルズ森林で待っていた。

 そして、ヒューマとロルフが二日後に戻ってきた。


 目の前に、オークとゴブリンとコボルトが来ている。

 跪いているのは、リザードマンの時と同じだ。そして、それぞれの種族の長が初代から名を授かっていた。目の前に居るのは、次の長に決まっている者だ。集落をまとめている者だと紹介された。


「今の話では、皆が俺の眷属になるのに同意しているのだな?」


「「「はっ」」」


 オークとゴブリンとコボルトに、名付けを行った。


 ミルは、不思議な物を見る表情で、俺が行っている名付けを見ている。

 そんなミルを俺も、観察をしていたが、コボルトに名付けを行って、ミルに話しかけようとした時に、意識が途切れた。


 今後の方針として、一度マガラ神殿に戻ろうと思っていると伝えたかった。


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