第十三話 コンタクト

 マヤと二人で、食堂に向かった。

 昨日も入ったのだが、今日は昨日よりも緊張する。マヤが隣にくっついているのも理由の1つだが、奥からの視線が痛い。


 食堂に入ると、店主が近づいてきた。


「おすすめ2つ」

「エールはどうする?」

「エールはいらないので、何か酒精が入っていない物を2つ付けてください」

「はいよ。二人分で2,500レインだ」


 銅貨25枚。貨幣価値は、わかったが相場が解らない。言われた金額をテーブルに置いておく。

 料理を持ってきたときに、持っていくだろう。


「おぉ座って待ってろ」


 店の奥で女性が三人何か話している。

 一人は重久である事から、残り二人も、転生者である可能性が高い。三人の話し声が聞こえてくる。


『あの人・・・・エー・・・酒精がない・・・・言っていたよ』


 とぎれとぎれだけど話はわかる


『あっ・・人・・・パシリカの時・・・確認したけど違ってた』


 重久が否定した。ジョブまでは覚えていなかったようだが、真命が違っていたから、転生者ではないと判断したらしい。やはり、だれかを探していたんだろう。


「おぃフェム。これ持っていってくれ」

「はぁ~い」


 重久は、店長から料理を受け取って、僕達のテーブルに持ってきた。


「やぁフェム。食べに来たよ」

「おっありがとう。覚えていてくれたんだね」

「もちろん。こっちは、妹のマヤ。マヤ。こちらは、フェナサリムさん。ここの看板娘らしい」

「「よろしく」」


 二人で挨拶を交わしてる。

 運んできた料理が、美味しそうに湯気を出している。


 野菜と肉を焼いた物と、細かく刻んだ野菜スープと硬い黒パンのセットだ。


 価値の鑑定ができるかなと思い鑑定をしてみたが、一個一個の食材やお皿の価値になってしまってよくわからない事になってしまった。


「ねぇリン。すごくきれいな人だね。どこで知り合ったの?」

「ん?何?ゴメン聞いてなかった」

「むぅ~。フェナサリムさんとはどこで知り合ったの?」

「あぁパシリカの時に前に居た人で、昨日この店に来た事を、覚えていて話しかけてくれたんだよ」

「へぇそうなんだぁリン。ああいう人が好きなの?」

「何、嫉妬しているんだ。そんなんじゃないよ」


 重久の冷たい目線が突き刺さる


「ねぇ本当に妹?」


 いつの間にか、重久が空いている椅子に腰掛けていた。


「妹だよ。それ以外に見えるの?」

「どう見ても恋人同士にしかみえないよ?」


 マヤは、嬉しそうに下を向いていた


「暫くはニグラにいるの?」

「どうかな。パシリカが目的だからな。ちょっと訳ありだし、明後日には、戻る商隊があれば、一緒に行こうと思っているよ」

「そうなんだ。せっかく、マヤちゃんと友達になれると思ったのに・・・」


「いいよ。友達になろ!」


 そう言って、マヤは手を差し出した。


 ”あっ”と、思ったが、顔に出さないでやり過ごせた。


 重久はマヤと握手をしてステータスを確認したんだろう。


 手を離すと

「うん。これからよろしくね」


 と、言葉を交わして、重久は二人の所に戻っていった。マヤが転生者かどうかを話しているんだろう。


 一人は重久で間違いはない。もう二人は誰だろう?ひとみの可能性は高い。そうなると、もう一人はひとみの友達だろう。

 今はそれよりも、食事をして宿に帰ろう。食事をしながら、念話をマヤに繋げた


『!!!リン』

『そうだよ。そのまま食事しながら聞いて』

『うん』

『ポルタに帰るのは当然なんだけど、その前に確認しなきゃならない事が出てきそうなんだよ。宿で後で説明するな』

『うん』

『それと、今日から寝る所は別々な』


「えぇぇぇぇ!!!!!」


 念話が切れる。どちらかが声を出してしまうと切れるのかもしれない。


