第十六話 告白


「リン。何が有ったの?」


 ミルが俺に気を使っているのがわかる。マヤがいないことを、俺に問いかけてこない。それに、魔狼たちの存在も気になっているのだろう。


「ミル。どこまで知っている?」


「え?僕は、さっき説明した通り、リンとマヤがマガラ渓谷に落ちたと聞いて・・・」


「そうか、ナナは何も言わなかったのか?」


「ナナさん?聞いていないよ?なんか、王都に使いを出していたけど・・・」


 ミルは、俺から目線を外さない。


「そうか、俺とマヤが、血がつながった兄妹では無いのは?」


「マヤから聞いた。でも、黙っていて欲しいと言われた」


「そうか、マヤは知っていたのだな」


「うん。ごめん」


 ミルが、俺から目線を外して、うつむいてしまった。

 別にミルが悪いわけではないが、批判するような口調になってしまったのだろうか?


「悪い。別に、ミルが悪いわけじゃない。俺がはっきりとしていればよかった」


「ううん。それで?」


「マガラ渓谷に落とされそうになったのは本当だ。それで、村長の手首を切り落として逃げようとしたが、マヤがマガラ渓谷に落とされた。俺は、マヤを助けるために、マガラ渓谷に飛び込んだ」


「え?」


「そう、マガラ渓谷に落ちたのは間違いない。だけど、俺は助かった。マヤは・・・。サラナとウーレンも死んだ。一緒に落ちたことになっていると思う」


「リンは、どうやって・・・?」


『ロルフ!』


『わかっています。ミトナル殿なら問題はありません』


『よかった』


 ロルフが、部屋に入ってくる。

 ミルは、剣を探すがマヤが使っていた机に置かれていて、距離がある。俺の前に、身体を入れる。


「大丈夫だよ。ミル」


「しかし、この気配は、僕が戦っている間に、リンだけでも・・・」


「大丈夫だよ。落ち着いて、鑑定で見ればわかるよ」


「え?あっ。リンの眷属?精霊?どうみても、猫なのに?」


「失礼な!精霊だ!」


「ミル。この精霊だと言い張っている猫はロルフ。俺を助けてくれた」


「マスター!精霊型の猫。違う!猫型の精霊です!」


「はいはい」


 緊張していたミルの表情が和らいだを見て安心した。


 ロルフが主導して、マガラ神殿の説明をミルにしてくれる。

 それから、多少の誇張があったが、俺がマガラ神殿で目を覚ましてから話をロルフがミルに説明してくれた。


「リン。村はどうするの?」


「もう何もしない。村長には、報いを受けてもらった。サラナとウーレンに命令した両親にも、自分たちがしたことを理解してもらった。食料も、水も、金銭も無い状況で、何か出来るのならやってみればいい。それに、領主に駆け込めるのならそうしたらいい。どうせ、アゾレムは潰す。奴から、全てを奪ってから、生きていることが苦痛だと思えるようになるまで痛めつける。”殺してくれ”というまで奪い続ける」


「リン」


「ミルは、止めるか?」


「止めない。でも、リンが苦しむのなら、僕がアゾレムを殺す。リンに恨まれてでも、僕がすべてを終わらせる」


「わかった。ミルに愛想を尽かされないように、振る舞わないと、ダメだな」


「大丈夫。僕は、リンの味方」


「ありがとう。俺が間違っていると思ったら、ミルが俺を止めてくれ」


「わかった」


 どこか寂しそうに頷いてくれるミルを抱きしめる。

 俺が出来るのは、それだけだ。ミルは、少しだけびっくりしたように声を上げるが、俺の腕の中に収まって身体を俺にあずけてくれる。


 ロルフは、空気が読める猫なので、姿を消している。


「俺は、やることがある。ミルは、休んでいてくれ」


 抱きしめたまま、ミルに予定を告げる。


「僕も手伝うよ?」


「いや、ミルには悪いけど、俺が・・・。ニノサとサビニの子供として、俺が”やらない”と・・・。俺がしなければならない」


「え?」


「ニノサとサビニの荷物を燃やす。天国ヴァルハラがあるか知らないけど、向こうで困らないようにする。それに、村の連中や盗賊が使うのだけは我慢できない」


「わかった。僕は、マヤの荷物をまとめる。さっきの、ロルフの説明では、マヤは戻ってくる。その時に、荷物が無いと悲しむ」


「そうだな。頼む」


「うん」


 ミルをマヤの部屋に残して、ニノサとサビニが使っていた部屋に向かう。荒らされて居て、実際には何か盗まれているかもしれないが、残っている物を村が見える場所に集める。種火は既に消えてしまっている。枯れ草を集めて火を付ける。


