地球圏外デート


「あんた無免許の匂いがするわ」

と言われ

おれは「ははっ」と内心、大いに焦っていた

ジェット噴射をしながら天空を裂くように垂直に飛び

もう後戻りは出来ない

この星とさよなら

彼女と二人、逃亡することに決定だ

ハッピーエンドは音だけだった

実際にはとんでもない誤算しか待ち受けていなかった

坂道で転がるスイカを素足で追いかけるような青春だと思っていたのに

洗脳から解き放たれたおれを待ち受けていたのは陰惨、極まりない現実だった

ここではない何処かでようやく幸せになれると思っていたのに

今度こそはと故郷の星から遠く離れた場所でデート

遊園地ではメリーゴーランドが発情期を迎えていた

とんでもない速さで駈け回った

口を開けると頬の肉が削り取られるようだった

ようやく解放されよろけながら降りて入ったレストラン

そこでランチ

本日のおすすめは新鮮なゴリラ肉

その刺身

ゴリラと言ってもあの星で見たゴリラではない

こちらのゴリラと呼ばれるものは脚が七十二本、生えている

それを笑顔で差し出してきた

店内では下半身、裸の少年が終始、泣きじゃくっていた

どうやらデザートのバウムクーヘンに毛細血管がはしっていたらしい

………

おれと彼女は互いに無言のまま結局、腹ペコでバスに乗り込んだ

バスに地球人はおれたち以外、誰もいなかった

「今日からこの星でお世話になります」

そう言ったおれたちの真似をしてその場にいた宇宙人たちもぺこりとお辞儀をした

「地球の水、飲みますか?」

天然水を差し出すとペットボトルごと丸呑みした

背後の乗客がおれの腕時計の秒針に向かって吠えだした

「これは生き物ではありません」

隣りの乗客がよろけたふりをして財布を盗んでいこうとした

「ちょっとやめてくださいよっ」

運転手が自殺した

車内が暑くなると嫌になって自殺をするのだそうだ

バスは自動制御モードに切り替わって惑星間を瞬間移動した

凄まじい技術だ

隣りの乗客がまた財布に手をそっと伸ばした

運転手は気付くと蘇生していた

おれと彼女は互いに目を見合わせたが何も口にしなかった

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