医者


医者が聴診器をおれの臍の上に置いた

ぽんぽんもう片方の手で叩いた

何か大切なことをじっと聞き取ろうとしていた

ようやく口を開いた

「ばらばら骨折です」

診断された

「もうちょっとちゃんと診断してくださいよ」

おれは言った

実際、幼稚園児の運転する三輪車に撥ねられて死にそうなのだ

医者の胸倉を掴んで恫喝した

「おいっ」

医者は「わかりました」と言ってその後げほげほ演じるように咳をした

そして白衣のポケットの中からあんぱんを取り出すと早速それを頬張り始めた

一体こいつは何がわかったのだろう

まるでおれなんかそこにいないかのような態度

目も合わせない

これではおれに殺されても文句は言えないだろう

医者は別の次元へと到達した

そしてもう二度と戻っては来ないのだ

よくある

だがそのよくあるの中身を誰も知らないのだ


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