「マヤ。落ち着いて座って」

「ヤダ。絶対にヤダ。ヤダったらヤダ」

「マヤ・・・・」

「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ。ヤダったらヤダ」

「そんなに」

「うん」

「・・・・。解った今日は昨日と同じにしよう。次の宿からな」

「・・・・(ヤダ)」

「解ったよ」

「うん」


 マヤをなだめながら食事を済ませて、宿に戻った。


 宿の部屋に入って、念話を繋げた。


『ねぇリン。念話する必要があるの?』

『別にないけど、慣れておこうと思ってね』

『ふ~ん。そうなんだ』

『マヤ。頭の中で違う事考えてみて』

『うん。・・・・・・・』

『考えた?』

『うん。そうか、考えただけじゃ伝わらないんだ。伝えようと思わないとダメなんだね』

『へぇリン。やってみて』

『マヤ。可愛いよ(大好きだよ。マヤ)』

『・・・・リン』

『何?伝わったのなら言ってみて・・・』

『”マヤ。可愛いよ”って聞こえたよ』

『そうか、それだけ?』

『うん。それだけ。えぇぇぇ何考えたの?教えてよ』

『ダメ。念話使っていると疲れるね』

『そう?私は大丈夫だよ』


 自分のステータスを確認した。魔力が20/80となっていた。念話は魔力を使うんだ。マヤは魔力が膨大にあるから、同じだけ使っても疲れなかったんだ。


 念話を切った

「マヤは、魔力が多いから疲れなかったんだね」

「へぇー」


 ステータスの確認や、魔法の確認もしたいとはおもうけど、まずは、マジックポーチの確認をしないとこれからの予定が、立てられない。

 マヤに、マジックポーチの整理をするから眠かったら寝ていいよとだけ告げた。

 背中から抱きつきながら、僕の作業を、見るようだった。


 マジックポーチに手を入れた。


『万物鑑定で、マジックポーチをスキャンしますか?』


 !!。もちろん実行を選択した。

 暫く待っていると、スキャンが終わったのか、頭の中に一覧が出てきた。


・手紙1個

・書類1個

・コボルト魔核74個

・魔核999個

・魔核999個

・白金貨15枚

・大金貨60枚

・金貨685枚

・銀貨110枚

・銅貨85枚

・黒パン(黴)5個

・(腐敗)999個

・(腐敗)999個

・初心者の弓2個

・木の矢979個

・石の矢999個

・木剣1個

・木盾1個

・鉄剣1個

・鉄盾1個

・羊皮紙10個


 一度では、表示しきれないほどに、並んでいる。でも、これで整理しなくて済みそうだ。

 カビた黒パンと何かが腐った物は、早急に捨てたいけど、どこに捨てたら良いんだ?


 マジックポーチの中は、少しとはいえ時間が進む事を忘れていたんだろうな。それで”生もの”を入れて、腐らせたのだろう。

 それにしても一財産あるな。書類も手紙も単位が個になっているのは愛嬌だろうな。それにしても、日本語なのか?それとも、こっちの言葉なのか?自動翻訳されているって事も考えられる。考えるのも面倒だし自分が見れればいいか、どうせ自分しか使えない袋なんだからな。


「マヤ。終わったよ・・・マヤ?」

 抱きついたまま眠ってしまったようだ。身体も拭かないで寝てしまったマヤを起こさないように寝床に移動させた。


 ニノサとサビニのおかげで、暫くは何するのにも苦労しないだろう。


 これからの方針を考える事ができる。ただ、情報が少なすぎる。上位隠蔽とでも呼べば良いのか、真命を改竄出来るスキルのお陰で他の転生者よりは少し優位に進められそうだが、基本スペックが低い事や、使いみちが解らないスキルが多い。まずは、スキルの確認と転生者の確認をしてからだな。


 幸いな事に、重久の所在は解った。

 重久の所に、瞳たちは集まるのだろうか?


 僕は、地球に帰りたいのだろうか?