「父さん。母さん」


 上がっていく煙を見ると、涙がこぼれてくる。

 神が実在する世界だ。俺は二度も家族を失うほどのことをしたのか?神がそれを”よし”とするのなら、俺は神だとしても復讐をする。神だって殺してみせる。


「マスター」


「ロルフか?」


「マスター。どうされますか?」


「力だ。力が必要だ。俺から、父さんと母さんと妹を、家族を奪っていった奴らよりも・・・。力を得るためなら・・・」


「マスター。それならば、マガラ神殿を活用してください」


「ん?」


「神殿の力を十全に使えば、権力者と対等以上の力を持てます。そして、侵入不可能なヴァル・デ・ハラ島を手中に収めてください」


侵入不可能なヴァル・デ・ハラ島?」


「はい。大陸は、円状になっているのはご存知ですか?」


「知っている」


「中央がどうなっているのかは?」


「湖というか海だろう?外側は、比較的に弱い魔物が多いけど、中央の海は、岸から少しでも離れたら大型の魔物に襲われる」


「はい。正しいのですが、正確には、中央の海の中央に島があります。そこが、何人も立ち入ることを許さない。神々が求める島。侵入不可能なヴァル・デ・ハラ島です。その中央に、ある神殿が観測者アドラステーア神殿です」


「アドラの?」


「はい。アドラステーア神殿を手中に押さえれば、大陸のすべてを”観測”できます」


「・・・。わかった。直近の目標は、マガラ神殿を活性化させて、権力者との繋がりを作る。その後で、侵入不可能なヴァル・デ・ハラ島に渡る」


「はい。マスターなら可能な方法があります。スナーク山に住む、飛竜種を眷属に加えれば、侵入不可能なヴァル・デ・ハラ島に渡る方法が手に入ります」


「そうか、各地を周って眷属を増やせば、俺の力も増えるのだな」


「はい」


 人の気配がした。

 今、この場に居るのは、俺とミルだ。振り返らなくてもわかる。


「ミル」


「うん。リン。僕も、リンの両親の為に祈っていい?」


「あぁ」


 ミルの為に身体を横にずらす。ミルは、頭を地面に付けるようにして、祈り始める。謝罪をしているようだ。


「リン。僕の両親も、アゾレムに殺された。命令したのは、ティロン。山崎。アゾレムで行政官と執行官を兼任している。そして、日本で僕の両親を殺したのも、山崎の命令を受けた連中」


「え?」


「リン。僕の両親は、神崎凛の両親が死んだ原因。証拠は、何もない。でも、山崎が絡んでいて、後ろに立花が居る」


「・・・」


「リン」


「ミル。いや、和葉。その話は、本当なのか?」


「わからない。調べてもらっている最中に、僕たちは・・・」


「そうか、それなら、和葉には生きて戻ってもらわない」


「え?」


「だって、和葉の両親の汚名を雪がれる可能性があるのだろう?」


「・・・。うん。でも、リン。僕は、一人になるために、生き残るのは・・・」


「そうか、俺と一緒か?」


 ミルは、涙を拭かないで頷いた。

 俺も、和葉も、生き返っても一人だ。それは変わらない。父が、母が、悠が生き返ってくるわけではない。


 それから、ミルに和葉が知っている内容を教えてもらった。


「そうか、アゾレムは完全に俺の敵だな」


「うん。彼らは、リンのおかげで、私たちには気がついていない。でも、それも時間の問題だと思う」


「?」


「フェムやイリメリたちが、ギルドを立ち上げれば、嫌でも目立つし、日本の知識と結びつける。そこに、リンが出入りすれば、自然と”神埼凛”と結びつけると思う」


「そうか、そうなる前に、茂手木を探さないと・・・」


「茂手木くん?」


「あぁ奴が、このゲームの鍵を握っている。奴を説得して仲間に引き入れることができれば、俺たちが望んでいる状況に持ち込める」


「え?」


 驚く、ミルには悪いけど、立花と山崎たちとの関係がはっきりとしたからには、茂手木に協力を求めなければならない。

 奴の知識が鍵を握るのは間違いではないだろう。ギルドを大きくする為にも、協力してもらわなければならない。そして・・・。

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