eLcric 〜元教師の転生譚〜 (エルクリック)

いんこ

第一講座

夕立がひっそりと息を引き取り、星が顔を覗かせる。

バスから降りた私は、所々にある赤い水たまりを避けて、そこへと向かう。

何杯目かも分からないジントニックが、氷の間をすり通って、火照った身体へと流れた。

平塚の、駅より少し外れたところのバー。

いや、少しと言うか、バスで10分揺られたから相当離れている。

横浜の祖父母の墓参り帰りに大学の同期から誘われたのは正直驚いたが、明日の予定は特にはない。

どうせならスッキリして忘れよう。

そんな軽い気持ちで来たが、財布と相談し忘れたのをいまは後悔している。


「ぁっはははは!じゃお前今無職か!!!」


「…んだようるへぇ!」


少し回ったきたのか、呂律も回らなくなって来たし、こいつもテンション高くなってきている。

そうだ。

私は無職だ。

地元の教師になって大人しく、楽に過ごすつもりがまさかのリストラ。

公務員の安定さなんて無く、あっさり切られた。

理由なんてたかが知れてる。

東京の、ある程度名が知れてる大学に入り、彼氏も作って(別れたが)田舎に帰ってきて、1つ違いのくせに生徒の評判も地位も上を行った私が気に入らなかったのだろう。

同じ年に就いた西田はそんな性根の腐ったやつだ。

実家が資産家だかで有り余ってるだろうから、おおかた上に手を回したに違いない。

バスも通らない町の学校なんて私利私欲にまみれてる。


「なぁ宇しゃ美ぃぃー。私ゃどうふりゃいいのよー。。。家戻って巫女やるひかないのー?」


半分泣き言、半分怒りで同僚こと宇佐美に愚痴る。

そう、私の実家は神社である。

そこそこ名のあるところらしく、度々来る客が媚びる姿、いずれ継ぐのだからと共に対応をさせる父、客の舐め回すような目線。

それが嫌で上京し、教員免許も取って、地元ではあるが距離を置こうと思ったのに。

無職。。。

ジントニックを飲み干し、少し荒くグラスを置く。

側面にくっ付いた氷が底に転がる。

荒々しい様子に、マスターは水を出し、宇佐美はモスコミュールを半分まで減らす。

軽く笑うだけで何も返さない。


その後宇佐美と2人合わせて追加で10杯飲み、バス停に向かった。

足元がままならなく、肩を貸して貰いながら歩いたせいでバスを逃し(次のバスは翌日だった)、仕方なく宇佐美弟に車を出して貰うことにした。

宇佐美がここまでしっかりしていたのは、単に酒に強いのもあるが、あまり飲んでいないのと、度数が少ないものばかりだったである。

こうなる事でも予想していたのか。


「10分で来るってよ。」


そう言って私を椅子に置き、突然上着を脱いだ。

まったく、昔から何考えてるか謎だ。

確かに夜だが、今日は別に寒い訳では無い。

私が潰れると分かっていたなら飲まなければ良かったのに。

そう思いながら羽織った。

いや、単に抜けているだけか。

半袖になった宇佐美を見ながら思った。

そう言えば別れる時も、「家賃が本に化けた」とか言って全額負担させられた事もあった。

が、根は優しく真面目なやつだ。

邪なことは無いだろうが、頭が痛いから今は任せよう。

そう思っていたが、ラジオ体操を始めたあたりから記憶がない。




「……!………い!…………せ!…き……よ!………。」


頭が痛い。

頼む、叫ぶな宇佐美。


「…い!…きろ!………。」


ふぶぉぁ!?

宇佐美!?

お前殴るやつだったか!?

そう言いたかったが酷い頭痛で何も出ない。

と言うか、目の前にいるのは宇佐美ではなかった。

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