 答えはノーだ。未練は何もない。強いて言うのなら、今月末に発売されるはずだった、閃○軌跡の最新版の予約が無駄になってしまいそうだって事と、来月から始まる○スラのアニメを見れないことくらいだな。異世界と言うか、こっちの世界で生きていく事を選びたい。そのためにはどうしたらいいんだろう。

 アドラの出した条件は抜け道がありそうだ。バトルロワイヤル的な感じに最初は捉えたが、僕が”異世界に残る”と、考え方を変える事で、大分見え方が違ってくる。

 全部で21人の転生者が居る。全員が今まで生き残って、パシリカを受けたと仮定して、残りを”有名になる”と、いう曖昧な基準で戦う事になる。王にでもなって大陸中に、名前を広めるのが一番のような気がするが、年数から考えて非現実的だ。それなら、地道に活動してもそれほど違わないのではないか?

 いやそうじゃない。一人で出来る事はやっぱり少ない。それに情報伝達方法が発達していない世界では地方の有名人ではたかがしれている。


 まずは、仲間を増やすのが良いだろうか?

 ゲートに入る前の感じでは、和葉は仲間になってくれるだろう。

 ひとみたちも集まって、なにかをするつもりなのではないだろうか?それに、協力を申し出ればいい。和葉を除いた8人との協力体制が作れれば、僕の望みが叶えられるのではないか?


 重久や瞳たちが、なにかやりたいのなら、出資してもいいだろう。

 資金的な援助は何をやるにしても必要だろう。


 ジョーカーなのが、茂手木だが、立花たちとは交わらないだろう。どんなチート能力を得ているのかわからないが、独自路線を走るだろう。


 そう考えると、瞳と重久のグループが女子8名。立花たちが、10名。僕と和葉。それに、茂手木がジョーカーとして加わる。


 立花たちは、国取り合戦や、僕たちを殺す事に躊躇しないだろう。

 重久が中心になっているように思える、グループがどういう動きをするのかは知っておきたい気がする。僕の素性を申し出れば、話くらいは聞いてくれるかも知れないけど、リスクが大きいように思える。


 それに、重久に打ち明けるにしてもタイミングを逃してしまった感じがある。この宿屋で、ひとみや和葉を探すこともできそうだが、明後日・・・早ければ、明日になれば、領主のバカ息子たちが、ニグラに到着してしまうだろう。安宿にあの馬鹿が泊まるとは思えないが、ウーレンやサラナは泊まるかもしれない。まだ誰が味方か解らない段階では、接触しないほうがいいだろう。


 ”有名になる”アドラから提示された条件だ。

 これが、あまりにも曖昧すぎる。立花たちには協力できない。重久やひとみたちが1つにまとまるのなら、状況次第では協力できる。俺だけでは、和葉が協力してくれたとしても・・・そもそも、なんで、和葉は、俺に”あんな”事をしたのだ?

 それがわからないと、方針も決められない。

 時間が来るまで、マヤと二人でひっそりと過ごすというのもいいかも知れない。そこで、死ぬ事になったとしても・・・ダメだ、そうなったら、マヤを残して逝くことになってしまう。残される者の辛さは・・・。やはり、なんとかして、こちらに残る方法を考えなければならない。

 立花たちから逃げて、重久たちに”資金面”でサポートして、そこから譲歩を引き出すか?資金ブーストなんて、ゲームでは初期段階しか役立たない。そう考えると・・・・。


 ごちゃごちゃ考えすぎた。堂々巡りになっている。

 蛇が出るかわからないけど、巣穴に手を突っ込んでみようか?


 今わかっているのは、食堂の娘が重久だって事と、そこに二人転生者らしき人間が居ると言う事だった。

 それなら、まずはこの二人を確認して話をするしかないだろう。

 その時に、こちらが示すカードはやはり、僕が”神崎凛”である事だけだろうな。


 どうやって知らせるか?

 改竄を戻すのは得策ではない。と思う。


 手紙を渡して・・・・どうやって?


”コン・コン・コン”

 ドアをノックする音がした。

 マジックポーチから剣を取り出した。


 ドアの下から羊皮紙が差し入れられた。

 警戒しながら、羊皮紙を受け取る。

 ドアの前の人間は、少し経ってから立ち去ったようだ。


 羊皮紙には、”日本語”が書かれていた。


★☆★☆

 お話ができればと思います。

 明日、ニグラの門でお待ちしています

           ミトナル=セラミレラ・アカマース

                      鵜木和葉

★☆★☆


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