十四章

第159話

 明朝。

 わずかに残る闇に紛れて、彼らは行動を開始した。

 

 エドワードは先遣隊と数人のエルフたちを連れて、大学から帝都へと向かう。

 ジャックとユミルはエルフたちを率いて、ガブリエルのプレートで、帝都の城に転移する。


 アリッサにエドワードは別れを告げ、そして、今出発の時。

 今にも泣きそうな娘の顔を撫でながら、エドワードは戦場へと赴いた。


 それと時を同じくして、ジャックたちも準備に入る。

 生徒会室から、エマのプレートを使って、ヴィリアーズ邸へと移動。

 そこから、ガブリエルの部屋へと向かう。


 ガブリエルは、ジャックが背負っていた。

 いまだに意識は戻っていない。

 だが、戻っていなくとも、彼の手とプレートがあれば、転移はできるのだ。


 屋敷はもぬけのからだった。

 人の気配はない。

 死体と死臭と、血の匂いが立ち込めているだけだ。


 ガブリエルの部屋にやってきた。

 と、そこに兵士が数人立っていることに気づいた。

 衛兵よろしく、彼らはドアの左右にたち、警戒を払っている。


 止まっている時間などない。

 ユミルが素早く弓を引く。

 そして間髪を入れず、二本の矢を放つ。

 

 短い風切り音。

 矢は見事に兵士の首を貫いた。


 崩れ落ちる兵士を横目に、ジャックたちはガブリエルの部屋に入る。

 中には、やはり兵士がいた。

 その数、およそ八人。


 彼らはジャックたちに目を向けると、途端に剣を抜いた。

 だが、エルフたちがいるとは、夢にも思っていなかったようだ。


 眩い光が、ジャックの背後からもたらされる。

 そして彼の頬を氷柱と風の刃が通っていく。


 氷柱が兵士の顔をえぐり、風の刃が胴をなぐ。

 音もなく、また悲鳴を上げる暇もなく、四人の兵士が一挙に死んでいく。

 彼らは驚愕した。

 どうしてこの場にエルフがいるのか。

 それが理解できなかった。


 だが、彼らにそんな時間はなかった。

 雷が残る四人の体を貫く。

 肉のこげる匂いと、蒸発する音が部屋に響く。


「襲撃がバレたのかしら?」


 ユミルが言う。

 兵士にナイフを突き立て、死亡の確認をしていく。


「いいや、おそらく戻ってこなった部隊の様子を見にきたんだろう」


「だとしたら、警戒を強めていそうね」


「ああ。早めに行った方がいいだろう」


 ジャックはちらりとエマを見た。

 

「……こちらです」


 緊張した面持ちで、彼女はドアを閉める。


「……ごめんね、お父さん。少しだけ我慢してね」 


 エマは、父の額を優しく撫でた。

 それから彼女は父のプレートを、ガブリエルの指の間に挟ませる。

 プレートを金の獅子に差し込む。


 扉を開ければ、薄暗い廊下が真っ直ぐに伸びていた。


「この廊下をまっすぐにいけば、城にある父の部屋にいけます」


「協力感謝する」


 ジャックは言う。

 それから、ちらりとサーシャに目を向けた。

 

「ヴィリアーズ公を運んでやってくれ。くれぐれも、無理をするんじゃないぞ」


「わかってますよ。貴方たちが言った後、すぐにここを引きあげますから」


 ガブリエルを下ろし、ジャックはドアを潜る。

 その後に続いて、ユミルとエルフが追いかける。


 エマが、そっとドアをしめた。


「……これで良かったのよね」


「ええ。あとは、あの人たちに任せるだけよ」


 サーシャはエマの肩を叩く。

 勇気付けるために。

 わずかにでも、元気になってもらうために。


 エマはサーシャの顔を見た。

 そして、彼女の励ましに答えるように、わずかに頬を歪めた。


「もう行きましょう。ここにはもう、私たちにできることはないもの」


「そうね。行きましょう」


 ガブリエルを二人で抱き起こし、部屋を出た。

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