音楽は異世界でも強い味方とかナントカ

紫桜 黄花

横笛?いえいえフルートですよ

「えっと……、ここは??」

 明治の日本みたいな町並みなのに、歩いている人々は中世のヨーロッパ風。その場に相応しくないワイシャツに緩く縛ったネクタイと膝上スカートを着た私。そして持ち物はかばんと中学からの愛用フルートのみ。

 一体ここが何処で、何がどうしてこうなった!?


 記憶として覚えてるのは、部活が終わり友達と帰りながら話して途中で別れて一人で歩いてたら気づけばここに。

 いやいや、家に着くまでの間に何があったんだよっ!!肝心なところがすっぽり抜けてる!

 覚えてないので仕方なく、場所だけでもとそこらへんの通行人を捕まえてみる。

「あ、あの~、すみません。つかぬ事をお聞きしますが、ここは何処ですか……?」

 はっ?って顔された!以外と結構傷つく……!確かにそれがまともな反応だけど!

「……ここはトゥキョーリモのウ"ィジャス。じゃ…」

「ありがとうござい………。もういない」

 なんか冷たくないか。もう少し優しくしろよ。と、グチグチ言っても仕方がないと思い至る。ポジティブシンキングは大事よね!

 まぁここが何処か分かっただけでも良しとしよう!えーっと、『東京』の『ジーザス』だっけ?確かこんな感じだったよね!でもそんな町かなんかあったっけ?

 まぁ、東京なら帰れるじゃん!駅でも探してみますか!


数時間後

 駅無い!てか、だんだん森に向かってる気がする!?

「誰だよ、東京とか言ったやつ!」

 空は暗いし人の気配もなさそうだし、まず野宿がいやぁぁぁ!!

 すぐ側にあった木にもたれ掛かる。


──もう、家に帰りたい。


 そんな時にふとある言葉が頭の中を過ぎった。

『言葉より先に出来たのが音楽って知ってる?今みたいな音楽とは違うけれど、言葉が生まれる前に音で相手と通じあっていたのよ』

『音楽は世界共通。だから困ったときこそ貴方達音楽家は音楽をもとに心と心で会話をするのよ。言葉が通じなくても音楽なら通じる。これってスゴイことなのよ』

 私が唯一仲が良かった中学の担任であり、吹奏楽の顧問の先生の言葉だ。この先生の言うことなら信じることが出来た。音楽のことはもちろん、進路のこと、友達のこと、くだらないこととか沢山話した。

 先生は音楽を愛していた。もう、恋人以上に好きで、言葉に表せないぐらいに。

 先生の言う音楽は心と一緒だった。

 頭で考えるより手が動いた。気づけば、愛用のフルートをケースから出して持っていた。そしてフルートを口に当て構える。

 スッと息を吸う。自分の創りたい音楽を息と同時に吐き出す。フルートから出た一音は夜の森に響く。

 あぁ、やっぱり楽しい。考えてることなんて忘れるぐらいに。


 突然、一つの拍手が鳴った。驚いて吹くのも忘れる。音の方に向くと一人の若い男性が立っていた。その人の瞳は感動したと言わなくても分かるぐらいに輝いていた。

 吹くことに集中しすぎて、周りに気づいてなかった。

「あ、あの。その……」

「……あ、ああ!ごめん。とても美しい音だったから聴き入ってしまったよ」

 男性は言いながら私に近づいてきた。よく見たら私と同じ位、もしくは少し年上ぐらいの年。年齢に反してきっちり着た服、何かの舞踏会で躍って来ました、みたいな正装の服で私の格好を今更ながら思い出し恥ずかしくなる。髪が男性にしては綺麗な短髪のストレートに真上のアホ毛がぴよっとなっていて、ダークブラウンという私好みの髪型だ。しかも瞳の色が日本人と同じ黒で親近感が湧く。

「良い音を持っているね。君の表現もこの場所にぴったりだ」

「あ、ありがとうございます……!」

 知らない人でも褒めてもらえるのは嬉しい。ん……、褒められてるよね?

「…しかし、その楽器は見たことがないな。横笛とはどこか違うようだし」

「よ、横笛……。まぁ、似たような物…?えっと、フルート、です。知りませんか……?」

 いかにも洋風なのに、和楽器……。

「ふるーと……。初めて聞いたよ。それにしても君はどうしてここに?見慣れない格好をしているし」

「あー、えっーと…。迷子……?というか異世界トリップだったり……?」

 何言ってんのぉぉぉ!!馬鹿でも分かるよ!もっとましな言い方があったはずっ!!

「……?まぁ事情は後で聞くとして、ここは危ないから着いてきて。音が聞こえるからまさかと思って来てみたら」

 ね、と言って私の手を自然と掴む。優しく微笑みかけてくれる手は、やっぱり優しかった。

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